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魔女と騎士  作者: マリーゴールド
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十一話目

 国立図書館の門を出たコリーは、そのままとぼとぼと街中を歩き始めた。


 コリーは馬鹿です。

 イチカさんと、ラニさんが楽しそうにお話ししているのを隣で見ていて、胸がモヤモヤした。

 イチカさんの露わになった肉体に、ラニさんが狼狽えてて、胸の中がざわついた。

 気がつくと、コリーは図書館を飛び出していた。


 今頃は屋根裏で二人きり。

 どんな話をしてるんだろ。

 どうなったんだろ。

 もしかしたら。

 嫌だ。考えたくない。頭が痛い。


 そうだ、薬。

 今朝は、まだ飲んでなかった気がする。

 昨日は?


 コリーは巾着袋を取り出す。


「あっ」


 無い。

 薬が、もう無い。

 おかしいな。まだあったはずなのに。

 最後に飲んだの、いつだっけ。


 調合、しないと。

 でも、うまくやれる自信がない。

 自信があった事なんて、生きてて一度もなかったけど。


 お願いできるような知り合いの魔女も、薬師もいない。

 そもそも、先立つものがない。


 ほとんど身ひとつで孤児院を旅立ったのだ。

 捨てられたんだっけ。


 お金。お金がないと。

 稼がなきゃ。

 どうやって。


「ラニさん……ラニ、さん」


 フラフラと歩きながら、コリーはラニの名前を口に出した。


 だめだな、私は。

 みんな、そう言う。

 コリーは、ダメだって。

 私も、そう思う。


「ねえ、お嬢ちゃん。もしかして、ラニくんの知り合いかい?」


 声に、顔を上げると、小太りのおじさんが笑いかけてくれた。


「ラニ。ラニくんだろ? 黒髪で、青白い瞳のさ」

「あ、はい。あの、あなたは」

「俺はトンパンっていうんだ。ラニとは、そうだな、親友みたいなもんかな。迷宮で意気投合してな。男同士で語り合ったもんさ」


 ラニさんの知り合いと聞いて、ホッとした。

 また変な人に引っかかって、騙されて、酷い目に遭うのかと身構えてた。

 嫌な思いなんて、もうしたくない。


「その様子じゃあ、なにか困ってるんじゃないか?」

「えっ……わかるんですか?」

「そりゃあね。俺くらいになると、見ただけでわかるってもんさ。でも安心しな、どんな悩みも俺がズババっと解決してやるってばよ。ラニの親友のよしみってやつさ」


 トンパンさんは、そう言ってウインクしてくれた。

 ラニさんの親友のこの人なら大丈夫。

 私は、思い切って打ち明けてみようと思った。


「実は、コリーは、私は、魔女でして、見習いなんですけど、でも失敗作で、魔女じゃなかったんです。捨てられたんです。それで、私は一人で生きていかないといけなくて、でもなにをしても上手くいかなくて。薬も、もう無くて。それで、お金。お金を稼がないと」


 フンフンと、頷いてくれるトンパンさん。


「成る程ね。わかった。このトンパン様に全て任せてくれ」

「えっ」

「辛かったよな。わかるよ。お金を稼がなきゃいけないんだな。だったら、俺が知り合いの店に紹介してやるよ。そこで働くといい」

「い、いいんですか? でも、だって。コリーは、失敗ばっかりで。トンパンさんにも、きっとご迷惑を」


 そこでトンパンさんは、コリーの両肩に手を置いて、しっかりと顔を合わせて瞳を見た。


「大丈夫!俺様が迷惑だって? とんでもない!いいんだよ、失敗したって。俺様が仕事を斡旋する条件は、たったひとつさ。コリー。キミにやる気があるかどうかってことさ」

「やる気、ですか」

「そう。頑張るかどうか。結果なんてどうだっていいさ。そりゃあ、中にはやりたくない仕事を回されることもあるかもしれない。でもな、逃げないで、頑張ろうって気があるのなら、俺はキミにぴったりの職場へ案内してやる。どうだ?」


 そう言われて、コリーは少し躊躇う。

 結果は気にしない。

 頑張るかどうか。


「コ、わ、私でも、やれるでしょうか?」

「やれるかどうかじゃない。やるかどうかだ」


 コンパンさんは、真っ直ぐな瞳でそう訴えてきた。


「わ、私。頑張ります。頑張りたいです」

「よし!その言葉が聞きたかったんだ!じゃあ、さっそく店に向かおうじゃないか」


 コリーは、トンパンに促されるままに、裏路地へと誘われて行った。


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