③.本当の婚約者
レオンハルトはラノワ帝国の皇帝の第一子としてこの世に生を受けた。
しかし3歳の時に親兄弟の帝位継承争いに巻き込まれた。
母の皇妃はレオンハルトを連れ追っ手から逃げたが、レオンハルトを庇い目の前で亡くなってしまった。
事態を重く見た皇帝は嫡男であるレオンハルトの命を守るため、王都から離れ比較的友好な関係だった隣国との国境付近に行かせ、そこで争いが落ち着くまでの間暮らすよう命じた。
だがレオンハルトは目の前で母を殺されたショックからか、自分はなんのために生きているのか分からなくなっていた。
そんな自暴自棄に陥ったレオンハルトの前に、帝国と隣接する隣国の領地の少女リアーナが突然現れた。
その少女は素直で真っ直ぐな笑顔の可愛い女の子だった。
レオンハルトはその子によって少しずつ心が溶かされ、生きる意味を考えるようになった。
そしてそんな少女リアーナにレオンハルトは惹かれ始めていた。
「なぁ、リナは俺が好きだと思うか?」
リアーナを乗せた馬車を見送りながら後ろに使えていた10歳年上の従者『ジェイク』にレオンハルトはそう尋ねた。
「えぇ、もちろん。ですが本人にその自覚があるかどうかは不明です」
レオンハルトはリアーナに自分の正体を明かしていなかったが彼女と一緒になりたいと考え、いきなり婚約の話を持ちかけ彼女を驚かせようと思い立った。
『俺が皇族だって知ったらビックリするかな』と考えリアーナの驚く顔を思い浮かべながら、何も言わずに王国との手続きを済ませた。
だがリアーナの父が病に倒れたと知り、そんな場合ではないと思いとりあえず婚約のことは保留にし落ち着いてから改めるつもりだった。
しかしリアーナの父が亡くなり、するとすぐにリアーナの親の再婚などで忙しくなりレオンハルトは彼女に婚約のことを伝えるタイミングを逃し先延ばしになってしまった。
そしてレオンハルトの方も皇帝から帝都に呼び戻されすぐに皇太子に選ばれたりと忙しく過ごした。
するとその間に、別の貴族とリアーナが婚約してしまった。
レオンハルトはリアーナから届いた ”婚約をした” と書かれた手紙を読み、涙を堪えて祝福の返事を書いた。
「領地へお一人で来られた際に、きっとこのことを話したかったのでしょうね」
と従者のジェイクは落ち込むレオンハルトに話しかけた。
「俺が止めてたら、リナは婚約しなかったのか?」
「えぇ、恐らくわ」
リアーナの幸せを願い自分は身を引くつもりだった。
しかしリアーナから届く手紙には婚約者のあり得ない行動が記されてた。
密かにリアーナの婚約者の素性を調べると彼女の言う通り、報告書には女性に関連することばかりが綴られていた。
『俺ならリナだけを大事にするのに!』
と思ったが、それでもリアーナがこの男がいいと言って選ぶのであれば、自分はそこに口出しはしないつもりだった。
だがリアーナから届く手紙には毎回なにかしら婚約者の愚痴が書かかれていた。
あげく婚約者の婚の字もリアーナから届く手紙からはいつしか見なくなり『もしかして婚約解消したのか?』とレオンハルトは思った。
するとしばらくしてから婚約破棄をすると相手から言われたというリアーナからの手紙が届いた。
それも皆の前で自分を悪者にするらしいと書かれていた。
レオンハルトはそれを知り『こんな奴にリナをいいようにされてたまるか!』と強く思い、彼はすぐに行動に移した。
まずは自分とリアーナの婚約は今どうなっているのか王国に問い合わせ、都合よくリアーナの婚約破棄を言われる日のパーティーの招待状が来ていたためいつもは断っていたが参加することを決め、彼女のパーティー用のドレスを作らせた。
そしてパーティーの前日、王城で国王などと共に明日の段取りについての話し合いが行われた。
その後リアーナの父とレオンハルトは2人きりで話をした。
「いろいろ苦労のあった子です。そんなあの子を幸せにしてくれるのであれば、私は何も言いません」と話すリアーナの父にレオンハルトは「必ずリアーナさんを幸せにします」と約束をした。
そしてパーティーの日、レオンハルトは1番早く会場に入り上からホールを見渡していた。
徐々に人が集まり出した頃、リアーナが会場へと入ってきたのを発見。
特注で作らせ、今朝従者に届けさせたドレスを着たリアーナがホールの中で1番誰よりも輝いていた。
ピンクの花弁を散りばめたようなドレスは可憐なリアーナにピッタリだった。
それはまるで花の精が舞い降りたようだった。
『あの時に見た光景と同じだな』
それはコスモス畑ではしゃいでいたリアーナの子供の頃の姿と同じだとレオンハルトは思った。
『あいつ俺が贈ったって気付いたみたいだな』
リアーナの髪には白いコスモスの花が挿してあった。
「さすが俺」と言うと、そばにいた従者のジェイクに「白いコスモスを1本用意しろ」と命じた。
すぐに持ってきたジェイクから受け取った白いコスモスの花を胸ポケットに挿し、リアーナのドレスと同じピンク色のネクタイに触れ、早くなった鼓動を感じながらレオンハルトは下の会場へと向かった。
少し後ろで様子を見ながらタイミングを計り「そこまでだ!」と声を出し、ゆっくりと一歩ずつリアーナのそばへとレオンハルトは向かって歩み出した。
* ✦ * ✦ *
隣国であるラノワ帝国は、帝位継承を巡り争いが起きているとリアーナは家庭教師から学んでいた。
それも皇妃は亡くなり1人息子もそこに巻き込まれ行方不明になってしまったと。
皇帝の子供は自分と同い年だと知り、リアーナは何か困ったことがあれば力になりたいと思った。
その後にレオンハルトと出会い仲良くなり手紙のやり取りをするようになると、彼は時々自身のことを手紙に書いていた。
“自分は帝都から来ていていつかそこへ戻ることになっている、母親は家の争い事で自分を庇い亡くなった”と
リアーナには正体は明かさずとも、彼は本当のことを話していたのだ。
そのあと帝都にレオンハルトが帰ったと知ったリアーナは、『もしかして、レオが帝国の皇太子?』ではないかと思った。
そしてそれは現実となった。
今まさにレオンハルトが皇太子として目の前に現れ、それも自分の婚約者だと言っている。
リアーナには何が何だかさっぱり分からなかった。
思わず遠くにいる宰相の父の方を見ると『コクッ』と頷かれた。
どうやら自分が知らないだけで既に話は通っているようだ。
ここは黙っていれば勝手に話が進むだろうと考え、リアーナはその場を見守ることにした。
するとレオンハルトはことの経緯を話しだした。
「約6年前、俺は彼女と婚約がしたいと国王に申し込み了承を得ていた。だがその後お前も知ってる通り彼女の身に不幸があり婚約は一時保留という形になった。そのあとにお前が現れ婚約をしたが元々は俺との婚約が成立しているため、お前との婚約は無効だそうだ。さっき婚約破棄するとか何とか言ってたよな?手間が省けてよかったな」
それを聞いたダグラスは焦った様子で振り返り、国王へ話しかけた。
「陛下!今の話は本当なのですか?」と聞き、そう問われた国王は「本当のことだ」と答え、ダグラスは「納得出来ない?!」と言ってその場で騒いだ。
すると宰相が「彼女の亡くなった父であるタンエル公爵も、このことは既に了承済みです。それに君は娘と離れたがっていたようだが、何か問題があるのか?私は君の婚約後も直らない奔放な女性関係に危惧し、ご両親に向けて抗議の文を何度か送ったが返事は一度もなかった。先日、直接君のご両親に私の送った文のことを聞いたがそんなものは見ていないと仰られた。いったい何処へ消えたのか君は理由を知っているのか?」と話し、それを聞いたダグラスは顔を青ざめた。
「だっ、誰がこんな平民と喜んで結婚なんかするか!あぁ~、清々した!こんな女でいいんですか?平民ですよ?!」
とダグラスはレオンハルトにたいし何とか必死に足掻こうとした。
するとレオンハルトは勝ち誇ったような顔になって言った。
「知らないのか?宰相はまもなく公爵位を爵命されるって」
「はぁ?!」
その話を聞いたダグラスは慌てた様子で国王に「これも本当なのですか?!」と聞いた。
すると国王は「そうだ、彼女の亡くなった父親は生前自身の死を悟り、自分の持つ全て爵位を含めここにいる宰相に譲るとした。だがそれに納得しない者も多くいたため、説き伏せるまでに時間がかかったのだ」と話した。
それを聞いたダグラスは言葉を失い唖然としてしまった。
話が終わるとレオンハルトはそばにいるリアーナだけに聞こえるよう話しかけた。
「帰り俺の馬車で送るからな、リナの父さんにはもう伝えてある」
「分かった、いつの間に父様と話してたの?」
「ここ来る前にちょっとな」
そう目の前で仲よさげに話をする2人を見ながらダグラスは思った。
『あれ?こいつの顔、こんなに綺麗だったか?』
ダグラスがリアーナの顔をまともに見たのは、実はこれが初めてだった。
今までは平民だと罵り顔もろくに見ていなかったのだ。
どこかニヤつきながらまるで吟味するかのようにリアーナを見つめるダグラスを、レオンハルトのそばにいた従者のジェイクは黙って注視していた。




