私だって怒るんだぞ…?
「エニグマさんエニグマさん!」
「む、お前は…幻だったか。どうした、珍しい」
「あのねあのね!さっき蝉捕まえたの!」
「蝉?凄いじゃないか」
「しかも素手で捕まえたんだ!凄いでしょ!」
「凄いけどちゃんと手を洗うんだぞ」
「はーい!」
幻は嬉しそうに虫籠を抱えて走っていった。
「叡智のところは元気いっぱいだな…」
遠くから覗く一つの影。
「エニグマ様…」
『エニグマ様!よければ今度のお祭りご一緒に…』
『無理』
『えっ』
『その日は家族と過ごすって決めたんだ』
「あの女…絶対に許さない」
「ふんふーん♪蝉の音〜ぶんぶーん♪早く姉さん達に見せたいなぁ♪」
スキップをしている幻だったが…
「………敵襲!?」
背後から飛んできた鱗に気づき、咄嗟に避ける。
「…貴方は確か」
「貴方、どういうつもり?」
「え?」
「エニグマ様に近づくなって言ったはずよ、なのに…」
「そ、そんなこと言われたって…そもそも仕事仲間だからどうしても接触しちゃうし…」
「貴方、妹だからって何よ?次近づいたら…」
「……ああもうぶつくさぶつくさうるさいな!!そんな貴方なんかにエニグマさん絶対振り向いてくれないからね!!!」
呆れた幻はせっせとその場から去る。
「……今に見ていなさい。そして、後悔しなさい。私を敵に回したことを…」
それから一週間くらい経っただろうか、エニグマ達のもとに叡智達が訪れた。かなり狼狽えているようだ、酷い顔をしている。
「どうした、何かヤバいことがあったのか」
「ヤバいも何も…幻が帰ってこないんだ…」
「幻が?」
「ああ、ここ一週間家に帰ってこないことはない。エルドラドに聞いても彼のところには一度も来ていないって…!」
「だとすれば、誘拐辺りが妥当だね。何か手がかりは?」
「……いや、恐らくだが手がかりなんてもの揉み消されているだろう」
「その言い方だと…」
「あぁ、絶対にあいつしか居ない。これは私の責任だ、私が責任を持って幻を連れて帰る」
「だけど、場所もわからないんじゃあ…」
「おい、叡智」
「何だ?」
「幻に関するもの何かないか?何でも良い、シャツでもパンツでも幻の匂いが染みてるやつなら」
「ちょっとその言い方えっちゲフンゲフン!幻のハンカチが落ちてたがそれでもいいか」
「十分だ」
するとエニグマはハンカチを手にする。
『…DNAスキャン完了しました、範囲500mを目安に捜索を始めます』
「おお、凄い機能だな」
『…発見しました。DNAシンクロ率98%…本人と見て問題なし』
「…幻の場所は特定した。行くぞ」
暗い……何も見えない……ここは……?
「…づっ、頭痛い…」
「よう、嬢ちゃん起きたか」
「…誰?」
「なんだ?忘れたとは言わせないぜ。あの時はよくも…とはいえお前ではなかったが」
「何が言いたいのさ、そもそもどうして私はここに…」
「イール直々に言われたのさ、お前をボコボコのギタギタにしてくれって…」
「!?」
「礼はたんまりもらった、さらにお前も痛ぶれるから…一石二鳥だなぁ!?」
「……へっ、勝てないからってわざわざ私を?へなちょこにもほどがあるね、バーカ」
「イキってられるのも今のうちだぁ!」
「うぐぅっ!!!」
幻が殴り飛ばされる!
「…さぁ、パーティの始まりだ」
「次はどうすればいい?」
「まぁそう言うな、俺達はイールの指示を待てば良いんだから…」
ドコーン
「爆発音!?」
「何だ何だ!」
「…エニグマ、ここだな」
「ああ、間違いない。お前も幻の霊力を薄々感じてはいるだろう?」
「…そうだな。お前達は先に幻を助けてほしい、この雑魚達は私達がやる」
「わかった。行くぞ二人共」
「さ、させるか!」
三人を阻もうとした一人の生物が吹き飛んでいった。叡智と寂滅は恐ろしい形相で
「「……さぁ、私達を怒らすとどうなるか…その身で学んでいくと良い!!!」」
一方その少し後…
「ぐっ…なんて強さだ…反撃が取れない…ぐわっ!!」
「おいおい、休むには早すぎるんじゃあねぇのか?」
「…ちっ、こうやって弱者を痛ぶるクソみたいな趣味しか持ってないんだ。気持ち悪いね」
「んだと!!」
「うぎゃっ!!」
痛い…体が痛い…血が止まらない…熱い…
ドコン
「!?」
「お前達は…どうして!?」
「姉………さん?」
「幻から離れろ、下等生物が」
「くっ、お前らやっちまえ!!」
「無意味だ」
「ぐおわっ!!!」
エニグマの姿が消えたかと思えば、目の前へと光速移動し急所へ発勁をお見舞いした!
「…幻!」
「ファントム…ちゃ…ん」
「ごめん…幻…巻き込んじゃって…ほんとは、私が受けるべきだったのに…」
「そんなこと…言わなくて良いよ…しょうがないじゃない…貴方と私は…」
「………こっちは終わった」
エニグマ達の後ろに積まれた生命の塊。
「命を取られていないだけマシと思え」
「容体は?」
「酷い怪我だけど、生きてる。早く二人のところに…!」
(どうしてこんなことに…どうやってここを特定したの!?)
イールだった。
「!」
「エ、エニグマ様…!」
「イール…だったかな?」
叡智は冷たい顔つきで
「お前、自分がやったこと…理解してるのか?ぶち殺すぞ」
寂滅は瞳を赤く染めて
「あぁ、貴方は許せないな…ほんと…最低」
(あれ…姿は同じなのに声が微妙に違う…!)
「叡智さん!寂滅さん!」
「「!」」
そこにエニグマ達が合流。
「幻!!!」
「大丈夫、命に別状はない」
「どうして…その女なの…私の方が…容姿も…強さも明らかに上回ってる!どうして私を選んで…」
「黙れ、このゴミ屑野郎」
エニグマはイールの声を遮るように喋った。
「貴様、私を好きなようだな。それは別に構わない、構わないが…全く関係ない奴らに手を出すのは違うよな!?」
「だ、だけどその女は…」
「こいつは叡智の妹だバカ野郎!! そんなこともわからないのか!!!」
「エニグマ様…」
「黙れ!!金輪際私の名前を呼ぶな!!私にも!!妹達にも近づくな!!!もう二度と関わるな!!!歪んだ愛に囚われた貴様を好きになるやつなんか居るか!!!」
「・・・」
エニグマがここまで怒るのは初めてだった。
「……帰るぞ」
「………ろ!まほ……ろ!幻!」
「ん…うぅ〜ん?」
「幻!」
「おうふ!病み上がりにハグは流石にキツいです!」
「良かった…!良かったぁ!」
寂滅は幻を抱きしめるのをやめない。
「…エニグマさん」
「ん?」
「その…色々ありがとう」
「良いんだ、そもそもこっちの問題に巻き込まれただけだから。まぁ…」
エニグマは笑って
「姉妹同士仲良くしようや」
「…うん!」
「……………はっ、我ながらすごいことに気づいてしまった!」
「大変なことだとっ、一体それは何だっ!」
「お椀って二つ並べたらおっぱいみたいだ!」
「ブブフォッwww」