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第四話 音楽室にて、結婚についての考察

「彼女は十九才。いき遅れと陰口をたたかれている」

 この国では、王侯貴族の女性はたいてい、十六才か十七才で結婚する。遅くても十八才だろう。だが、みずからの意志で結婚しない女性もいるし、二十才を過ぎてから素敵な結婚をする女性もいる。いき遅れというのは、ひどい悪口だ。

「ルイーズは、一日でもはやく結婚したい。それも、周囲に自慢できる相手と。つまり彼女はあせっているのさ」

 双子は言う。なるほど、と私は納得した。ルイーズは普段から、あそこまで意地が悪いのではないのだろう。結婚に対するあせりから、周囲の若い女性たちを攻撃した。

「だからといって、マデリーンを侮辱していいわけではないだろう」

 フィリックスは怒る。彼は正義感が強い。アダンとアドンはうなずいた。

「フィリックスの言うとおりだ」

「君は正しい。僕たちも同じ考えだ」

「結婚と言えば、君たちが結婚して驚いた」

 フィリックスは話題を変えた。アダンとアドンは二十二才で、つい数か月前に結婚したばかりだ。彼らは、くすりと笑う。

「僕たちを見分けることのできる、運命の女性たちがいたのさ」

「運命を見いだしたからには、早急に行動しなくてはならない」

 フィリックスは片手をあごに当てて、何かを思い悩む。少したってから、私の方を向いた。彼は、苦い笑みを浮かべている。

「君は、アダンかアドンと結婚すると思っていた」

 私はほほ笑んだ。

「私も、アダンかアドンと結婚したかったわ。彼らは私よりバイオリンがうまくて、とても素敵だもの」

 フィリックスの笑みが引きつった。

「でも私は、双子を見分けることができなかった」

 私は切ない気持ちで告白した。そんな私に対して、彼女たちはタルトを口に運ぶように簡単に、アダンとアドンを見分けた。ボンジュールとあいさつするように、自然に軽やかに。

「彼女たちを見て、私は初めて、自分はアダンにもアドンにも本気の恋をしていなかったと気づいた」

 今でも、私の初恋はアダンとアドンと自信を持って言える。しかし私は、バイオリンを弾く優しいお兄さんたちになついていただけだった。

「幼いあこがれを持っていただけ。私は子どもだったのよ」

 私は苦笑する。私の話を、フィリックスは存外にまじめに聞いていた。双子はただ、ほほ笑んでいる。フィリックスは口を開いた。

「急な話だが、明日、君の家に行ってもいいか?」

「もちろん! 父も母も喜ぶわ」

 私は声を弾ませた。私がフィリックスを好きなように、私の両親も彼が大好きだ。フィリックスは安心したように笑う。

「君の父であるロベール伯爵には、先週、少しだけ会ったが」

「えぇ、父から聞いたわ。金曜日に、城の廊下でばったりと出会ったと。けれど、たがいにいそがしくて、ほとんど話せなかった」

 フィリックスは、遊ぶためにこの国に来たのではない。私に話さないだけで、彼には王子としての仕事がある。今回は王子としてではなく、外交官や親善大使としての仕事だと思うが。フィリックスは残念そうに話した。

「あのときは、ロワール王国の城に着いたばかりだったから。本当は、君の近況など聞きたかった」

「近況? 今、あなたの目の前にいるわ。そして毎日、バイオリンを弾いている」

 私は笑った。彼も、そうだなと言って笑う。

「空色の瞳。七月の晴れた日のようだ。そう、まさに今日のことだ。美しいマデリーン。昨日はどうなることかと思ったが、君と再会できてよかった」

 今は七月だ。晴れる日が多く、過ごしやすい季節。長旅がしやすい時期でもある。フィリックスがためらいがちに、私のほおに手を伸ばす。甘いチェロの旋律が聴こえてきた。いつの間にかアダンとアドンが、チェロで二重奏をしているのだ。

「なんてロマンチックな曲。うっとりしちゃう。ふたりとも新婚だものね」

 私は、ほぉとため息をつく。しかしフィリックスは、嫌そうな顔をした。

「どうしたの?」

 そう言えば彼は昔から、恋愛の曲があまり好きではない。彼が好きなのは、かっこよくて力強い曲だ。クレッシェンドでフォルテッシモ、さらに盛り上がってフォルテッシシモ。フィリックスは、直線的で分かりやすい曲が好きだ。

「双子が意外におせっかいで、しかもそれが失敗していて、驚いているだけだ」

 フィリックスは、私とはちがった感じで、ため息をついた。

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