表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

第十一話 ピアノとバイオリンの二重奏、愛を伝えて

 この曲は、ピアノの独奏から始まる。無邪気で楽しいメロディ。そこにバイオリンが加わる。フィリックスの人生に、私が現れたのだ。

 私は九才のときに、父母に連れられてターヤ王国へ行った。私は最初、ターヤ王国語が話せなかった。けれど私にはバイオリンがあった。ターヤ王国の国王は、親切にも私にフランツを紹介してくれた。

 フランツのもとで私はバイオリンを習いつつ、自然とターヤ王国語も学んだ。フィリックスがいつも私を助けてくれた。満ち足りた五年間だった。ターヤ王国を去るとき、私は馬車の中でひたすら泣いた。

「ずっとターヤ王国にいたい。フィリックスとバイオリンを弾いていたかったのに」

 別れの悲しみに、フィリックスのピアノが荒れ狂う。私のバイオリンは、つらい、つらいと泣きさけぶ。

 ロワール王国に戻った私は、今度は故郷であるはずのロワール王国になじめなかった。長期間のターヤ王国滞在で、ロワール王国語を忘れてしまっていたのだ。言葉がおぼつかず、さらにもともと半分、外国人でもある。

 一部の人間だけだが、私を「ロワール王国語を話せない混血児だ」とバカにする人たちもいた。私は家の中に引きこもり、ひとり陰気にバイオリンを弾いた。ターヤ王国に戻りたかった。

「初めまして、マデリーン。僕はアダン」

「僕はアドン。僕たちは双子だよ」

 そんな私を外へ連れ出したのは、アダンとアドンだ。彼らは、私がフランツの弟子であると聞き、私に興味を持ったのだ。私は少しずつ明るさを取り戻して、ロワール王国語もスムーズにしゃべれるようになった。

 私は、アダンとアドンを好きになった。彼らに、幼い恋心を抱いた。けれど、もし私がずっとターヤ王国にいたら、どうなっていただろう。私はきっと、彼らに恋しなかった。どこかでアダンとアドンと出会い、音楽を通じて仲よくなったとは思うが。

(私は、別の人と恋に落ちただろう)

 フィリックスのピアノが変わる。くらやみに、一条の光が差しこむ。バイオリンも、もう悲しまない。ふたりそろって、前へ進み始める。私は、ピアノを弾く彼を見つめた。私は、フィリックスと恋に落ちた。そう確信が持てる。

 いつも、そばにいてくれた。ターヤ王国の言葉も歌も教えてくれた。ともにバイオリンやピアノを弾いた。ターヤ王国王都の劇場で、隣り合ってオーケストラを聴いた。舞台裏にも遊びに行った。

(フィリックス、あなたを愛している)

 華やかな結婚式の旋律、そして和音進行。祝福するピアノ。バイオリンは高らかに、愛を歌いあげる。フィリックスが驚いて、私を見た。ピアノを弾く手が止まりかける。

 私の気持ちはバイオリンの音色にのって、ピアノ室中に響き渡った。愛しているという思い。愛されている喜び。私たちは、たがいに分かりあえる。私がターヤ王国から去って遠回りしたが、その遠回りでさえも愛おしい。

 フィリックスのピアノも、甘く優しいものに変わる。私に愛をささやいてくる。ひとつに溶け合う、ピアノとバイオリン。この愛こそ至上のものであると感じる。こんなに気持ちのいい合奏は初めてだ。曲を弾き終えると、拍手が聞こえてきた。

「トレビアン!」

 扉の方を見ると、アダンとアドンが手をたたいている。彼らは、うれしそうに両目を細めていた。私とフィリックスを祝福している。

 だがアダンの隣で、ルイーズが震えている。彼女は私をにらんでいたが、その目は涙をたたえていた。私は彼女に同情したが、どうすることもできない。

 王女は何かを話そうと口を開く。しかし何も言わず、くるりと背を向けてどこかへ走り去った。双子たちは、悩んだ顔をする。

「マデリーンたちの演奏を聴かせたのは、やりすぎだったのかもしれない」

「でも、何もかも思いどおりにしたいルイーズには、いい薬だったのかもしれない」

 彼らは少し考えた後で、私とフィリックスの方を向いてほほ笑む。

「ルイーズは、僕たちが城まで送ろう。彼女は大切ないとこだ」

「そして幼なじみでもある。馬車の中で、彼女を優しくなぐさめるさ」

 アダンとアドンは小走りで、ルイーズを追いかけていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ