六話目
迷いの森を抜けて、メイズの手前でメロン、アルバートと別れる事になった。
「アルバートは私が病院に連れて行こう。メイズの地理に疎いラニより、そのほうが早い」
そう言われて、アルバートをメロンに渡す。
「何から何まで、世話になる」
「構わない。言っただろう。私がそうしたいだけだ。それより」
メロンは俺の瞳をじっと見た。
「ラニ、君は魔法剣を使うのか?」
「いや。初めて。無我夢中でやった事だ。俺にも何がなんだか」
「そうか。私は女の身でありながら剣に生きてきた。魔術には疎い。しかし、あれはあまり使わない方がいい」
メロンはそう言うと、矢筒から矢を一本取り出して渡してきた。
「この街の国立図書館に、私の知り合いの魔女がいる。勝手に屋根裏部屋を作って居座っている『天井の魔女』イチカだ。彼女を訪ねるといい」
「お、おう」
天井の魔女。
魔女は変わり者が多いって聞くけど、それだけじゃあ良い魔女なのかなんなのか。
まあ、メロンの知り合いなら大丈夫だろう。たぶん。
「その矢を見せて、私の名を出せば話くらい聞いてくれるだろう。変わり者だがね、悪い人ではないよ」
「そうしてみるよ」
そうして、二人と別れた俺とコリーはメイズへ入国する。
迷宮都市メイズ。
バーミリオン三姉妹の三女、サンチェ=バーミリオンが作り出した巨大迷宮の上に建てられた国。
魔女を目指すにしろ、騎士を目指すにしろ。
実践戦闘を繰り返し、生命に、死に、近づく事が早道だと言われている。
そのため、この都市には世界中から多くの冒険者が、魔女見習いと騎士見習いが集まる。
人混みの中を俺たちは当てもなく歩いて、大きな公園のような場所に出た。
「さて。コリー、お前は宿とか決めてんのか?」
「い、いえ。まだなにも、その」
「まあ、そうだよな。付き合わせておいてなんだが、二人部屋を取れるほど懐に余裕がねえ。悪いが自分で宿を探してくれ」
そう言うと、ハッとしたようにコリーが顔を上げる。
「あ、だ、大丈夫ですよ!元々コリーは魔女の修行のためにメイズを目指してましたから!こ、この街では自分のことはなんでも自分でやるのが鉄則ですからね!コっ、私も宿のひとつやふたつバンバン取っちゃいますから!」
「いや、宿はひとつでいいだろ」
まあ、元々この街に来るつもりだったなら好都合だ。
元はと言えば、こいつが変な薬を飲ませたせいだが、俺の身体変化がすぐに調べられるとも限らない。
「とりあえず、今日は解散して。明日の正午に国立図書館に集合な。別にお前が逃げるとは思ってねえけど、なあ……」
そう言って、俺はコリーをまじまじと見た。
「な、なんですか?」
「お前って鈍臭いからな。運動音痴に方向音痴って感じがする。お嬢さん、ちゃんと国立図書館にたどり着けますか?」
「こ、子供扱いしないで下さい!!これでも年上の淑女なんですよ!大人なんです!と、図書館くらいすぐに行けますよ!」
全く信用ならない。
「念のために教えておいてやる」
「なんですか」
「お前の言う通り、メイズは自分の身は自分で守るのが常識だ。この国の統治者のサンチェ=バーミリオンは迷宮の最深部に引きこもってから、この二百年。誰もその存在を確認できていない」
「それって生きてるんですか?」
「まあ、魔女だしな。迷宮も稼働中みたいだし。とにかく、そう言うわけで統治者不在だ。警ら隊なんて存在しねえ。法も秩序もな。殺そうが犯そうが自由だ」
さすがに人通りの街中でおっ始めるような奴は居ないようだが、何があっても不思議はない。
「中にはお前みたいなのでもいいっていうロリコンの変態もいる」
「ロリじゃないですよ!!」
「まあ、要するに気をつけろってことだ」
そう言うと、コリーはハッとしたように薄っぺらい胸に手を置いた。
「し、心配してくれているんですか? もしかしてコリーのこと好きなんですか??」
「ヒトが親切で忠告してやってんのにロリコン扱いするなよ」
「だからロリじゃないですってば!!」
まあ、忠告はした。
あとは知らん。
ラニは宿を探すため、その場を後にした。