信頼されない理由
数軒並んだ武器屋の中から、マカお嬢様が選んだ…物理的に潰れそうな店に入る。店主は挨拶をすることも無く、チラリとこちらを一瞥すると、興味無さそうに自分の仕事に戻った。
王国近衛騎士団時代には単身で一騎当千と言われ、国宝級の剣ヴェンディダードを振れば国士無双と讃えられた俺でも、魔物を討伐した経験はない。つまり、どのような武器が迷宮に適しているかも…わからんのだ。
「店主よ、13階層までの5級相当に適合した剣は、どれかのぉ?」
おんぶされたままのマカお嬢様が尋ねる。
「そこの均一銀貨5枚のワゴンセールの剣で十分だ」
こちらを見もせずに答えた。
「ふむ。では、試し斬りは可能か?」
「おい、お嬢ちゃん。何処でそんな言葉を覚えてきたか知らねぇが、試し斬りするまでもねぇ。そいつらは斬るんじゃね、叩き潰す剣だ。まぁ、そんなに試し斬りがしたけりゃ、そこの皮人形で試すんだな」
「そうか。フレア、決勝戦で見せた『回転貫通突き』じゃ」
「はい。では…」
「回転貫通突きだと!? おい、ちょっと待て!!」
店主が止めるよりも早く、フレアは『回転貫通突き』を皮人形に放つ。分厚い皮を何重にも巻いた皮人形だが、ど真ん中に子供の頭部が入るぐらいの風穴が空き、その背後の壁をもぶち抜く。その衝撃で、試し斬りに使った剣も刀身が粉々になった。
「ふむ。大分、欠陥品のようじゃな」
「はい。迷宮内で折れたら、死に繋がりますね」
マカお嬢様の視線移動に合わせて、俺も店主を見る。
「おいおい、さてはお前ら、新手のたかり屋か、プロの詐欺集団だろ!?」
「なんじゃ? 自分の非を認めず、客をたかり屋呼ばわりか?」
「マカお嬢様。このような店の品物は信用なりません」
ワナワナと震える店主を放置して、マカお嬢様をおんぶすると店を後にし…物陰に隠れる。
「あ、危なかったのじゃ!?」
「店の修理代を請求される前に…逃げ出せて良かったですね…。あの視線だけで全責任を店主に押し付けるテクニックは素晴らしかったです!」
「左様か。しかし、フレアのスキルに耐えられる剣となると、値が張りそうじゃな」
「ですが、あの店主を信じるならば、初級や入門あたりのスキルなら耐えられるかと」
結局、あの店主には悪いことをしたが、別の店でワゴンセールの剣と盾を購入した。そして、大通りにある露店で、初級ポーションを5本買った。
マカお嬢様をおんぶしたまま、冒険者ギルド内の受付カウンター横にある迷宮への入り口へ向っていると、周囲の冒険者達にメンタルをガリガリと削られていきます。
女性冒険者から、冷たい視線が…。
子持ちの冒険者からは「幼児虐待じゃねーの?」等と後ろ指を指され…。
終いには「守衛さん、こいつです!!」と、誘拐犯扱いまでされてしまい、受付嬢のエルザさんに助けてもらうはめになった。
「フレアの顔が怖いからじゃ」と、味方のはずのマカお嬢様まで、この有様。
そして、周囲の冒険者は、俺に一切の謝罪もせず、マカお嬢様には「キャワワね!!」「ほっぺがプルンプルン!!」「ほら、これポーションだ持っていけ」「うちのパーティー来ない?」「はい、迷宮内で食べるおやつ」などなど、声援と貢物のオンパレード。
そんな状況に興奮したのか、おんぶされている状態で「幼女は正義なのじゃ!」と、声を上げ、パンパンと俺の頭を叩くのです。やってられないと、迷宮に逃げ込もうとしたとき…。
「フレア、待つのじゃ! 各種ボードをチェックしていないのじゃ!」
しまった!! なんたる失態!? 危うくお嬢様を危険に晒すところだった…。
「まぁ! マカちゃん、すごいね!!」「うんうん、優秀、優秀!!」という高評価とは正反対に、俺には「おい、マカちゃんを殺す気か!?」「何だよ、使えねぇ、保護者だな!!」「やっぱり、うちのパーティー来る?」と低評価全開だった。
ギャーギャー騒ぐ、暇人たちと別れ、各種ボードを確認していく。
「ふむ。1階層のクエストは、制限なしの薬草収穫祭じゃの…」
「はい。10本で1セット。報酬は銅貨5枚ですか」
「ボスのリポップは3日後じゃ。滞在している人数は0名…人気がないのぉ…」