④.幻だと思ったもの
それから数日、リアーナは馬車に乗りレオンハルトと共に首都へ向けて移動をし、その間2人は馬車の中で互いに自分のことをたくさん話した。
そして馬車は首都から少し離れた郊外の街にある、大きな屋敷の前で止まった。
ここはレオンハルトの母の生家で、しばらくの間リアーナはこの家に滞在することになった。
どうやらレオンハルトには首都でやることがあるらしく、自分が不在の間リアーナを任せられるのはここだと判断したようだ。
翌朝リアーナを王宮へ迎えに来たレオンハルトの従兄で7つ年上だという『ロベルト』という名の騎士が、レオンハルトとリアーナのいる部屋に呼ばれた。
「お前を正式に彼女の護衛騎士にする。俺が留守の間、必ず守れ。分かったな?」
とレオンハルトが声を掛けると、ロベルトは跪き胸に手を当て「この命にかえましても」と誓い、ロベルトはリアーナの護衛騎士となった。
その後レオンハルトは「夕方すぎには戻れると思う」と言って2人は別れの挨拶をした。
レオンハルトを見送るとリアーナは仮面を外しロベルトにだけ素顔を見せた。
自身の護衛をしてもらう以上、素顔を見せる必要があると思ったからだ。
リアーナは「これからよろしくね」と挨拶をした。
するとリアーナの素顔を見て返事を返したロベルトが、なぜが照れた顔をしたが気にせずまた仮面を被った。
リアーナはそのまま部屋の中で本を読みながら過ごした。
しばらく経ち窓の外を見ると薄いオレンジ色の空になっていたため、レオンハルトが帰ってくる頃だと気付き本を閉じた。
すると少し離れた距離で待機していたメイドが気を利かせ、リアーナの前のテーブルにお茶を差し出した。
それを見たリアーナは後に仕えていた護衛のロベルトをそばへと呼び屈ませると耳打ちをした。
リアーナの話を聞いたロベルトは無言で立ち上がると扉の方へと向かった。
だが外へは出ず近くにいたメイドの両腕を素早く後ろ手に拘束した。
メイドは驚いて「何をするの?!」と言って暴れたがロベルトが離さなかったため、メイドはリアーナに助けを求めた。
「リアーナ様!この者に私を離すように言ってください!」
するとリアーナはメイドと目を合わせ落ち着いた様子で語った。
「私がそうさせたの、あなたを捕まえてってね」
「えっ?」
そうリアーナの目の前に出されたお茶の中には毒が入っていた。
リアーナはすぐにそれに気付き、お茶を淹れた彼女を拘束するようロベルトに頼んだのだ。
そんな時リアーナ達のいる部屋の扉が外から開き、レオンハルトが中へと入ってきた。
レオンハルトは部屋の中の異様な雰囲気に気付いたが、そのまま真っ直ぐ椅子に掛けていたリアーナのそばへ行き「ただいま」と言ってリアーナを抱き寄せて彼女の髪にキスをした。
リアーナは「お帰りなさい」と返し2人は目を合わせた。
「で、あの女は何をしたんだ?」と捕まっているメイドを見ながらレオンハルトが聞き「彼女が淹れてくれたお茶に毒が入っていたから捕まえてもらったの」とリアーナが事の経緯を説明すると彼の顔が一瞬で曇った。
「なに?」と言って拘束されているメイドを睨むと、メイドは焦った様子で「嘘です!飲んでもないのに、そんなこと分かるわけがない!」と叫んだ。
それを聞いたリアーナは目の前に出されていたティーカップを持ち「ならこのまま中の成分を詳しく調べても構わないわよね?」と言うとメイドは唇を噛んで黙った。
「連れて行け」とレオンハルトがロベルトに指示を出し、ロベルトとメイドは部屋を出ていった。
そしてリアーナの持っていたティーカップをレオンハルトが受け取ると別のメイドに渡し、そのメイドも部屋を出ていった。
レオンハルトはリアーナと共に奥のソファーへ移動すると、危険な目にあわせて悪かったと謝り使用人は徹底的に素性を洗うと約束した。
* ✦ * ✦ *
翌朝、メイドを尋問した兵から話を聞いたロベルトがリアーナとレオンハルトに毒を盛った経緯を説明をした。
どうやら彼女はルビニ王国の王太后に仕えるメイドだったようで、リアーナがザフィア王国から迎えに来た馬車に乗るところを王太后は密かに見ていたらしい。
その丁重に扱われるリアーナの姿を羨んだ王太后に殺すよう命令され、すぐにリアーナの後を追いこの場所を突き止め『自分は王宮でリアーナ様のメイドとして仕えていた。ここでも同じように仕えたい』と言って潜り込み毒を盛ったようだ。
その後、万が一捕まってしまっても目的を果たしてくれたならば必ず助け報酬も支払うと王太后は約束したと自白したと語った。
「そんなことだろうと思ってた、あの人は昔から私の食事に毒を入れてたから」
そう苦笑いを浮かべながら話したリアーナにそばにいたレオンハルトは「それも全部気付いて浄化してたんだろ?」と話しかけ「そうよ、私がそれを食べてもピンピンしてるから、いつの間にか毒を盛られなくなってた」と答えた。
本来なら暗い話題になるようなことを、まるで笑い飛ばすかのように話す2人にロベルトは驚いた。
今までの経験からロベルトは人の懐に入りどんな相手でも仲良くなる術をある程度得ていた。
しかし時が経つにつれ育ってきた環境などの違いから価値観のズレが生じ、少しずつ合わなくなっていくのが人間だと思っていた。
『心から信頼し何も言わなくとも分かり会える、そんなのは幻だと思った。だがこの2人は俺が幻だと思ったものを見せてくれてるんじゃないか?』
ロベルトはリアーナの護衛としてそばに仕えるようになり、レオンハルトとリアーナが互いに接する姿を見て相思相愛とはこういうことではないのかと思うようになった。
「リナに会えて良かった」
「私もレオに会えて良かった。もっと早く私を見つけてくれれば、もっと一緒にいられたのに」
「そうだな、もっと早くリナに会いたかった」
微笑みながら2人は見つめ合いそう話していた。
(ロベルトに素顔を見せたことをリアーナはレオンハルトに話し、レオンハルトとロベルトの他に人がいない時はリアーナは仮面を外していた)
そんな姿を遠くから見ていたロベルトは思った。
『最初は初々しいだけのカップルだと思った。だがそばにいて気付いた。2人は長年連れ添った夫婦のように互いを信頼している。一見外見や性格の違いから合わなそうに見えるが、そうじゃない。互いが互いを認め支えあっているんだ。
俺はこの2人のそばにいられて幸せかもしれない』
そう思ったロベルトは、密かにリアーナとレオンハルトに忠誠を誓っていた。




