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魔女と騎士  作者: マリーゴールド
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五話目

 狼たちが沈黙したのを確認し、ラニは助太刀してくれたエルフに向いた。


「助かった。ありがとう」

「それはいいが。私と敵対する気がないなら剣を納めてくれ。そうすれば私も弓を引こう」


 そう言われて、ラニは慌てて納刀した。

 それを確認し、エルフ女性も弓を背に納めた。


「私はメロン=セプテンバー。見ての通りの、通りすがりのエルフだ。君たちは」

「ラニだ。こっちはアルバートで、そのちんちくりんがコリーだ」

「だ、誰がちんちくりんですか!」


 俺はアルバートを背負い直しながら答えた。

 コリーのことは無視した。


「急いだ方がいい。そいつらはオーガの飼い犬だ。すぐに報復に来る」


 そう言うとメロンはさっさと行ってしまったので、慌てて追いかける。


「アルバートは怪我をしているのか?」

「ああ」


 背後を見るとアルバートは息が荒く、粒汗をかいていた。

 結構キツそうだ。


「これを飲ませるといい。痛み止めだ。治すことは出来ないが、幾分かマシにはなる」

「あ、ああ。すまん。その」

「代金ならいい。私がしたくてしていることだ」


 結構な速度で歩くメロンを追いかける。

 後ろを見ると、コリーが小走りでなんとかついて来ていた。


 獣の気配がする。


「敵が近いな。もう追ってきたか」


 メロンが歩きながら弓を構えた。


 ヒュン、ヒュンと二発。

 森の茂みの奥へ矢を射る。


「数は、わかるのか?」

「オーガが、三体。飼い犬は五から十の間かな」


 言いながらまた、矢を放つ。


 その時。

 遠く、木と木の間に見た。


 髭を蓄えたオッサン体型の、しかし筋骨隆々の大男。

 肌は赤みがかっていて、ジャラジャラと動物の骨かなんかの首飾り。

 あれはなんだ? 熊みたいな、四つ足の動物に乗っている。

 手には大きな戦斧が。


「見えたか? あれは族長だ。強い人間の匂いでも嗅ぎつけたか」

「……迷いの森にオーガなんて、聞いたことがないが」


 痛み止めを飲んで意識を取り戻したか、アルバートが答えた。


「サイクロプスのせいさ。最近は一つ目谷を越えて幅を利かせている。そのせいでオーガたちは森の中へ」


 そういうことか。

 俺たちが一つ目谷を越えてから、サイクロプスの群れに襲われたのは。


「勝てるのか?」

「多分ね。でも、もし駄目そうならその時はその時だ。全てを捨てて逃げるか、何かを守って死ねばいい」

「簡単だな」

「そうさ。人生は、ただ生きて、ただ死ぬだけだ。難しいと思うのは、難しく考えるからさ」


 そう言って、メロンは立ち止まった。

 俺もそれに(なら)って立ち止まる。


「でも俺はまだ、死にたくねえな」

「ラニは若いからね」


 エルフは長命種だ。

 メロンは見た目は若いが、それ以上の年月を重ねて旅をしてきたのだろう。

 年をとれば、俺もそんなふうに思えるようになるんだろうか。


「鬼ごっこは、ここまでだな」


 メロンの言葉と共に、三体のオーガが立ち塞がった。

 一体は族長で、毛むくじゃらの獣に跨っている。

 俺たちの周りを七体の飼い犬が取り囲んだ。

 族長は獣から降りて一歩前に出た。


「ぅガあオゥ!ガーガ、オガーラぁ!」

「いいだろう」


 族長の言葉に応えて、メロンが一歩前に出る。


「オーガの言葉がわかるのか?」

「いいや。しかし、何を言わんとしているかは、わかる。一騎討ちをご所望のようだ」


 メロンはそう言うと、弓と矢筒を木の側に置いて、剣を構える。

 その姿勢には、自信が溢れていた。

 素人の俺にもわかる。

 弓だけではない、剣も逸出しているのだ。


「ぁがあぁあーラアァ!!」


 族長が右手に持った戦斧を振り降ろした。

 人間ではとても持ち上げられそうもない超重武器。

 斬るというより潰す、という動作。

 当然のように避けるメロン。


 しかし、次の瞬間には振り降ろした斧を持ち上げて、今度は振り回した。速い。


 だが、メロンはもっと速かった。

 掠っただけで致命傷を負いそうな戦斧をものともせずに、一足で間合いを詰めて懐に飛び込んだ。

 斬撃は、見えなかった。

 気づいた時にはもう、族長の首が飛んで落ちた。


「文化の違いかな。私としては、頭領を倒せば残りは引いてくれると踏んでいたんだが」


 見ると、取り囲んでいた飼い犬共は散っていったが、残った二匹のオーガはやる気のようだ。


 俺はアルバートを地面に置いて、剣を構えた。

 一体はメロンがやる。

 なら、俺はもう一体の方だ。


「コリー!」


 俺が呼ぶ頃には、コリーは既に詠唱の態勢に入っていた。


『火片にて降り下るは 火塊の如く 星の道 転んで焼尽しろ』


 火球だ。

 また手の平に乗せているが、今度は熱がってない。

 成功か?


 コリーが火の玉を放り投げると、火球はフヨフヨと宙を漂う。


「…………えっと」


 コリーを見た。

 コリーは目を逸らした。


 俺は気を取り直して、オーガに向き合う。


「大丈夫だ。期待はしてなかった」

「フォローになってないですよ?!」


 落ち着け。集中。

 斧を振り上げるオーガ。

 俺はメロンの真似をして一足で懐に飛び込む。


 身体が、軽い。

 握り直した剣の柄が熱い。

 剣の刃に、浮かんでた火球が吸い寄せられて、赤熱する。


 視界が青白く揺れている。

 ラニの瞳が残光の尾を引いた。

 構うものか。


 いける。

 予感なんかじゃなく、確信に近い。

 放り投げた石が地に落ちるように。

 溢れた水が零れるように。

 炎を纏ったこの剣は、斬れる。


 振り降ろされた斧を目掛けて、ブン、ブン、と二回斬ってやった。

 金属製の斧が、バターみたいに簡単に斬れた。


 オーガは、まだ砕けた斧を振り降ろしている最中だ。

 遅い。

 いや、俺が速いのか?


 そのまま跳ねて通り過ぎる時に、オーガの首を斬り下ろしてやった。


 着地して、辺りを見ると、丁度メロンがもう一体のオーガの首をはねたところだった。

 俺は熱くなった剣を見た。

 赤熱した剣の光が、徐々に消えていった。

 視界も、気づいたら普段通りに戻っている。


 いったい俺は、どうしちまったんだ。





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