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魔女と騎士  作者: マリーゴールド
9/20

八話目

 ラニと別れた後、コリーは行く当てもなく歩いていた。


 嘘だった。

 魔女修行のために、メイズを目指していたなんて。


 コリーは物心つく頃から、お師匠の元で魔女になるべく育てられた。

 魔女になるための薬を飲むのは辛かった。

 頭の中がぐちゃぐちゃになって、身体がバラバラになるような激しい痛みに襲われた。

 だけど、お師匠は私たちに優しく接してくれたし、しっかり育ててくれた。

 私以外にもたくさんの魔女候補生がいて、みんな孤児院からお師匠が引き取ってきた子たちだって、お師匠は言っていた。

 ひとり、またひとりと、みんないなくなっていって、とうとう私の番が回ってきた。


 ゴソゴソと、薬の入った巾着袋を取り出す。

 毎日、一錠だけ飲むんだよって、お師匠が餞別にくれた薬。

 昨日は、飲んだっけ?

 今日は、まだだった気がする。


 袋からひとつ取り出して、口に入れようとした時に、前を歩く背の高い男の人にぶつかった。


「はぅ……あ、ご、ごめんなさい!」

「いや、こっちこそ。ごめん。大丈夫かい?」

「あ、は、はい!」


 銀髪の、とても綺麗な顔をした男の人だった。


「ねえ。ちょっと、なにしてるのよ。あら?」


 後ろから歩いてきた黒髪の女性が、気にして声をかけてきてくれた。

 全身を赤い服で身を包み、唇には真っ赤なルージュを引いていた。

 ああ、この人。魔女だ。

 落ちこぼれだけど、コリーでもそれくらいはわかる。


「大丈夫? あら。あなた、魔女ね」

「あ、はい。一応、見習いですけど」

「一応も何もないわ。世の中にはね、二種類の人間しかいないの。魔女か、それ以外よ。まあ、姉さんの受け売りだけどね」


 そう言うと、その人はコリーの瞳をじっと見た。

 まるで何もかも見透かすみたいに。怖い。


「あなたも、魔女ね」


 そう言うと、その人は踵を返して行った。


「ほら、ノエル。行くわよ。買い物の続き」

「ええっ、ニカ。まだ買うのかよ」

「付き合うって言ったのは貴方でしょう。最後まで責任を持ちなさい」


 ノエルさんとニカさんは、そのまま喧騒の中に紛れていった。


「あっ」


 飲もうとした薬。

 さっき落としてしまったみたいだ。


 コリーは、その場に這いつくばって探す。

 大事な薬だ。

 もう残り少ない、貴重な薬。


「あった」


 よかった。見つかった。

 拾おうと手を伸ばすと、カツン、とヒールが薬を踏み潰してしまった。


 今の、コリーが拾おうとして、わざと踏み潰した感じがした。

 どうしてそんなことするんだろう。

 顔を上げると、知った人が立っていた。


「なんだ。誰かと思えばコリーじゃん」

「ミアさん」


 ミアさん。

 お師匠の元で一緒に育った姉弟子だ。


「私のこと、その名で呼ぶのはやめてくれる? 今は『絶望の魔女』マリーゴールドって名乗ってるから」

「あ、はい。マリーゴールドさん」

「お前ごときが、私の名を呼ぶな」


 マリーゴールドさんは、不機嫌そうに顔をしかめた。


「すみません。でも、それじゃあなんて呼べば」

「知らないよ。女王様とでも呼べばいいんじゃない?」

「はい。それで、女王様はどうしてここに」

「ハハッ!ホントに呼ぶなよ。相変わらず抜けてんなあ」


 マリーゴールドさんはあの頃と変わらず、馬鹿にしたように笑った。


「フン。それで? どうしてここにいるかって? 勿論、魔女になる修行の為さ。その様子じゃあお前も、あの母親面した変態魔女に捨てられたのかな」

「捨て……いえ、あの、お師匠のことを悪く言うのは」

「師匠? 師匠だって? お前まだそんなこと言ってんのか? だからお前は抜けてるっていうんだよ」


 マリーゴールドさんは、やれやれと憐れみを込めて、オレンジ色の瞳でコリーを見る。


「だ、だって。お師匠には育てられたご恩があります。それに、魔女になるために色々と教育だって」

「確かに育ててもらったね。私は途中で逃げたけど。そりゃあ育てるさ。大事な実験動物なんだからね」


 ドクン、と心臓が大きく跳ねた。

 実験動物。

 ダメ。聞いちゃダメだ。

 ずっと、知らないフリをしてきたのに。


「まさか気づいてなかったのか? あいつは魔女の素養のありそうな子供を攫って、あの施設で実験を繰り返してきたのさ。私たちの髪や瞳の色。生まれつきじゃないだろ。強すぎる薬の副作用だよ。あの施設のガキ共はみんなそう。桜色とか、青色、緑色。一般的じゃないよ」

「そんな、だって」

「お前も失敗作で、データは取り終えたから捨てられたんだろ。私は壊される前に逃げ出したけど」

「私は、捨てられたんじゃ、ない」

「案外、お前の間抜けなとこも薬のせいなのかもな。脳が壊されてんだ。だとしたら、気の毒な話だな」


 違う、私は。コリーは。


「じゃあね。もう二度と会うこともないだろうけど」


 マリーゴールドさんは、そう言ってさっさと行ってしまった。

 コリーは、しばらくそこから、動けなかった。



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