十五話目
寝苦しさを感じて寝返りをうつと、むにっとした柔らかい感触が返ってきたので、ラニは目を覚ました。
目の前には真っ白い頭。
ああ、そうだった。
あの後。
泊まってる宿をコリーに尋ねたら、なんとこいつ公園に野宿していやがった。
それで仕方なく『溺れる河豚亭』に連れ帰って、そのまま二人で疲れて倒れて泥のように眠ってしまった。
俺はロリコンじゃないから、誓って男女のあれとかそれとかはない。
昨日は色々あって疲れてたし。
この部屋にベッドはひとつしかないから。
不可抗力だ。
さっきこいつの慎ましい胸に手が触れたのも。
もちろん、不可抗力である。
ラニは身体を起こして、ギクッとした。
コリーが目を覚ましていた。
いや、正確には瞳が開いてる。
ただ、その真っ赤な瞳はガラス玉みたいに何も映しておらず、一点を見たまま、動かない。
「お、おい。コリー」
俺はコリーの身体を揺すってみた。
まるで生気がない。
まさかと思い、胸に耳を当ててみたが、心臓の鼓動は聴こえてきたし、浅く息をする度に、小さく胸は上下に動いている。
それに少しだけホッとして、今度はコリーの頬をそれなりの力で叩いてみた。
「おい!おい!コリー!起きろ!」
白い肌が赤くなるほど叩いてみせたが、やはり無反応。
なんだ? いったいどうした。
少し思索して、思い至る。
そうだ、薬だ。
毎日飲むと言っていた、魔女になる為の薬。
俺はコリーの荷物を勝手に漁って、巾着袋を取り出した。
袋を開くと、無い。
薬が、ひとつも。
いつからだ?
最後に飲んでるのを見たのは。
思い出せねえ。
思えば、ずっと様子がおかしかった。
姉弟子に何か言われた影響だけじゃなかったのか?
「おい!コリー!」
やはり返事はなく、微動だにしない。
「コリー!ここで待ってろ。いいな、動くなよ!見捨てたりしねえ。絶対戻るからな!」
聞こえてるか知らねえけど、俺はそう言い残し、巾着袋を握り締めて宿を飛び出した。
走りながら、考える。
薬の成分は書いてあるけど、どのみち俺じゃあ調合なんて出来ない。
誰か。薬師か、錬金術師か、信用できる魔女に頼むしかない。
魔女。
イチカの顔が浮かんだ。
俺は全速力で図書館を目指した。