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妄想釣行  作者: 柳キョウ
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釣り談話始まる

やっぱり釣りが好きだ!

私たち3人の再会は、ちょうど10年振りだった。

会社が所有する伊豆の保養施設で、2か月に及び缶詰状態になった新人社員研修以来の再会なのである。


大阪支店配属となった私と、神戸工場勤務となったカズタカとは、ロケーション的に近地だったこともあり、入社式以降何度かは連絡を取り合い、一緒に食事をしたこともある間柄だ。院卒で、年齢も私たちより2年上であるマスジは、入社以来ずっと東京本社勤務だった。

昨年末、マスジは同期の先頭を切って、初級幹部社員へ昇格し、今年の春、私と同じ大阪支店に転属となったのである。

マスジの配属された部署の現マネージャーは、来年60才を迎えるらしく、おそらくは今年10月付の人事で、マスジが同課のマネージャーに任命されることになるのだろうというのが、専らの噂である。女子社員の間での噂であるので、その信憑性はかなり高い。

数年前から全社的に取り組んでいる幹部社員の若返り化が、身近なところで具現化した最初の例と言える。


日頃から私がよく利用する値段も手頃な居酒屋の座敷席で、各々中ジョッキ2杯くらいのビールを飲み干した頃だろうか、カズタカが私に言ったのである。


「キョウイチは今も釣りをしているのか?」


答えはもちろんイエスである。

学生の時分から、というよりガキの頃からの、私の唯一と言っていい趣味が釣りなのだ。

そんな話をカズタカにしたことがあったっけ?とは思ったものの、私は素直に答えた。


「ほぼ毎週のように行ってるよ」


「確かお前はルアー専門だよな。この時期なら・・・海ではメバルくらいか」


どうやら私はカズタカに、自分が釣り好きなことを、いつぞやのタイミングで話したことがあったようだ。まあ、それ自体は不思議なことではないが、(この時期ならメバルか?)というカズタカの言葉には少し驚いた。確かに今くらいの時期から2か月間くらいが、メバル釣りの最盛期なのである。

カズタカにそんな釣りに関する知識があったとは。さらに・・・


「へぇ、メバリングか。俺も東京にいた頃は、房総の辺りまでよく釣りに行ったよ。しゃくを超えるようなメバルは結局釣れなかったけどな」


マスジが釣りをするというのも、これまた初めて聞いた。お互いのことを分かり合っていると言えるほどの間柄ではないが、2か月間寝食を共にしたと言って過言でない研修中も、そんな話はマスジから一言も聞いた記憶がない。

尺というのは長さの単位のことで、一尺とはおよそ30センチである。今どき、尺なんて単位で長さを表現する日本人は、きっと釣り人だけだろう。


「意外だな。マスジマネージャー様も釣りをするのかい?」


そんな私の冷やかしを込めた祝福の言葉に対して、(ばか野郎)という前置きを挟んで、マスジが答える。


「まあ、俺は生まれが海に近いところだったからな」


そう言えば、マスジが何処の出身だったのか覚えていない。覚えていないというより、きっと初めから私は知らなかったのだろう。


「マスジは出身どこだったっけ?」


会社という組織では上席になるマスジに対して、タメ口はどうかとも一瞬思ったのだが、きっとマスジはそれを嫌がるだろうと、敢えてそんな問い方をした。


「九州だよ。長崎さ。それも田舎の方のな」


九州は長崎、それも田舎。海釣りが好きな人間には、全国を見渡してもこれほど釣り環境に恵まれている場所は、そうはない。


「それはそれは、釣り人にしてみれば羨ましい限りだな」


「まあ、釣り好きな人間から見れば、そうかも知れないな。逆に、釣り人以外の人間にとってはへんぴで不便なところさ。そんなだから、子供の頃の遊びと言えば、釣りくらいだったのさ」


マスジが東京の某有名私立大学の博士課程を出ていることは知っていた。配属も東京本社だったので、勝手に彼が関東の生まれだと、私は思い込んでいた訳だ。

ついでと言っては怒られかねないが、カズタカが和歌山の出であることも、この時初めて知った。彼が子供の頃の遊びも、やっぱり釣りだったらしい。やや内陸側だったため、もっぱら川釣りだったそうだが。


こんな話の流れで、私たちにとって10年振りとなる他愛無い雑談は、実は全員が釣り好きだったという偶然と重なり、意外にも釣り談話となったのである。



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― 新着の感想 ―
[一言]  読ませていただいています。 かつて同期の仲間との、旧交をあたためる飲み会いいですね。 やっぱこういう雰囲気いい。 釣り談義がはじまるのですね。  ありがとうございます。
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