十二話目
トンパンさんに紹介された職場は、『ドールハウス』っていう名前のお店だった。
お客さんに、お酒とか食事を提供するお店らしい。
コリーは、下着みたいな透けてるドレスを着せられて、今は鏡の前に座らされ、女の人にお化粧をされている。
「これでよし、と」
鏡に映った自分は、自分じゃないみたいに綺麗だった。
「あ、あの」
「アンジェリカよ。みんなは、姫って呼ぶけど」
ピンク色の髪を揺らして、姫さんは、今度は自分の化粧を直しはじめた。
「ひ、姫さん。ありがとうございます」
「いいのよ。来たばかりだし。今度、化粧のやり方を教えてあげる」
そう言って、優しく微笑んでくれた。
親切にされると、涙が出そうになる。
いけない、せっかく姫さんが化粧をしてくれたんだから。
「おい、出来たか?」
控え室の扉が開かれて、長い金髪の男が顔を覗かせた。
「ほう。悪くない」
「でしょ。この子、可愛いよ」
「俺はライラだ。この店を任されている。お前、名前は?」
「こ、コリーです」
「じゃあ今日からは、アンズと名乗れ」
「あ、アンズですか」
「俺の故郷に咲く花だ。白い花を咲かせ、赤いつぼみをつける」
「あら。あなたにぴったりね」
「お前にはこれから研修を受けてもらう。アンジェリカ、お前も来い」
そう言って、さっさとライラさんは行ってしまった。
アンズ。
私は、このお店で頑張るんだ。
頑張らないと。
「ほら、アンズ。行きましょう?」
姫さんが手をとって、立たせてくれた。
ぶつかりそうな距離になって、凄くいい匂いがした。
そのまま姫さんと手を繋いで、お店の中に入った。
いくつかのボックス席になっていて、それぞれカーテンで仕切られている。
そのひとつに、手を招くライラさんが立っていた。
「いいか。客を待てなすのがお前の仕事だ。酒を提供し、食事をとってもらい、気持ちよくなってもらう。わかるか」
「は、はい」
「基本的に客の言う事は絶対だ。お前に逆らう権利はないし、やれと言われた事はなんでも喜んで、やれ。笑顔で対応しろ」
「は、はい」
「握れと言われたら握れ。しゃぶれと言われたらしゃぶれ。お前、経験は?」
「け、経験って?」
「フン、まあいい。じゃあ、実習だ」
そう言って、ライラさんはカチャカチャとベルトを外して、ズボンを下ろした。




