働く理由
今回もいつもの2.5話分のボリュームで投稿します。
徐々に説明していくパターンも考えたのですが、
今回、ドバっと説明しちゃいます。
「帰りたいのじゃ!!」と泣きわめく、マカお嬢様に『高級・とれたて卵で作る甘〜いプリン』(銀貨1枚)を与え、脳内をプリン一色に上書きさせ黙らせた。
その限り無く短い時間で、打開策を考えねばならないと焦るフレア・ロンド。
公共の転移魔法陣ネットワークが封鎖したことに関しては、運営が国の管理下であるため、公爵の権限を持ってしても、どうこうなるものではない。しかし、マカお嬢様は、一応…第二王子の婚約者…いや、禁忌目録の件で、婚約を破棄されてのだった…。
ならば地上を行くべきか? 各領地も領民以外の領土内の通行を禁止だったか。その前に、2つの山脈を含む7つの領地を超えることが、数分も歩くことが出来ない虚弱体質のマカお嬢様では、どう考えても到底無理なのだ。
かと言って、全領地の魔導金融ネットワークが遮断されているため、領地の護衛費口座から資金を調達できない。つまり、手持ちの金貨23枚と心許ない資金で、国家のインフラが回復するのを待つしか無いのだ。ならば、国宝級の剣ヴェンディダードを質に入れるか? いやいや…駄目だろう、国宝級というか、実質国宝なのだ。それに、政変でのファーレランド公爵の立ち位置が不明だ。下手にファーレランド公爵との繋がりを示す剣や鎧を迷宮都市ダステムで披露するわけにもいかない。
最後は、通信手段だ。これもネットワークが完全に遮断されている。古き良き時代の伝書鳩みたいなローテクノロジーっぽい手段はないのだ。しかし、小都市ライゼンの転移魔法陣で、小隊を無理やり帰還させたのだ。こちらの居場所は把握しているはず…。あいつらが、これ見よがしに、マカお嬢様に見切りをつけない限りは…。
やはり詰んでいる気がする。考えに没頭してしまいマカお嬢様を放置していたことに、ハッと我に返る。焦ってマカお嬢様を探すと、お口の周りにプリンのカラメルをべったりと付けて、満足そうに足を椅子の上でバタバタとしていた。
「お口の周りにカラメルが…」
「すまぬな。しかし、フレア…いや、お兄様よ。何を青い顔しておるのじゃ?」
どうにか街娘と、その兄という設定を覚えていたマカだが、未だに政変が転移装置のトラブルの事だと勘違いしていた。それに気がついたフレアは、泣かれたときのために駄菓子屋で大量にお菓子を買い込むと、マカを宿屋の部屋に連れ込んだ。頭の回転は早いがバカなマカお嬢様に、現状を理解させるために…。
***** ***** ***** ***** *****
数時間後…。
「マカじゃ、登録を頼む」
迷宮都市ダステムにある三階建ての冒険者ギルド・魔導迷宮ダステム・アンリーチ支店にいた。現状を理解したマカは、泣き叫ぶどころか「ならば、冒険者になって、金を稼げば良い」と提案してきたのだ。
確かに、何もしなければ手持ちの資金は減る一方。しかし、冒険者になり稼ぐにしても、マカお嬢様を護衛する者がいない。かと言って、雇って護衛を任せられる程に信頼できる人物もいない…って、「まさか、マカお嬢様も迷宮に行く気ではありませんか!?」と聞いた時は、もう遅かった。マカお嬢様は、完全に乗り気だったのだ。
「7歳ですか…」
申請用紙に氏名・パーティー名・注意事項の確認チェックに記入漏れが無いことを確認した受付嬢のエルザさんは、軽くため息を着いた後、(はい、どうみても保護者ですが、何か?)と、逃げ場のない俺に容赦なく冷たい視線を突き刺した。
「はい。理由あって、どうしても迷宮に挑戦しなければならないのです!」
嘘ではない。他人に護衛を任せられないのであれば、仕事をしている間も自分の側に置いておきたい。それに帰宅の手段を考えた時に、どうしても体力が必要となるのだ。ならば、Lv上げをしてしまおうという結論なのだ。
「確かにギルドには拒否する権利はありませんが、常識的に考えても…いえ、何でもありません。大変失礼しました。パーティーはお二人で組むのですね。では、現在のステータスを鑑定いたしますので、あちらの別室までお願いします」
別室に入ると、受付嬢のエルザさんは、説明を求めていないのに語りだす。
「時代の流れと言うか、個人情報が重要視され始めると、周囲の目がある受付カウンターで鑑定が出来なくなったのです。確かに初心者をカモにしようと、鑑定結果を盗み見る不届き者もいましたからね。勿論、受付嬢の私にも見ることは出来ません。さて、鑑定水晶に手を乗せてください」
こちらにとっても、マカお嬢様の素性がバレないため好都合だ。マカお嬢様は、空白の識別プレートを差し込んだ鑑定水晶にチョコレートでベタベタな手を乗せる。鑑定水晶が淡い光を放ち、識別プレートに何やら文字が刻まれると、スッと識別プレートは消えてしまった。
「先程の注意事項にも書かれていましたが、識別プレートは、紛失盗難防止のため、召喚方式になっています。識別プレートには、行動履歴、探索履歴、戦闘履歴、売買履歴、五感履歴などが記録されます。
勿論、プライバシーには考慮いたしますが、これらは、安全な攻略を目的とした情報公開、犯罪防止などにも利用されます。また死亡時には、迷宮ギルドへ自動転送されます」
「召喚はどうやるのじゃ!?」
「掌を上にして、識別プレートを意識するだけです」
「なんじゃ、ボフッと煙のエフェクトが出んのか…残念じゃ」
召喚された識別プレートをつまらなそうに見るマカお嬢様。しかし、その識別プレートの内容に愕然とした。
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・名前:マカ・アルジャーナ(人間・女性7歳)
・職業:巫女(Lv1/10)、スキルポイント:0
・体力:11(-10) ・筋力:10(-9) ・魔力:239(-239)
・習得:霊視Lv1、霊感Lv2、交霊Lv1、降霊Lv1
・状態:深刻な体力低下、軽微な目眩、軽微なスロー、
軽微な病気
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職業が、なんで巫女!? しかもステータスがデバフ? を食らって、1か0に!? 状態も酷いことになっているのですが!? これは…いろいろ大変かも知れない。俺が青い顔をしていると、受付嬢のエルザさんは、次の説明を事務的な口調で始める。
「まずは階級の説明です。前人未到の魔導迷宮ダステム・アンリーチにおいて、他の迷宮と比較した時、1階層から5階層が6級相当、6階層から13階層が5級相当、14から20階層が4級相当、21階層から30階層が3級相当、31階層から40階層が2級相当、41階層から最終到達点の44階層が1級相当とされています。勿論、お二人は6級となります」
「して、6級相当で、一日の宿代と食費ぐらいは稼げるものか?」
冒険に浮かれる幼女かと思いきや、まっとうな質問をしてきたので、襟を正し質問に答える受付嬢のエルザさん。
「回答できかねる質問ですね。パーティーの構成や行動指針にもよりますが、大抵の初心者パーティーは、苦労しながらも生活できています」
「左様か…」
「では、次の説明に移ります。先程いたフロアに、クエストボード、リポップボード、トラフィックボードがあります。迷宮へ入る前には、必ずチェックするようにしてください。
クエストボードは各階級で異なります。フレアさん達は6級のクエストボードです。依頼内容は、主に討伐を必要としない採取がメインになりますが、1階層でも魔物はいますので注意してください。
重要なのは、リポップボードです。こちらは迷宮へ入る前に必ず確認してください。リポップボードには、各階層のボスがリポップする日時が掲載されています。これは階層ボスを討伐した冒険者達の認識プレートから、冒険者ギルドが独自に読み込み作成している情報であり、ほぼ間違いはありません。昨日今日迷宮に挑戦する初心者では、1階層の階層ボスですら、出逢ったら生きて戻れません。
最後に、トラフィックボードです。これは30分以上階層に滞在している人数と、現在階層にいる総人数が表示されます。階層での冒険者同士の狩場争いや、冒険者同士で結成するクラウンの大移動などに巻き込まれないために、冒険者ギルドが提供する情報です」
まずは多すぎる情報を整理するために、冒険者ギルド二階にあるカフェに向かった。