プロローグ
この度は、私の小説に興味を持っていただきありがとうございます。
拙い文章ではありますが、ご興味が続くようであれば是非お読みください。
※本小説はフィクションであり、実在する人物、場所、団体等とは一切関係ありません。
私は、これまで旅行というものに積極的ではなかった。住んでいるところ以外の土地に行く、その目的を明確に持てなかったからだろう。とはいっても、非日常への漠然とした憧れが徐々に膨らんでいたため、少しずつではあるが、一人旅をするようになった。
旅行をしていくうちに、少し変わった部分もある。あの娘に会ってから、私は旅行をより肯定的に思うようになったのである。
「今日は佐賀に行ってきたよ。ここは七ツ釜っていうところ」
そんなメッセージを送った後、遊覧船から撮影した、コバルトブルーの穏やかな海と洞窟の写真を送る。
「きれいな海だね。行ってみたいなぁ」
「私はこの前、和歌山へ行ってきたの」
加奈ちゃんは数日後、こんな言葉とともに、波しぶきの上がる雄大な海とごつごつとした岩盤の写真を送ってくれた。海という共通点はあるが、印象は正反対だと感じた。私は日本海側の海は荒々しく、一方で太平洋側は穏やかという大雑把な印象を勝手に抱いていたが、今回の写真には当てはまらない。調べてみると、場所や季節、天候によって波の状態は異なるとのこと。つまりは何とでもいえるということだ。私の安直すぎる印象は改めなければならないだろう。
加奈ちゃんとのやりとりは最低限。メッセージを送ってすぐに返すという間柄でもなく、ただ旅行先を紹介しあう、ということばかりだ。メッセージを送って数日、数週間、場合によっては数か月後に返事が来るのもざらだ。私にはこのくらいがちょうどよいし、これからも変わらないと思っている。この関係が完全に途絶えてしまう、という変化の可能性には目を背けながら。