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第三話 バイオリンとビオラの二重奏、魅惑的な双子

 ひとりの男性が魅力的な笑みを浮かべて、バイオリンを弾いている。こげ茶色の長い髪を、後ろでひとつにくくっている。彼の隣には、同じ色の髪の男性がいて、こちらはビオラを弾いている。

 彼らの顔はまったく同じで、区別がつかない。神秘的な深緑色の瞳も同じ、背の高さも同じ、身につけている服もヘアスタイルも同じ。ベルナール侯爵家の子息であるアダンとアドンは双子なのだ。

 侯爵家の邸にある音楽室は広く、ピアノもチェロも置かれている。ピアノの前に立ち、双子はバイオリンとビオラを弾いている。彼らの演奏は、優美で上品で艶っぽい。曲が終わると、私とフィリックスは大きな拍手を送った。

「トレビアン!」

 私は興奮してさけぶ。いつ聴いても、双子の演奏は聴きごたえがある。フィリックスも、ブラボーと声を上げた。

「観客が俺とマデリーンしかいないのが、もったいない。いや、俺たちのためだけに弾いてくれたのだから、ぜいたくな時間だった」

「これ以上のもてなしなんて存在しないわ」

 私とフィリックスは笑う。アダンとアドンもほほ笑んで、それぞれの楽器を楽器スタンドに置いた。それから、私とフィリックスのもとまでやってくる。

「メルシー。お耳汚しを失礼した」

 彼らは悠然と、ふたりがけのソファーに腰かける。

「今日は、よい日だ。友人がふたりもわが家にやってきて、僕たちは浮かれてしまった」

 同じ顔と声で、くすくすと笑う。音楽室にはソファーがふたつあり、ひとつには私とフィリックスが、もうひとつには双子が座っている。

「それはそうと、昨日は災難だったね、マデリーン。城のパーティーへ行くのなら、僕たちに声をかければよかったのに」

「君を完璧にエスコートして、悲しい思いなどさせなかった」

 双子が口々に言う。だが、どちらがアダンでどちらがアドンなのか、相変わらず分からない。そして彼らは友人が多く、顔が広い。なのでいつも耳がはやく、昨日のパーティーでの騒ぎをすでに知っているようだ。

「ありがとう。でも私は大丈夫だったわ。フィリックスが助けてくれたから」

 私はほほ笑む。ところがフィリックスは苦笑した。

「あんな程度でよければ。けれど、君があんなに難しい曲を弾きだすとは思わなかった。途中で失敗しないか、ひやひやした」

 彼は、心配性の父親みたいな顔をしている。私は笑った。

「あなたは『マデリーンなら弾けて当然』という顔をしていたじゃない。それに『恋の苦しみと愛の喜び』は、大変なのは中盤だけよ」

 アダンとアドンも笑いだす。

「なんと強気な言葉」

「さすが、僕らのマデリーン」

 フィリックスは双子に向かって、自慢げに話す。

「俺も鼻が高かった。マデリーンの演奏は本当にすばらしかったから。しかし、ずいぶんと性格の悪い王女だった。君たちの国に、あんな姫がいるとは知らなかった」

 彼は困った気持ちを、素直に表に出す。私とフィリックスは二年ぶりの再会だが、双子とフィリックスはちがう。

 アダンとアドンは音楽が好きで、しばしばターヤ王国へ行く。フィリックスとも、よく会う。彼らは、気の置けない友人どうしだ。双子は、にこりと笑った。

「ルイーズ王女は、僕たちのいとこだ。でも、彼女と僕たちの仲はよくない」

「彼女はわがままで、国王陛下も王妃殿下も手をやいている。ついでに言うと、王太子殿下も困っている」

 国王陛下も王妃殿下も王太子殿下もよい方々なのに、と私は思う。

「けれどルイーズには、同情すべき点がある」

 双子はしゃべってから、少しの間だけ沈黙した。四分休符である。

「同情すべき点とは?」

 歌劇のように上手なタイミングで、フィリックスはたずねた。

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