私の王子様
深い青色をした夜空をキャンパスに、星が四方八方に散りばめられているそんな日に、木に縄を結び首にひっかけている者が居た。
「……お前、自殺するのか」
「…」
「…今だけ、名前を呼ぶのを許してやる」
「エニグマ様…どうして」
「たしかにあんなことは言ったが、死ねとは言ってないからな。どうして自殺しようと思った、それを話してからでも変わらないだろう」
「探してたんです、王子様を」
「…王子?」
イールは話し始めた。
「私は生まれた時から忌み子と罵られ続けました、そこは地獄のようで…生きるだけで精一杯だったんです。そして、一冊の本を読んだ、その物語に出てくる姫のように私にも王子様が現れる…そう信じて。ですが、みんな形だけ。私から離れていった。当たり前ですよね、こんな私を好きになる人なんて居るわけない…私は歩いた王子様を求めてずっと歩いた。そして、ここにたどり着いた。私にとってここは楽園だった。ここならきっと、私を救ってくれる人が居る…そう信じて」
「そこで出会ったのが…私というわけか」
「見返りも求めず助けてくれたのは…貴方が初めてでした…ですがやはり貴方さえも…私は…消えるべきですね…所詮私は忌み子なのです…」
掠れたその声を聞いたエニグマは…
「おい、ちょっと待ちな」
「?」
「本当に、ここを楽園だと思っているのなら…死ぬ必要はないんじゃねぇか?楽しいところが…あるはずだ」
「し、しかし私は…」
「その腐った愛はこれから治していけば良い。いや、そもそもそんな過去があったのならそうなるのも頷ける。…ごめんな、理解してやる気にならなくて」
「い、いえ貴方が悪いわけじゃない…」
「いいか、美味い飯を食うだけでも幸せなもんなんだよ。簡単に人生諦めるな、戻れないんだぞ?生きる意味が無いのなら、今から探しに行けば良い、手伝ってやるから…だから、折角その命持ってるんだからもっと有効活用してくれよ…」
エニグマは無意識にその目を濡らしていた。
「…なんで、なんで貴方が泣くのですか…なんで…なんでぇぇぇぇぇ…ぁぁあぁぁぁぁぁ…」
「王子様やら言っていたけれど、私は女だぞ?」
「え」
「まぁ、この容姿じゃイケメンに見られても仕方ないな。まぁ…」
「…?」
「王子様にはなれないが友達くらいならなってやる」
「…ありがとうございます。…むぐっ」
イールの口に何かが放り込まれた。
「糖分たっぷりの木の実だ、食べてみろ」
「…美味しい」
「まともなもの食べてなかったんだろ?たくさんあるぞ」
「・・・」
「大丈夫、まだ時間はあるさ。自分の求めるものは焦らず自分のペースで見つけるのが一番さ…」
「幻ー、お手紙だよー」
「…誰?」
「さぁ、差出人書いてないんだよ」
「…」
『ごめんなさい』
「…友達から?」
「まぁ……そんな感じかな」
「おっ、エニグマがイールと一緒に居るぞ!からかってやろうぜ!」
…誰かと結ばれたい気持ちはわかるよ。がんばってね。
しばらくしてイールはエニグマの友達になりましたとさ。