悲劇の理由
未開拓の半島地方には、エインシェ領地を囲むように、4つの領地が存在する。その中でも南、つまりフレイデン王国の最南端の領地アデルシアにある貧しい都市で、騎士爵の男と娼婦の間に生まれたのが私だ。
娼婦の母親は、騎士爵の男に隠れて私を産んだのだが、当然の如く命を狙われた。必死の思いで母親は私を連れ、領地アデルシアからエインシェ領地の寂しい村に逃げ延びた。
そこで元盗賊の男と住み始める。最近まで、私は本当の父親だと思っていた。
幼少の頃から盗賊の技術を仕込まれた私は、幼馴染のマッシュ、ジョゼフ、カイランと組んで、魔導迷宮ダステム・アンリーチに挑み始めた。
ずっと貧しくても幸せだった。両親は優しく、仲間は兄妹の様に心が繋がっていたから…。
しかし、あの…ギルドマスターのレイクから受けた依頼により、私の運命は一転した。突如、現れた謎の集団。その集団のリーダーが持っていたのは、母親が大事にしていた結婚指輪をはめた指。
「お、お前!! 殺してやるっ!!!」
「くくくっ。威勢が良い。お前が、あのガキを迷宮内で殺せば、両親は無事に返してやろう」
あのガキとは、厳つい男に背負子で運ばれていた女の子。今は、依頼の内容を知っているから…ファーレランド公爵の長女マカ・アルジャーナだとわかっている。
その集団のリーダーは、詳しく幾重にも作戦を立て、確実にマカちゃんを殺す方法を私に叩き込む。いや、そんな生温いものではない…いつの間にか洗脳されていたのだ。
迷宮に入っても、決心が付かなかった。小さな女の子を殺すなんて出来なかった。しかし、 元・王国近衛騎士フレアさんが、『敵意感知』を使った瞬間、私は…組み込まれた魔法の力により無意識に、マカちゃんへ毒ナイフを投げていた。
右腕を切断され、心臓の近くを刺し貫かれた私は、リーダーのマッシュに受け止められた。受け止めたマッシュの鎧にも大量の血が付着した。
「待て、回復役のジョゼフが死んだ。それにアニーから解毒剤を貰ったとして信用できん。一刻も早く、14階層の拠点まで戻るしか無い」
解毒剤を渡そうとしたが、ノウマンが拒否した。当たり前か…。
マカちゃんを連れ、フレアさんとノウマンが去ると、私の頬にマッシュの涙が零れ落ちてきた。出血のため意識が遠くなり始める。恋をしていたかも知れない…最後に告白でもしようとしたとき、魔法使いのカイランが、マッシュに『ショック』の魔法を放った。
マッシュが気絶すると、マッシュの腕から地面に落とされた。
「ごめんよ、アニー。先行した集団が近付いてきた。マッシュを死なせる訳にはいかない。マッシュには死んだふりをしてもらう」
カイランが逃げるように走り始める。しばらくして、先行していた集団が、私たちを一瞥すると何も無かったかのように通り過ぎていく。
最後の力を振り絞り、マッシュの手を掴もうとしたが、力が入らなかった。自分の腕が切断されていたことを思い出したのは、意識が無くなる、ちょっと前だった。
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意識を取り戻したマッシュは、アニーとジョゼフの遺体が無いことに気が付く。そして、『連携』のスキルで、わずかに繋がっているカイランに向って走り出した。