見てしまった
その日、ローズは見てしまった。
彼女の愛する王子が、平民の少女と談笑しているところを。
王立魔法学園では、特待生制度が採用されている。
この制度で優秀な能力があると認められる場合に、無償で学園に通うことができる。
特待生は毎年十数人選ばれており、各人貴族から声をかけられるなどして、将来が決まったりする。
つまり、特待生について話の種になることはあるが、それで特別何かが起こることは無い。
しかし今年は違った。
それは、とある少女のことである。
彼女の名前はアイリス。
アイリスはある才能を買われて王家から、学園入学のための支援を受けた。
その時点で既に例を見ないほど稀なことであるが、問題はその能力だ。
『光魔法』というとても希少な魔法の使い手であることが、彼女の噂話を加速させた。
そして噂は当然、ローズの元にも流れてくる。
希少な魔法を使える存在というのは、高位貴族であってもそうそうお目にかかれない。
しかも、王家が支援するほどの事態である。
果たしてアイリスとは一体どれほどの人間なのだろうか。
いわゆる興味本位、野次馬根性で、ローズはアイリスの観察に向かった。
そうして見てしまったのが、その現場である。
二週に一度は顔を合わせているローズでも、見たことがない表情。
困ったような、それでいて嬉しそうな。
少なくともローズの前では浮かべたことがない表情を彼は、平民の少女に向けていた。
「どういうこと……?」
――意味が分からない。
どうして私の知らない表情を、あの子に向けてしているの?
王家が支援していたというなら、以前から二人に面識があるのはおかしいことではない。
それなら、学校が始まって一週間ほどで既に親しい仲にあることも不思議ではない。
それでも。
ずっとそばに居た筈の彼が、突然手が届かないほど遠くへ行ってしまったような。
そんな喪失感がローズの中には生まれてしまった。
この日初めて、ローズは嫉妬という感情を抱いた。
婚約者の親しい女性であるなら、本来ならここで話かけて紹介を受ける、ということもあっただろう。
しかし、それをすることに対する恐怖心がローズの足を引き返させた。