始業前のお話
「えぇ! 結局何も聞けてないじゃないですか!」
「シッ! 声が大きいわよ」
ミーシャの大きな声が始業前の教室に響き渡る。
それと同時に室内の、友人同士で談笑していた者たちが、一斉にミーシャの方へ目を向けた。
なんでもない、とローズがみんなの視線を散らす。
「しょうがないじゃない。それとなく聞くにはあれが限界だったのよ」
「そういうこと言って! ただビビって聞くに聞けなかっただけじゃないですか、もぉ〜」
「……」
いきなり図星を突かれたローズは黙ってしまう。
あれこれ理由を付けて深く踏み込まなかったが、結局のところローズは弱腰になっていただけだった。
そのせいで最も重要な、レオンがアイリスのことをどう思っているのか聞くことができなかった。
「……別に、問題は無いわ。情報収集はリーグに頼んであるし、来週か再来週くらいには真相が掴めるわよ」
「あーもう、まだ言い訳ですか。アリシアちゃんも何か言ってくださいよ」
自分を正当化しようとし続けるローズに、ミーシャはアリシアに助けを求めた。
「別に、よろしいのではないですか? ローズ様がそう思うならそれで」
「もう。そうやって甘やかすから、ローズちゃんのこの性格が治らないんですよ」
しかし、アリシアは手元の論文から目を離すこともせず、淡々と告げた。
味方になってくれないアリシアに、ミーシャは不貞腐れてしまった。
「じゃあローズちゃん。今度、アイリスさんのとこに行きましょう」
「えぇ。嫌よ」
レオンに直接聞けないのなら、とミーシャは疑惑のもう一人であるアイリスの元へ行こうと提案する。
レオンとの逢瀬でそういった旨の発言をしたのだから、実行しようということだ。
しかしローズは、ミーシャの予想通り拒否した。
「いいですか、ローズちゃん。昨日はなんとかなったかもしれないですけどね、二週間後なんて結構先なんですよ? リーグ君の報告が遅れたらその分辛くなって、次は絶対オワリますよ」
「それは、そうかもしれないけど……」
ローズは、この疑惑を確定させたくない。
必ずしもそう、と決まったわけではない。
ではないのだが、違うと決まったわけでもない。
もしレオンが、ローズが疑った通りの感情をアイリスに持っていたら。
起こり得るその事態が怖いのだ。
「大丈夫です。私とアリシアちゃんが付き添いますから」
「……そう、ね」
怖気づいたローズに励ましの言葉をかけたミーシャ。
まるで人見知りをする幼子のようだが、ローズにはその言葉だけでも嬉しくあった。
「……私を無視して話を進めないでくれますか。まぁ、付き添いはしますが」
若干一名、多少の不服はあるようだが。