入浴
夕食を食べ終わった頃、入浴の準備を終えたレイナが部屋に戻ってきた。
「お嬢様、湯浴みの支度ができました。それと、アンナが戻ったので伝言を届けさせました」
「わかったわ、ありがとう」
貴族の寮室には、三人でも広いと感じるほど大きな風呂場が完備されている。
ローズはレイナに身体を洗われながら、あの時のことを考えていた。
――あんな表情もするなんて。
もう、怒った表情くらいしかないと思っていたわ。
私が見たことがないのは。
王子は自分には見せたことがない表情を、自分の知らない平民に見せていた。
そこには愛情か、敬遠か、どんな感情があるのかはわからない。
でも、自分より先に初めてを得たアイリスが羨ましく思った。
「お嬢様の髪は、雪のようでとても綺麗です」
「……どうしたのよ、急に」
普段はそういうことを言わないレイナが、なんの脈略もなく突然言ったことに驚いた。
ローズは自分の髪に自身を持っている。
当然レイナはそれを知っているが、今それを言うシーンではない。
「夕食中、様子がおかしかったのです。何か、悩み事がお有りなのでしょう」
リーグに言われたとおり、レイナに気付かれたようだ。
流石に髪をいじったり、ため息をついたりしないよう気を付けていたローズだが、それでもわかる人にはわかってしまう。
「悩み事を詮索するつもりはありませんが、私たちはお嬢様の味方です。いくらでも、頼ってください」
「……えぇ。その時は、お願いするわ」




