まったりの理由
南の大平原を縦断し、フレイデン王国領とは名ばかりのファーレランド領へ、約2年半ぶりに帰ってきたマカ。ファーレランド領都に入った三人は、マカが背負子に乗っている以外、偽装カードを使い、冒険者として振る舞いっているため別段目立っていない。
三人は、冒険者ギルドの近くにある食堂にいた。
「ギルフィード帝国軍最高司令官に一年の猶予をもらったのじゃ。して、アデルパラナーズの奴には、結果に関わらずシンホルス帝国へ戻れば、アンの心臓を潰さないと約束させたのじゃ」
「そういうことは、もっと早くに言ってください!」
マカはいつものようにアンに怒られている。その隣ではギルフィードの腹心であり剣術も一流と言われているリードエルと名乗る青年が、黙々と運ばれて来たチキンナンバンという料理を食べていた。
「で、今後の予定はあるのでしょうか?」
「うむ。まずは観光じゃ。どれだけ街が変わったか見てみたい。と言っても、2年前も領都など出歩いたことは無いのじゃが…」
「は、はい!? 先程、1年しか猶予がないと言っていましたよね?」
「いざとなれば、幾らでも方法はあるのじゃ。今は、最良の選択を考える時期じゃ。可能であれば、次の転職まで迷宮に潜りたいのじゃが…」
料理が覚める前に食べてしまおうと、目の前のチキンナンバンに手を付けたアンは、「これは…不思議な料理ですね」と関心しながら食べていた。宮廷料理に近い貴族の料理、魔物の肉に塩をかけて焼いただけの料理、地方都市の庶民の料理、屋敷で出されるメイやエレナの料理など、多くの料理に触れてきたマカにとって、実は…食べられれば文句はないという寛容な舌に育っていたのだ。
「そうじゃの…。メイやエレナにも食べさせてやりたいの」
食事も一段落して、マカが「何処か行きたいところはあるか?」と、リードエルに話題をふる。
「そうですね。剣をメンテナンスしたいですね」
一応、本当に南の大平原を縦断してきたため、武器も防具もそれなりに使い熟され味が出ていると同時にガタもきていた。
「そうか。それなら武器屋にでも行ってみるか、だが、店の良し悪しなど…知らんぞ?」
「完璧な店などありませんよ。ある人に聞かれたら、自惚れるなと言われてしまいますが…。例えば、この剣を見せて剣の状態から、一流の剣士だと判断できる目利きの優れた鍛冶職人いたとして、鍛冶の才能も素晴らしいかと言えば、そうでない可能性もあります。店主だって、強欲な人もいれば親切な人もいますし、正直、冒険者時代も…店選びには苦労しましたよ」
「おぉ…。リードエルは、元は冒険者じゃったか」
「感心するところは、そこじゃないですよ。マカお嬢様…」
「冒険者ギルドに街の地図が売っているので買いましょう」と、リードエルに言われ、マカは素直に従った。
「ほぉ。武器屋も、道具屋も、何処にあるか、まるわかりじゃ」
アンは、お気に入りのメイスをグレードアップすることにした。防具に関しては、補強された皮の鎧の修理代が思ったよりも高く買い替えを薦められたため、ファーレランド領で流行りの薄鉄の鎧に買い替えた。
マカは、防具に関しては擦り傷程度で問題なし。武器には興味がなく素手のままだ。
リードエルというと、剣を思い切って買い替えてしまう。防具は皮の鎧の止め金の交換と、盾を購入していた。
「ふむ。アンの武器のアップグレードと、リードエルの鎧のメンテナンスに一週間か」
「申し訳ございません…マカお嬢様」
「いや、冒険が目的じゃないのでな…」




