始業前のお話
王立魔法学園には、王国全土から入学者がやってくる。
漁業で有名な港街、黄金の景色で有名な農村、紡織工場で有名な都市など。
王国の様々な地から、自身の未来を夢見て子どもたちが学園に集まるのだ。
そしてカリナも、集まった生徒の一人である。
彼女の出身地はファティーンといい、お茶で有名な町である。
貴族御用達のお茶なども存在し、様々な茶葉を王国各地へ届けている。
そんな街からカリナは、薬師として働くための資格を取りに学園へやって来た。
ある日の朝、始業前。
授業の準備を始めていたカリナに話しかける人物が一人。
「カリナさん、今よろしいですか?」
「え、は、はい、だ大丈夫です。な、何でしょう、リンカーネイン様」
カリナは突然話しかけてきたローズに動揺した。
二人は別に仲が良い訳ではなく、悪い訳でもない。
今年この教室で初めて知り合ったクラスメイト、顔見知り程度の間柄だ。
片や平民、片や上位貴族。
こんな有象無象に一体何用だ怖い。
怯えながらカリナは次の言葉に耳を傾けた。
「カリナさんはファティーンからいらした、と記憶しておりますが、お茶葉について詳しいのでしょうか」
「ま、まぁ、それなりには、はい」
どうやらローズは茶葉について相談したいようだ。
それなりに詳しいと自負しているカリナだが、公爵家の令嬢が満足できる葉を選ぶなど自分にできるのか分からない。
かと言って、公爵家であるローズの頼みを断るなんて恐れ多いこともできようがない。
覚悟を決めたカリナは、公爵家の令嬢が満足できそうなものをなんとしてでも選んでやる、と意気込んだ。
「殿方を招いた際に、アップルパイと合う物を教えていただきたいのです」
「と、殿方……」
公爵家のローズが言う殿方とは、それはつまり婚約者であるレオンのことだ。
一瞬でそこに至ったカリナは、王子の口に合いそうなものを選ぶなんて自分には荷が勝ちすぎないか、と恐怖した。
一介の学生に過ぎない自分に聞くより大手商会に相談したほうが良いんじゃないか、聞く相手間違ってないか。
大貴族の割にズレた感性を持つローズにカリナは戦々恐々としているが、一方のローズは友人を作ろうとしているだけである。
カリナがファティーン出身ということで、お茶を話の種にしただけである。
そんなことは露ほども知らないカリナは、怯えながらもローズの相談に乗った。




