脅威の理由
奴らの付かず離れずは、俺達との戦闘が開始されても変わらなかった。俺とノウマンの間合いよりも更に遠くから、弓や魔法で、チクチクジリジリと攻撃を繰り返すのだ。
背中の背負子で毒と戦うマカお嬢様がいなければ、『銀の呼び水』の二つ名を持つノウマンも背後からマカお嬢様を狙う敵に釘付けにされることもなく、敵に突っ込み勝負は付いていただろう。
「この…意地汚い戦略は、南方地方ヘルメンド領の騎士団か!?」
「くくくっ。流石ですね。元・王国近衛騎士フレア・ロンド様。わたくしは、ヘルメンド領、筆頭魔術師アルゼ・ナーガシェルと申します」
「狙いはなんだ!?」
絶え間無く降り注ぐ矢と魔法を受け、盾がボロボロになる。そして、可能な限り回避するように誘導される…。こちらの体力を削ぎ、足が止まったところで集中砲火を浴びせる作戦か?
「くくくっ。その背負子のガキですよ」
「マカお嬢様の命を狙ってどうする!? 死に政治的な意味があるとは思えんが?」
「何を寝ぼけたことを…。政治的? いえいえ、それどころではありませんよ? 軍事的、歴史的、魔法学術的、錬金術…。そのガキが、何をしてきたか、何故、中央の王族や貴族たちは、その恐ろしい偉業から目を背けるのか?」
「どういうことだ?」
「はぁ…。所詮は騎士ってことですか。
王宮内に存在すると噂された幻の宝物庫を見つけ出し、あまつさえ伝説の王宮魔導師が晩年をかけ、何重にも封印した禁忌目録を、いとも簡単に魔導金庫から取り出してしまった。さらには禁忌目録を読み解き、封印したナニカ(・・・)と契約した。
これがどれ程の…歴史的、学術的快挙か理解出来ますか?
そのガキは、冒険者ギルドの情報によれば、巫女であり、宝物庫を探し出せるようなスキルも、封印を破るようなスキルも、禁忌目録を読み解くスキルも持ち合わせて無いのですよ?
いえいえ、それどころか、技術も知識も発想力も、とても7歳とは思えない。
あっ。それと…王都の治療師も見放す重い病気にかかっている母親のために、エリクサーと言って遜色ない薬品さえも作り出しているのです…。
どうですか? そのガキは化物だ!! 放って置いたら…間違いなく、フレイデン王国の脅威となる!!! 誰かが飼い殺し等出来ません。殺すしかないのですよ!!!」
考えてこともなかったが、確かに…奴の言うことも理解る気がする…。しかし、だから何だというのだ? マカお嬢様に害をなす敵は、全て…俺が倒す!!
「おい!! マカを、こいつの魔法で守らせろ!!」
後方の包囲網を破ったノウマンは、魔法使いのカイランを、包囲網の内側に迎え入れた。彼は、マッシュの所から一人出来たのか? また裏切るのではないのか?
「こいつを信じろ!! もう、それしか手はない」
壁際まで三人で後退する。背負子を下ろし、カイランにマカお嬢様を委ねる。
すると、魔法使いのカイランを追いかけてきたのか、先行していた集団が追いつき、敵の数は一気に倍になった。
「俺が後方を。お前が前方だ」
カイランが結界を張ると、ノウマンが指示を出す。確かに何人増えようと、フリーになった俺とノウマンなら問題ない!
その時、建つのが困難な程に地面が大きく揺れ亀裂が入り、カイランとマカお嬢様が、飲み込まれるように転落した。




