それは歪みすぎていた
彼女は人間の手によって生まれた。
だから他の生物と比べて色々と価値観が違う。
彼女は強かった。
だから他の生物は彼女にあまり近づかない。
彼女は運動神経が良かった。
だから他の生物は彼女のことを倒せない。
彼女は……わりと大雑把だ。
「わー、暑いよぉ…」
太陽がギラギラと地面を照らしている。
「これじゃあ日向に出れないよぉ」
ぽつんと大きな木が一つそこに、そしてその木陰でくっついていた三人。エニグマとライトとファントムである。
「エニグマねぇさぁん、水出してぇ」
「水………そんな機能あったかな」
「えぇ、炎と雷出せるなら水も出せるでしょー」
「確認する」
エニグマは頭の横辺りに指を置く、ピロピロと機械音が鳴る。
『…バイオファイル:ウォーターを確認』
「やった!早く早く!」
妹が汗をダラダラ流している。エニグマは彼女の顔面に手を出すと
「はい、ハイドロストライク」
「ひでぶぁすっ!?」
その手から放たれた洪水は、妹をかなり遠くへ吹き飛ばした。
「ちょ、姉さん何やってんの」
「だってデータにこれしかなかったんだもの」
「加減くらいできるでしょ」
「加減?そんなファイルあったかな」
「おいっ」
次の日の朝、エニグマが目覚めると近くに手紙があったことに気づく。
「何だ…私に…なのか?」
ビリッと封を開けて、中身を確認する。
"やっと貴方を見つけた。素敵なところに住んでいるのね。私のこと覚えてるかしら?覚えてるわよね。貴方は私の運命の人、大好き大好きもう離さない逃がさない"
「これどう思う?」
「「ヤバいですね」」
「そうなんだ」
「いや呑気にお肉食べてる場合じゃないって」
「ていうかこの手紙の人と面識あるの?」
「あるわけないじゃん」
「ですよねー」
「姉さんがわざわざ他人と関わるわけないし」
「案外もう近くに居たりして……」
遠くに何か居た。
「もう、既に奴は来ている……!」
「なん…だと…」
「こんにちはエニグマ様、私イールと言います。貴方をずっと探してました、会えて嬉しいです♡」
「へぇ、そう。しかし、小さいのによくここまで来たね。森からも人里からもわりと遠かったと思うけど。まぁいいか、何か食べたいならとってくるよ」
「あら、じゃあお言葉に甘えて…」
「ね、姉さん私も行くよ」
「わ、私も行く!」
「え?いや、一人でも平気だって」
そう言うとエニグマはそのままどこかへ行ってしまう。
「あ…あぁ…」
「ねぇ……貴方達エニグマ様とどういう関係なの?」
「ひっ!」
背筋が凍っていくのがわかる。
「ど、どういう関係も何も…家族…だけど?」
「ふふふ、自分が可愛い女の子だからって猫被りしてエニグマ様に近づいてるんでしょ?」
「何言ってるの!?そもそも姉さんそんなの気にしない…」
「言い訳は要らない、これ以上エニグマ様に近づくのなら私…」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ぴぃぃぃぃぃ!!!」
「……どうした、そんな鳥みたいな声出して」
「お、おかえり!」
「あら、おかえりなさいませ」
「魚と木の実見つけてきたよ。そんなに硬くないやつだからそのままでも食べられると思う」
「わざわざ厳選していただいたのですか!」
おびえながら二人はイールに聞く。
「いっ、イール…さんはぁ…姉さんのどこに惚れたのでしょぉかぁ……?」
「そもそも…出会いはどないしてぇ……?」
「それは私があまりの暑さに倒れてしまった日でしたわ。目の前が真っ暗でまともに立てず…その時エニグマ様が現れたのです!そのまま小さな私を抱えて病院まで運んでくださったのですわ!恩返しがしたくて!必死に貴方様を探しておりましたのよ!」
「そんなことあったっけなー」
〈これイールの勘違いじゃない?〉
〈いや姉さんが覚えてないだけかも…わりと姉さん興味ないこと忘れるから…〉
「あら、何か?」
「「ヴェッ、マリモ!」」
「マリモ?」
「とにかく!貴方様にご飯を奢らせてほしいんです!」
「えぇ?別に気にしなくて良いよ…人里はあんまり好きじゃない…」
「私がお礼したいんですぅ!」
「わ、わかった軽い期待はしておくよ…」
姉さんと初めて会った時、とても冷酷な人だと思った。少しも笑わない、平気で他人を痛ぶっていたから…
だけど、私達には頑張って付き合ってくれて、私達には笑うようになって…ずっと一緒に居たいと思った。
あの日までは…
「ウケケケケケ!こいつならやれるぜ!」
「ずいぶんと俺の子分達を虐めてくれたなぁ?」
「ぐっ…」
(こいつらなんて…姉さん達が居れば…コテンパンに…姉さん…)
「おい」
重い声が聞こえる。
「あ?」
「私の妹に何してる」
「一人増えたところで何になると?」
「ね、姉さん達…こいつらは私が…うげっ!」
「しゃべって良いなんて言った覚えはないぜ!」
「・・・」
「…うごっ!?」
「そいつを離せ、さもなくば貴様の頭をぶっ飛ばす」
(こいつ…細腕のくせに凄まじい力だ…この世のものとは思えねぇ)
「・・・」
「ライト、出なくて良い。こんな畜生は私だけで十分だ」
「この野郎!調子乗りやがって!その体ぐちゃぐちゃに砕いてやる!!」
シュイン
「!?」
「それは残像だ」
(わー、昔からそうだけどエニグマ姉さんほんとに強いな…)
「…ファントム、大丈夫か」
「え、あ、うん。ご、ごめんあんなやつにボコボコにされて」
「どうして謝る」
「え、だって私は…」
「確かに私は貴方を造ったけれど、別に私みたいに強くあってほしいだなんて思ってない。そのままで構わない。さぁ、帰ろう」
そう血痕のついていないほうの手を差し伸べる姉さんはかっこよくて…私のヒーローなんだ。
「最近エニグマ達に変な奴が絡んでやがるんだ」
「へぇーーー」
「へぇ…ってお前これは一大事なんだぞ!」
「なんだよ、別に今の三人は人に危害加えるような人じゃないじゃない。そんなにどこがやばいの?」
「龍の勘で」
「ナニソレ」
「いやしかしあいつらに何かあったと思うと……」
(気にしすぎだよ)
「はー、ファミコンめんど☆」※ファミリーコンプレックスの略
「お前だけには言われたくないぞシスコン野郎」
「そんなに気になるのなら尾行すれば良いじゃない」
「尾行?」
「弱みとかわかるかもしれないよ」
「…お、あれが噂のやばい奴?何か声かけられてるね」
「どうせ突き放すだろうな」
「いや、丁寧に道案内してるよ?」
「…まぁ普通はそうするだろうな」
「……わっ、何か向こう喧嘩してる。止めてきなよ」
「何で俺が?!」
「……おぅ、喧嘩穏やかに止めちゃった、すご」
「…」
「どこが危ない奴なんだよー、めっちゃ良い人じゃない」
「それは…」
「付喪神の時もそうだったけど、貴方少し気にしすぎなんだよ。ほら、行こうよ」
「いやもう少しでボロを出すかも…」
「今寂滅が美味しいもん作ってるんだってさー」
「うぐっ」
「うふふ、みんな今日はありがとう。おかげでエニグマ様のお友達に良いところを見せられましたわ」
そう、外から埋めていかないとね。