3話 世の中良いことばかりじゃない
入浴している紫香楽宮 柴です。今は酔灯 高音さんの家まで着いていってお風呂をいただいているところです。
「ふぅ…」
温かい…お湯に浸かるのは久しぶりです。意識がハッキリとしてきたのは最近の事ですが、おそらく長い間は自分の意識がなかったように思います。最後に意識が無くなったのは、いつもの通学路を歩いていた時。ゾンビが襲って来て、そこからの記憶はありません。恐怖で気絶し、その時に感染ったのでしょう。まだ新品できらきら輝いていた制服だったはずなのに、今着ている服はボロボロ。身体中が汚れていました。
「…」
また、泣いていました。お父さんとお母さんと一緒にお店に行って、買ってくれた制服。襲われなければ、まだ私は学校に行けていたでしょうか。あの制服を着て…
「お加減いかがー?」
お風呂の扉からシルエットが見えました。高音さんは優しいです…こんな私を気にかけて、そして家にまで迎え入れてくれて…本当に感謝しかありません。この気持ちを…優しさを返すことはできるでしょうか。
「大丈夫です、気持ちいいですよ。ありがとうございます」
「わかった!じゃあ私も入っちゃうね!」
「はい、…はい?」
何気なく返事をした…のですが、おかしい、今、入ってくると…
「はろー!」
ドアが開き、裸で高音さんが元気よく入ってきました。
「え?え?」
「どうしたの?」
「いえ…ゾンビと一緒にお風呂だなんて…」
「でもしーちゃんの体、すっごくきれいだよ?ただお風呂に入れていなかったからでしょ?なのでもーまんたい!」
「そ、そうですか」
きれいと言われて、少し恥ずかしいですね…でも、そんなことを言う高音さんの体もとてもきれいです。ツヤツヤとした肌、長くて黒くて美しい髪、大きくてハリもある胸。すごくスタイルが良いです。
「…しーちゃん、うちに泊まる気はあるかい?」
「え」
「だって、しーちゃんすごく疲れてそうだし。うちにいておいしいものいっぱい食べて、一緒に寝れば元気になるかなと」
今日は驚いてばかりです。高音さんの眩しさに。高音さんの行動力に。…優しさに。
「ですが…そんなに甘えてしまっては…」
「いいんだよ、大変だったでしょ?ゾンビになったのに肉は体が受け付けないし、…その様子だと、家族も…」
「…はい」
「私もさ、一人なんだよ。数年前に交通事故で亡くなってね、なんで私は生きているんだろうって思っていたの。周りに誰もいない。私は必要とされていないんじゃないかって」
「………」
彼女のさっきまでの元気は何だったのでしょうか。今話している彼女は、まるで別人のように暗い。
「でも、私はね。誰かに笑っていてほしい。幸せでいてほしい。私はかけがえのないものを失ってしまったけれど、それでも誰かに必要としてもらいたい」
彼女の言っていることは寄り縋りだろうか。単純な妄想だろうか。それでは私にかける言葉もないだろう。ようやく彼女の行動に納得がいった。彼女には私は困っている“モノ”に見えたのだ。私は彼女の願いを聞き届けるべきだろうか。でも、とにかく、私の願いを聞いてくれたのだから、私も期待に応えよう。
「…急ですが、一緒にご飯を食べましょう」
「…!うん!」
高音さんの笑顔が戻ってきた。良かった…
うーん…敬語キャラ、むずかしい…