たまには姉妹だけで過ごそうか
ある日、叡智はディグルという狸のもとを訪れる。
「こんにちゃ、ぽんぽこたぬきぃ〜」
「……そのあだ名やめろ、ど変態が」
「変態に変態って言ってもノーダメージなんだよ知ってた?」
「……今日はあのヤンデレの調査結果を聞きにきたんだろ?」
「そうだよわかってるね」
「ほら、イールの資料だ」
「流石は狸、こういうのはお手のものだね」
「しかし、お前わりとヤバい奴に目をつけてるな。表はいい奴ぶってるが裏はかなりイカれてるぜ。ただ、エニグマとか言う人に好意を寄せてるのはほんとだ」
「ふーん………やっぱり、妹達にも接触してたか」
「ああ、イールの方から近づいてかなりキツイ言葉で脅していた。エニグマだけじゃない、お前の妹達もかなり怯えていたよ。エニグマに好意があるんだけど仲の良いあの人達が気に食わないんだろう、幸いなことにまだ実力行使には出ていない」
「………まぁ、もしものことがあるならエニグマ達でなんとかするだろう。しかし、私の妹達にも接触してきたというのなら…………場合によってはこいつを捻り潰さないとね」
(ほんとコイツシスコンだよな)
「家壊さないでよ」
次の日
「うべらはっほい!エニグマ!今度神社で花火やるんだってさ!」
「却下」
「即答かよ」
「私が人混み嫌いなの知ってるだろ」
「行ってこいよぉ、どうせここでゴロゴロしてるだけなんだろ?」
「で?」
「友達が引きこもりにならないか私心配なのよっ!」
「安心しろここは外だ。……今日はお前一段とイカれてるな、わかったよ待ち合わせは?」
「いや三人で行ってきなよ」
「は?」
「たまには姉妹だけで過ごすのも良いんじゃあないですかぁ?」
「……………考えておく」
「…え?花火やるの?」
「…そう」
「へぇ!姉さんから誘ってくるなんて珍しいじゃない」
「じゃあ幻達も誘ってくるよ」
「ああ…いや違うんだ」
「?」
「その…今までまともに一緒に居たことなんてあまりなかったから、たまには姉妹だけで過ごすのもアリかと思ってさ」
「…………うん、わかった」
「じゃあ時間はまた後で教える」
「わわっ、どっか行っちゃったよ」
「きっと準備しに行ったんだよ」
「たのもー!」
「んあ?」
祭り当日、神社は人で溢れかえっている。
「姉さん遅いね」
「待ち合わせ場所は合ってるはずだよ、こんなに人が居るから流されてたりして」
そうしてしばらく鳥居に寄りかかっていると…
「ごめん、遅れた」
「あっ、姉さ……んんんんん!?」
「ど、どうしたのその格好はっ! 周りにジェントル〜って文字が見える…!」
「ああ、知り合いに頼んで作って貰った。折角の祭りなら今日は本気で行こうと思って」
ライトとファントムは顔を押さえていた。
「どうした?」
「直視できない…」
「正直言ってかっこいい惚れそう…」
「?」
「…いや、何でもない。ほら、早く行こうよっ」
「わかったわかった、そんな引っ張らなくても良いじゃないか」
「……!」
「ん、どうしたの姉さん」
「待って射的やりたいマジでやりたい」
「別に構わないけど…」
「よっしゃ!見ててくれ!」
カチッ
バシュン
カタッ
コトッ
エニグマは目を輝かせながら次々に棚の商品を落としていく。
「店の品が次々と消えていく…」
「多分姉さん射的がしたいだけだと思うよ!」
「景品は要らないから大丈夫だよ!」
「いやー、それとしてほんとに姉ちゃん射的が上手だな。これを持っていきなさい」
差し出されたウサギのぬいぐるみ。
「…ん」
エニグマはファントムにそれを差し出した。
「え、いいの?」
「うん」
「…♪」
ファントムは嬉しそうにただ、ぬいぐるみを抱きしめる。
「・・・・」
「…どうしたファントム、疲れたのか」
「えっ、ま、まぁ…それなりに」
「確かにお祭り始まってからかなり歩いたもんね、少し休もうか」
「じゃあ何か飲み物持ってくるよ」
「じゃあ私は食べ物ー」
姉二人はとたとたと散っていく。ファントムはそばにあった段差に座った。
「……来てよかった。姉さん達とずっと…こうしてられたらいいのにな」
「君可愛いね」
「!」
見上げるとそこに居たのは獣人。
「君一人?ボクと遊ばない?」
「………」
(あの時の獣人じゃない、別人だ)
「どうしたの?具合悪いの?お家連れてってあげようか?」
「・・・」
「何か言わなきゃわからないよ―――」
そこでバシッと獣人の腕を払う誰か。
「…妹に何か用か」
「!」
「用が無いならさっさと往ね!」
「あぁ…お姉さん居たのね」
ささーっと去っていく獣人。
「…エニグマ姉さん」
「大丈夫か」
「うん」
「くっ、妹のかわいさに目を眩ませたか。次からは厳重形態にしなければ」
「そ、そんなことしなくても平気だって」
「そうか…あぁ、そうだこれ飲むか?」
「なにそれ、緑色でぷくぷくしてる」
こくりと一口含ませる、しゅわしゅわとした感触が口の中に広がった。
「ぴぃぃぃ」
「どうだ、美味いか」
「美味しい」
「……おーい!」
そこでライトが合流する。
「これ美味しいよ食べてごらんよ!」
彼女が持っていたのはたこ焼きだった。一口頬張る。
「あちちっ、おいちっ」
「うまうま」
その時の三人は………本当の姉妹のように幸せそうだった。
「…よっ、お祭り楽しかったか?」
ファントムの前に現れた黄金の龍。
「エルドラド!」
「一人で居るなんて珍しい、考え事か?」
「そんなでもないよ、お祭り楽しかったなぁって」
「ククク、あいつのスーツ姿拝んでみたかったぜ」
「やっぱりアレ貴方だったんだ」
「俺も幻と初めてお祭り行った時スーツ着てったんだぜ?まぁ、破っちまったけど…おっ、ぬいぐるみ貰ったんだな」
「うん、すごいモフモフしてるの」
「そうか、俺もくまのぬいぐるみ取ってやったんだ。あの嬉しい顔は忘れられないよ。…やっぱ、二人と一緒に居るのは好きか」
「当たり前じゃない」
「そうか、それで良いんだ。それが聞けただけで十分だ、気をつけろよ」
一方エニグマ達は
『エラー発生』
「ん?」
『備えられていない感情を確認、制御不能』
「ちょ、姉さんそれ大丈夫なの?」
「わからない…でも多分、大丈夫だと思う」
「それなら良いけど」
「…あの子の笑顔を見るととても幸せなんだ。しかし、何だこの胸にひっついた想いは………あぁ、そうか」
これが叡智の言っていた姉の性ってやつか。