ちょっと変わった婚約破棄騒動
私にしては初めての一話限りの短編小説。
暇潰し程度に書いたので読みにくいかも?
一話限りって初めてなので暖かいというか、
ぬるい目で見といてください。
「リリス・ファントム!!貴様をこの国から追放処分とする!!」
そう、高らかに宣言する男。
「…………ふーん。」
「貴様は騎士団総督の立場を利用して、ラーニャに悪質な嫌がらせをしていたそうだな!誇り高き騎士団のメンバーでありながら、なんたる愚行!!よって、騎士団総督の解任と共にラングレイ国を追放処分とする!!未来の王妃たるラーニャを傷付けたのだ、それ相応の厳罰であるっ!!」
自信満々に宣言した男の名はルイス・ラングレイ。第一王子であり、王太子である。金髪に青眼の美形。
「…ふーん。」
「貴様、他に何か言えんのかっ!?そのマイペースさが余計にイラつく!」
「殿下、私情がかなり混じり始めてます。」
「ぐっ…くそ、私としたことが。」
王太子であるルイスを諌めたのが時期宰相であるイルム・ルテット。ルテット公爵家の長男である。ロングヘアーの青い髪。
水のように澄んだサファイヤの瞳。
冷たい印象を受ける知的な美形である。
「ルイ様…私、怖いです……!」
「あぁ…ラーニャよ。怖がらせてすまない。だが、安心しろ。もうじき君を傷つけ、怯えさせる女は排除できる」
「ルイ様……」
「ラーニャ……」
見つめ合い、ルイスの腕の中にいるのがラーニャ・エイル。
男爵家の娘で、平民上がりである。
魔力の強いと言われる漆黒の髪に黒曜石のような大きな瞳。守ってあげたくなるような美少女である。
「……眠い。」
そんな甘々な空気が入りつつも、その場はシーンとしている。
断罪されている当の本人は眠たそうに、全くもって興味無さそうにしている。
彼女の名はリリス・ファントム。
早逝したファントム公爵が残した一人娘で、いくつもある騎士団すべてを取りまとめる総督であり、ルイスの婚約者である。
輝く銀髪に赤く透き通ったルビーの瞳。透明度の高い白い肌。
子供体型のラーニャとは違い、神秘的で艶やかな美女である。尚、背丈はラーニャとあまり変わらない。憂いを帯びた表情は見ているだけで女性であろうと虜にしてしまう。
「殿下、一つよろしいですか?」
「…レイスか。何だ?」
「彼女を追放処分…といいましたね」
「あぁ、そうだが?」
「それは何故です?」
レイス・ラングレイ。第二王子で、副総督を努めている。
「聞いていなかったのか?ラーニャへの度重なる騎士として、あるまじき行為と職権乱用。追放しかあるまい。」
「……言わせてもらいますが、その娘よりリリス様の方が没落した貴族の娘と言えど、高貴なる血筋です。身分はリリス様が上。よって、報告にありました嫌がらせ程度では追放する程のものではありません。」
「ラーニャは未来の王妃だぞ!?」
「……兄上、貴方の婚約者はリリス様だった筈。それに…その娘は随分と身持ちが軽いようですね。平民の血が強く混じっているだけはある…低俗で実に下らない茶番です。」
「ラーニャを愚弄する気かっ!?弟といえど、容赦せんぞ!」
「何をいってるんです?それに、職権乱用とはどういう事でしょうね。私は常にリリス様の側におりましたが…リリス様が職権乱用をした所は見たことありませんね。それに、リリス様は総督という立場にも関心がない。父上が勝手にお決めになったことで、リリス様本人が望んだ訳でもない。」
「だからなんだというのだ!」
「まだ理解できませんか?つまり、リリス様はわざわざ職権乱用をしてまで卑しい女に嫌がらせなどする必要がないのですよ。そもそも、総督を解任したら騎士団は回らなくなりますよ。
内側から崩れていき、敵国の襲撃にも対応できないでしょうね。それに、リリス様のお力は絶大。他国からの信頼と実力。類い稀なる高い頭脳と容姿はまさに世界の宝。リリス様が他の国にわたれば、我が国など簡単に落とされましょう。」
「お前が総督を継げばいいだろう!その女は総督という職務を果たさず、怠惰な毎日を過ごしているのだろう!」
「なにいってんです、あんた。」
既に敬語ではなく、乱暴な言い方になってきている。
「なっ……」
「騎士団の書類仕事やその他諸諸の仕事は、殆どリリス様が請け負っているのですよ。我々が治安維持を主目的に出来るよう、リリス様は他の騎士団のお仕事まで請け負われている。深夜から朝にかけて処理なされている。
リリス様がいなくなれば、騎士団は治安維持や鍛練をする時間がなくなり、国は内側から崩れていくでしょう。」
「新たな人材を募集すればいいだろう。なに、すぐに見つかる筈だ。」
「あのですね……本当に馬鹿か、あんた。」
王太子であるルイスをレイスは冷たい視線で睨んでいる。
「なっ!?バカだと?」
「色恋沙汰にご熱心になりすぎて、現実が見えていないようですね。騎士団総督の役職は不人気なんですよ。
まぁ、馬鹿な貴方にはわからないでしょうね。膨大な書類仕事に鍛練などの指導、長時間の見廻りに護衛の仕事、外交は勿論の事ですが…どれも責任がついてきますね。おまけに今は国の情勢が不安定。他国の監視に防衛線の定期的点検、王家に仇なす貴族や平民の粛清。騎士は最も忙しい職ですが…それを束ねる総督という役職は過労死で死んでも可笑しくないほどハードなんですよ。実際過労死した者もいますし、ノイローゼになった方もいますね。そんな職に誰が好きでなりたいと思うんですか。それに、実は兄上より…リリス様の方がお立場は上なんですよ。」
「なに?私は王太子だぞ!!」
「お忘れですか、リリス様のお家を」
「ファントム公爵だろう?今は亡き王弟……っ!!?」
「漸くお気づきですか。忘れてたんですか?全く……嘆かわしいですね。ファントム公爵は王弟であり、何代も続く格式ある由緒正しき家。その娘であるリリス様は国王の次に偉いんですよ。無論、貴方よりも。まぁ、王ですら容易に手は出せない大物ってことですよ。ついでに大陸一番の実力者ですから。お一人で大国をも塵にする事ができる…この意味をお分かりで?」
「っ……だがっ」
「言い訳はいりませんよ?リリス様、リリス様はどう思われますか?」
「……」
「リリス様??」
「どうでもいい。」
「はい……?」
「茶番すぎて下らない。マジファック。元々そいつ嫌い。別にそこの骸骨ちゃんにあげて構わない。ねぇ、帰りたい。こんな事の為に来た訳じゃない。美味しいもの食べられると思ったのに。ないなら、帰る。」
「リリス様が珍しく沢山お喋りになった…!?」
レイスはリリスが長文を喋った事について衝撃を受けていた。
「レイス、そこか!?そこなのか!?普通、リリスの言動に注目すべきだろう!?いま、ファックって言ったぞ!?」
「相変わらずマイペースなお方ですね!ですが、そこもいいっ……!リリス様の婚約者が兄上など、それこそリリス様に釣り合いません!ここはやはり、私と……」
「…死ね。」
リリスは容赦なく思いっきり蹴飛ばした。周囲の人間は顔をしかめる。
回りから見ても、とても痛い蹴りだった。
「ぐふっ!その蹴り、感じましたよ!」
「変態は死ね。」
まるでゴミを見るような目で頭を足で踏んづけ、見下ろしている。
「その蔑みの目も最高ですっ!!リリス様の全てが愛おしいっ!」
「れ、レイス…お前……」
先程とはうって変わった弟の態度と言動に、普段のレイスとかけ離れた行動にルイスは困惑する。
周囲の人間は引いていて、護衛の騎士たちはまたか、と言いたげに遠くをみている。
「野蛮ですっ!レイはきっとその女に騙されてるんです!その人は最低な人なんですよ!?早くこちらに…レイは私のものなんだから、貴女には渡さない!!」
異様な空気をまた、異様な空気に変えたラーニャ。周囲は何いってんだ、こいつ…とでも言いたげな視線である。
「いつ、私がお前のものになったんです?私は私ですし、飼い主はリリス様だけと決めておりますので。それに、貴女には愛称で呼んでいい等とは言っておりませんよ。そこまではよかったですよ、別に。不快に思っただけですから。
ただ…リリス様を貶したことは許せませんね。所詮は平民上がり…分を弁えない愚かな女ですね。生きてる価値さえあるかも疑わしい。不敬罪にも程があります。リリス様を貶す者は私が地の果てまで追い詰め、嬲り殺してやりますよ。女だろうと容赦しません。私のすべてはリリス様で、私の正義と秩序はリリス様ですので。」
「なっ……ルイ様、何とかして!このままじゃ、レイまであの人に嫌な思いをさせられるのよ!?」
「ラーニャ、いつからレイスを愛称呼びに?ラーニャは私のものだろう?」
「私は皆のものよ!私は愛されてるの!だから、レイもイルも私のもの!他の人も私を好きでなくちゃいけないの!」
「ら、ラーニャ…一体何を言って…」
「あぁ、もう!全部あの女のせいよ!ゲーム通りに進まないし、好感度も全く上がらない!これじゃあ、逆ハーが作れないじゃない!わかった、貴方転生者でしょ!?貴方もこのゲームを知ってたのね、絶対!じゃないと、ヒロインたる私がこんな思いするわけないもの!」
「…頭の可笑しな子。可哀想。」
リリスはラーニャを横目でみて、冷たく言い放った。
「何ですって!?」
「先程から何いってるんです?転生者だとかゲームだとか、頭おかしいんじゃないですか?先程の言動から察するに、貴方は我々をゲーム上の人物だと思い込んでいて世界は自分中心に回っていて、自分は皆から愛される存在だと言いたいんですか?何とも残念な頭をお持ちのようですね。実に愚かです。現実を見たら如何です?」
「なっ!!こんなの、許されない!私はヒロインで、そいつは悪役令嬢なのよ!?何でそいつの方が愛されるわけ!?こんなの、ゲーム通りじゃないじゃない!!」
「……本当に呆れますね。自分をヒロインなどと偽るとは…随分と精神を病んでるんでしょうね。」
「っぅ…!ルイ、何とかして!」
「ラーニャ、すまない。もう…君のことは信じられない。私に一生近づかないでくれ。」
「何いってるの…?ルイ、嘘でしょ?なんでいきなりそんなこと言うの!?」
「……」
「何か言ってよ!!」
「……すまない。君がそんな子だとは思わなかった。」
「っ……これじゃあ、私の今までの努力が水の泡よ!あんたさえ…あんたさえいなければっ!!」
突然そう叫び、リリスの元へ一瞬で間合いをつめる。ドレスの下から短剣をとり出し、リリスの首を狙った。
「遅い。精霊の加護があるといえ、私には勝てない。貴方は精霊に愛され、私は神に愛されている。だから、君が私には勝つことは不可能。残念だったね…。動きもずぶの素人。気配も消せてないし、頭も足りてない。隠し場所もダメ、扱い方もなってない。そんなので… 私に傷をつけられるとでも?」
一瞬でリリスに取り抑えられ、今度はリリスがラーニャの首元に短剣を突きつける。リリスとラーニャには同じ女性と言えど、圧倒的な実力差があった。
ラーニャの憎々しげな瞳とは反対に、リリスの瞳は冷たい。
「リリス様に牙を向くとは、いい度胸ではありませんか。その勇気は称えますが…愚かとしかいいようがありません。兵よ、この者を地下牢…いや、罪人の塔へ連れていけ!!」
「「はっ!!」」
近くにいた屈強な騎士が二人でラーニャを罪人の塔へ連れていった。
残った者は一部呆然とし、ルイスは視線を下に向け、レイスはリリスの足の下にまた自ら潜り込んだ。
「……本気で殺すよ。」
「リリス様の手で命が終わるならば、それはそれで本望ですっ!!」
「……本当に変態ね。騎士として名折れではなくて?」
「おお、ついにリリス様の女王様モードですね!?マイペースなリリス様もよいですが、気品溢れる貴女様も最高です!!」
「……」
リリスはレイスを無視することした。
「さて…とんだ茶番だったけれど…どう落とし前をつけるつもり?私の名に傷をつけ、王太子としての義務を怠った。恋愛にうつつを抜かし、多岐にわたる愚かな言動。廃嫡は免れない。」
「……分かっている。私は王太子として恥じるべき事を起こした。君に反論は出来ない。」
「……まぁ、私はどうでもいい。家名が傷付こうが損はなし。不問に致す事は出来ないけれど、貴方は辺境伯の元で性根を叩き直す他ないでしょう。国王にはこの変態から話すでしょう。精々鍛練に励むことね。」
「…分かっている。本当に、すまなかった。」
ルイスの瞳は後悔という感情に染まっていた。
「別に、気にしてない。私は誰かと一生添うなんて向いてないもの。」
「私ならリリス様のお側にずっといますけどね?」
「お黙り。」
「はぁ、はぁ…リリス様のおみ足が私の腹に……」
「……お前も鍛え直して来た方がいいんじゃないの。」
「そんな!リリス様に会えない日々など私には堪えがたいものです!はっ……!これは、リリス様からの私への試練ですね!?試練を乗り越えれば、私のものになってくれるんですね!?」
「頭、おかしいんじゃないの?」
「レイスよ…それ以上は。」
「ちっ。兄上は黙っててくださいよ。」
「兄に向かって舌打ちか!?」
「 知りませんよ、そんなこと。」
「本当に、変わりすぎだろう……」
「兄上もですけどね。目が覚めてよかったですね、これ以上馬鹿にならずにすんで。」
「なんだと!?」
「……眠い、帰る。」
「マイペースなリリス様に戻った!」
「君は本当に変わらないな……」
「私は私。誰のものにもならない。精々頭を冷やすことね。」
その後、ルイスは辺境伯の元で厳しい修練を続け、身分剥奪にはならなかったが王太子としての資格を失い、他国へ嫁いだ。
ラーニャは罪人の塔で病死し、ラーニャがまとわりついていた令息たちは無事婚約者と結ばれた。
レイスは未だにリリスの追っかけで、あれから四年間プロボーズし続けてやっとお情けではあったが、リリスの婚約者の席へありつけた。
王にはレイスがなり、リリスは王妃として、騎士団総督としてラングレイ国の平和と繁栄に歴代の王妃の中で最も活躍したのだった……。
尚、レイスは未だにリリスに蔑まれても喜ぶ変態であった。
何か最近、私のキャラが崩れてきたような……?
今、短編小説かくの結構ハマってて暫くは短編小説投稿し続けるかもです。
その時は評価と共に感想や脱字、誤字など報告してくれると助かります。
あっ、新たに編集しました。
思い付きで番外編を投稿しました。本当はこの作品で乗せたかったのですが、短編小説から変更する方法が分からず、短編小説としてレイス視点を投稿しました。
【ルイスの初恋】です。私の作者ページ等から見てみてください。