「職業は映画関係です」とはよく言ったもので
これで何度目の参加になるだろう。
複数の男女が着飾った笑顔の裏で互いの腹を探り合う"戦場"にも近しい食事会。
まあ、いわゆる合コンだ。
「皆さん、お仕事何されてる方なんですかー?」
はい、早速きましたよと。
合コン開始と共に女性陣から男性陣へと放たれる、お決まりかつ重大な第一関門。
その日の勝敗は、おおよそここで確定するといっても過言ではない。
これまでの苦い経験を踏まえつつ回答をイメトレしていると、自分の順番が回って来た。
「自分は映画関係の仕事してます」
「え、すごーい!制作のお仕事ですか?」
「制作……というよりは、どちらかというと出演側に関わっている感じでしょうか」
僕から「出演」という言葉が発せられた途端、場の空気が軽くざわつく。
女性陣の目にはキラリと強い光が宿り、熱い視線が僕の方へ一斉に集まったのを感じた。
そう。いつも順調なのだ、ここまでは。
だからこそ仕事の話は一旦止めて、それとなく話題が移るように頑張って流れを持っていってみる。
その甲斐もあって暫くは話も弾み、楽しいひと時を過ごせたはずだった。
(今夜は第二・第三関門まで進めるのではないか?)
思わず一瞬、そう勘違いしてしまったほどに。
だが、しかし。
蓋を開けてみれば、今回も思わしき収穫はゼロだ。
そうなんだよなぁ。
でも敗因は十分過ぎる程に分かっている。
毎回、後に自分が発するあの一言で、女性陣の期待の眼差しから決まって熱が一気に失われるのだ。
出演映画は?など、いよいよ女性陣からの追求をのらりくらりとかわせなくなってきた頃。
(そうだ。僕自身は何も悪いことしている訳じゃないんだから、今夜こそ自信を持っていいはずだ)
僕は覚悟を決めて真実を口にする。
「実は僕、映画泥棒なんですよ」
「映画どろぼう?……って、あのクネクネ動く人?」
「そう、映画冒頭に流れる皆さんお馴染みの」
「……へぇ、、あぁ〜、す、すごいですねぇ。ははは……」
「ははは……」
聞いた手前、女性陣も一応笑ってはくれる。引き攣っているが。
ただ先程まであったはずの盛り上がりは、それは分かりやすく沈静化していく。
悲しいかな、僕はそれを苦笑いで受け止めるしかない。
……はぁ、一体自分が何をしたっていうんだ。
僕はただ自分に与えられる仕事を一生懸命まっとうしているだけなんだ。
映画泥棒だって、僕だって、映画関係者だと名乗っても良いじゃないか。
NO MORE 映画泥棒。
あぁ、映画泥棒役なんてもうたくさんだ。
小説家になろうラジオの特別企画
「なろうラジオ大賞3」応募作品です。
『映画』を題材にした投稿作品、
少しでもお楽しみいただけますと幸いです。
もしなろうに映画泥棒役の方がいらっしゃいましたら
ごめんなさい!笑
コメディ初挑戦というところに免じて
どうか、笑ってお許しいただけますように。