②.怪物王子
レオンハルトが生まれた場所は『ザフィア王国』、その国の第一王子として生を受けた。
だがレオンハルトが5歳の時、両親である王と王妃が同時に謎の病にかかり苦しんだ末に最期を遂げた。
その直後、王弟であるレオンハルトの叔父が即位すると、自身の息子に王位を継がせたい王が彼に『服従の呪い』をかけたのだ。
「両親と同じようになりたくなければ私に従え」と言い、すぐに両親を殺したのは叔父だと分かったがレオンハルトには服従の呪いがあるため、どうすることも出来なかった。
その後、幼い王子は病弱なため表には出られないということにされ、レオンハルトは沢山の訓練を受けさせられた。
叔父の家族もそんなレオンハルトに冷たく接し、病気が移ると言って誰も近付こうとしない。
そこから時が経ち成長し力をつけたレオンハルトは、他国へ密偵に行かされるようになった。
叔父にかけられた服従の呪いも日に日に酷くなり、日常生活においても度々蝕まれるように苦しくなっていき、『もしかしたら20歳まで生きられないかもしれない』とレオンハルトは悟った。
そんな苦しむ彼を城の中で見た人々は異様な雰囲気を感じて恐れ気味悪がり、レオンハルトには『怪物王子』という名がついた。
そして17歳になったある日、隣接するルビニ王国へ密偵に行き潜り込んだ王宮で仮面を被った少女と出会う。
彼女と剣を交えた瞬間いつもの呪いの苦しみがきてしまい、ここで終わるのかと覚悟をしたが何故かみるみるうちに身体が軽くなっていくのが分かった。
何が起きたのか確認すると、仮面を外した少女が自身の手を取り目を閉じていた。
目の前の彼女が自分の呪いの苦しみを取ってくれたことは分かったが何故そんなことが出来たのか、そもそも誰も触れようとしない見ず知らずの自分が怖くないのかと考えていると、少女の身体が左右に揺れ倒れそうになり慌てて手を伸ばして支えると閉じていた瞼が開いた。
そんな彼女の瞳は透き通った濃いピンク色だった。
その綺麗な瞳にレオンハルトは思わず吸い込まれそうになった。
すると彼女は立ち上がり呪いは解いたと言ってきた。
レオンハルトは驚きのあまり言葉を失い立ち尽くしていると、廊下の向こうから誰かがこちらへ近付いてくる足音がしてきた。
その音を聞いた少女はレオンハルトにここから逃げるよう指示をし、彼は目の前の彼女と話をしたかったが今は無理だと判断し、近くの窓から外へと出ると姿を消したフリをし壁越しに少女の様子を伺ったが、近付いてきた近衛兵に自分のことを話す素振りはなかった。
どうやら身体に傷があると噂の仮面王女は彼女のことらしい。
公の場以外で表に出ることがなく、なおかつ出て来てもいつも仮面を被り隠しているため顔も醜いと言われその噂は隣国のザフィア王国にまで広まっていた。
そんなリアーナのことが気になったレオンハルトは自国へは戻らず自分を救ってくれた彼女の実情を調べることにした。
レオンハルトは王宮周辺に張り込み使用人達の話声に聞き耳を立てた。
王太后は以前はヒステリーが酷かったが最近では浪費の方が凄くなった、一方息子である国王は何にも関心がないが王太后に似たのか一度怒ると誰も手が付けられず落ち着いてくれるまで待つしかないと話していた。
そんな中でリアーナは王宮内で1人孤立していることを知る。
「この間もリアーナ様が夜に部屋を出たことに王太后様が腹を立てて、部屋の中を滅茶苦茶にしたって噂があったじゃない?あれからまだ部屋から出してもらえないそうよ」
「そうなの?ねぇ、リアーナ様って身体に傷があるって噂じゃない?私思ったんだけど、それって王太后様がつけたんじゃないかしら?」
「それはあるかも知れないわ。てことはまた怪我させたから部屋から出さないのかしら?」
「そうかも知れないわ」
どうやらリアーナには王太后の指示で特定の使用人数名しかついていなく、そして彼女の様子も口外禁止になっていた。
そのため他の使用人達は様々な憶測を立てていたのだ。
そしてレオンハルトは使用人達の噂の的となっているリアーナが、なぜか自分と重なって思え不憫になった。
『あいつにまだ呪いを解いてくれた礼をしてなかったな』
と考え数週間後、招待客に紛れて潜入した舞踏会でレオンハルトは仮面を被り1人佇むリアーナを見つける。
それは王女である彼女が会場の中で1人浮いているという異様な光景だった。
恐らく1番目立っている王太后がこの雰囲気を作っているのだとすぐに想像出来た。
誰もリアーナのことを見ていなかったためレオンハルトは安易に彼女を庭園へ連れ出すことが出来た。
仮面を外したリアーナの顔をレオンハルトはマジマジと見回した。
「顔に傷はないようだな」
「当たり前でしょ」
「身体にはあるんだろ?王太后がつけたのか?」
レオンハルトは使用人達の噂話を聞き、リアーナの身体には王太后からつけられた沢山の傷があると思っていた。
「噂を聞いたの?心配しなくても身体に傷なんてないわよ。お母様にもつけられてない」
とリアーナは否定したがレオンハルトは信じられなかった。
そのため子供の頃に自分の不注意で窓から落ち、そこから変な噂が広まっただけだとリアーナは説明した。
(王太后は王女であるリアーナの身体に傷をつければ真っ先に自分が疑われると分かっていたため、体裁を気にしてリアーナの身体に傷をつけていなかった)
「傷がないのを見せましょうか?」
「あぁ、見る」
「もう、本当に見せるわけないでしょ」
「なんだ、残念だ。で、仮面は何でつけてる?」
「お母様に人前では被れって言われたからよ」
レオンハルトは目の前のリアーナと話しながら、王太后は綺麗で聡明な彼女が自分より目立つのが嫌なのではないかと勘づいていた。
「ところでアナタ名前は?どこの家の人?」
リアーナはレオンハルトのことを何処かの貴族の子息かなにかだと思い名前を聞いた。
「俺のことはレオって呼べ、俺はお前をリナって呼ぶ」
そう言ってレオンハルトは自身のことを話さなかった。
自身のことを何も話そうとしないレオンハルトに『呪いのこともあるし、自分のことを話したくないんだろうな』とリアーナは思った。
レオンハルトはリアーナが複雑な表情したことから、自分のことを勝手に想像しているんだろうと思ったが何も言わなかった。
「今さらだが俺が怖くないのか?何で王宮にいたのか聞かないのか?」
何事もなかったかのように自身に話し掛けてくるリアーナがレオンハルトには不思議だった。
「あの状態を見れば察しがつくわよ、術者に逆らえず王宮に侵入したことくらい私にも分かる。何をしようとしたのかは知らないけど、アナタのこと黙っててあげるから私がアナタと話したこと内緒にしてくれる?」
「分かった、お前と話したことは誰にも言わない」
「よかった。怖くもないわよ、なぜかアナタは優しいってそう思える」
「俺を簡単に信じすぎじゃないか?」
「だったら私のことも信用しすぎじゃない?」
そうリアーナが話したところで舞踏会の会場の方から音楽が流れ、どうやらダンスタイムが始まったようだ。
するとレオンハルトが手を前へ差し出しリアーナをダンスに誘った。
リアーナはその手に自身の手を乗せると、2人はその場で踊り初めた。
「俺はお前を信じる、だからお前も俺を信じろ」
「分かった、あなたを信じる」
「あなたじゃなくてレオだ」
「はいはい、レオ」
2人は話しながらダンスをし、そしてよく知らない互いのことを信じると言い合った。
ダンスが終るとレオンハルトはリアーナと手を繋いだまま言った。
「俺は今日お前に会いに来た。リナ、ここから出たくはないか?」
「…ここから、出る?」
リアーナは突然のレオンハルトの言葉に驚いた。
いつかはこの王宮から出たいと思ってはいたが、それを出会ったばかりの人から言われるとは思ってもいなかったからだ。
「俺の呪いを解いてくれた礼に、ここから出してやる」




