表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と騎士  作者: マリーゴールド
8/20

七話目

「……散々な目に合った」


『溺れる河豚亭』の二階の一室。

 古臭いベッドの上で、ラニは倒れるように転がった。

 日没までに戻るつもりが、とっくに深夜、日を跨ごうとしている。


「クソっ、夕飯にも間に合わなかった……はあ」


 あの後。

 コリーと別れたラニは、いくつかの宿を当たり、どれも相場は変わらないことを知り、付随するサービスの差で、この『溺れる河豚亭』を選んだ。

 まず、指定の時間に食堂へ行けば朝食と夕食がサービスで出てくるのがいい。

 ずっと屋敷暮らしだったラニは、全くと言っていい程、料理の経験がない。

 次に、四日以上の音信不通で退室と見なし、私物を全て処分する、という確約。

 それだけ、ダンジョンに潜って、そのまま帰ってこない冒険者が多いのだろう。

 自分が死んだ後のことを考えずに済むのは、見様によってはメリットだ。


 宿を決めたラニは、日が沈む前に迷宮ダンジョンを見学に行こうとした。

 ダンジョンは、AからFの区画と1から6の階層に分かれていて、どの区画でも1層で死ぬような奴は、余程の間抜けでもない限りあり得ないと聞いていた。

 俺はその間抜けの一人だったらしい。


 B 1区「暗闇洞窟」

 名前の通り、薄暗い洞窟様の迷宮だ。

 何組かの攻略パーティとすれ違ったが、どいつもこいつも男女のペアか、グループを作っていた。

 別に浮かれてデート気分で来てるわけじゃない。

 そもそも魔女は、大抵が騎士と盟約を交わして行動を共にする。

 ここは魔女と騎士の養成所みたいな場所なのだから、俺のようにソロでいる方が場違いだ。


 正直、ソロでもなんとかなるかと考えていたが、無理だ。

 迷宮生物は、ほとんどが三体以上の徒党を組んで行動していた。

 俺の腕前では相対できて一体まで。

 二体いればもう危険信号だ。

 まあ、今回は見学だったし。

 次回からは攻略パーティへの参加か、俺と組んでくれる魔女探しを検討すればいい。

 問題は、その後だった。


 トンパンという、小太りのおっさんと出会った。

 自称迷宮中級者のトンパンは、俺以外で初めて出会ったソロプレイヤーで、この時点で怪しめばよかったんだが、薄暗い洞窟の中で俺だけソロで、ちょっと心細いみたいな気持ちもあったのだろう。

 俺はトンパンと意気投合し、情報交換を終えて、最後に「ここは暗いから、こいつを持ってくといい」と言われ、松明を渡された。


 思い返せば、間抜けすぎた。

 ここまですれ違ったどのパーティだって、松明など明かりを使う者はいなかったのに。


 松明を持って歩いて数秒後、俺は大量の魔物に追いかけられた。

 B 1区の迷宮生物は全て、明かりに対して過剰な興奮状態に陥り襲いかかってくるようだ。

 言うなれば、肉食獣の群れの中に、焼きたての骨つきチキンを持って歩いてるようなもんだった。


 逃げた。

 必死で逃げ回った。

「もうダメ」と「無理かも」を何度往復したか覚えてない。

 巨大蝙蝠にヒト型ウルフ。

 一番ヤバかったのは、体長三メートルくらいのカマキリだな。

 他の迷宮生物を、両手の鎌で薙ぎ払いながら追いかけてきた。

 原因が松明だと気づいて捨てなければ、間違いなく真っ二つにされて今頃はカマキリの腹の中だ。


 トンパン、あの野郎。

 いろんな奴がいる。

 当然、悪意のある奴も。

 次会ったらブチ殺す。


 チャリ、とシャツの隙間から、首に掛けていた母親の形見のペンダントが覗いた。

 ノリスがくれたペンダント。


 俺はここ数日の体験を思い出す。

 世界は、広い。


 ノリス。

 お前は死んじまったから知らないんだな。

 いろんな奴がいて、いろんな場所がある。

 死んだら何も、知らないままだ。

 反省も、後悔もできねえ。

 お前、なんで死んじまったんだよ。


 俺は、まだ生きてる。


 ラニは疲れ果てて、そのまま眠りに落ちた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ