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6:王子の幼馴染み

学園内でサイタテに会った数日後。スフェーン城内でキハルが執務をしていると、幼馴染みのキズナが訪ねてきた。側にアヤトがいないのを見た彼女は、珍しいねと一言。


「"しばらく仕事するから学校行っておいで"って追い出した」

「それで出て行くアヤトもどうかと思うけど…」

「多少渋ってたけどね、命令には逆らえないんだよ。アヤト君は俺のことを信じすぎだよね」


あんなに信じてもらえるほどのことはしてないんだけどな、とキハルは溜息混じりにそう言った。


彼の自分に対する信頼はどこから来るのだろうか。今のところ"王子だから"というところでしか理由を見い出せていない。だからキハルには、アヤトが"矛"という役職に縛られているように見えて仕方がないのだ。


そこまで考えて、ふと、キズナがつい最近サイタテと初対面だったということを思い出した。あの時は適当な理由をつけてサイタテを押し付けたのだが、その後どうだったのだろうか。


手にあったペンを置き、ぐっと体を伸ばす。丁度休憩がほしかったキハルは、余りの椅子にキズナを座らせて、自分も近くの椅子に腰かけた。


「サイタテさんはどうだった?」

「いい子だったよ。心が強そうで"盾"にぴったり」

「げ、お前まであの子の味方に付くのかよ」

「いえいえ、とんでも御座いません。私はいつでも"殿下"のためを思ってますよ」


ニヤリと口角を上げてわざとらしくそう言うので、キハルは「ふん」とそっぽを向いた。彼女は昔からこういう意地悪なところがある。同い年ではあるものの、自分よりも幾分か上を行く彼女にいつもからかわれてしまうのだ。


一方キズナはいじけてしまったキハルを見て、いじけさせた張本人ではありつつも、こうも簡単に感情を揺り動かされる幼馴染みが心配になった。


人として、彼のこういう素直なところは素敵だと思うし、無理になくすものでもないとは思っている。しかし王子としてはどうなのだろうか。まず、重役等はあまりよく思わないだろう。


カトレア陛下も素直で無邪気な人だが、彼女はそれをも自分の魅力に変えてしまう。彼女は魔術にも長けているため、もしかしたら扱う魔術がそうさせているのかもしれないのだが。反対に、息子のキハルは魔術も剣術も才能がなく、一応本人も努力してはいるのだが、それが一向に身を結ばないのである。頑張りや苦労というのはなかなか周囲に伝わりにくいもので、いつの間にか勝手に「体たらくな王子」というレッテルが貼られてしまっていた。


王位継承まで残り約1年だが、曰く「体たらく」で子どものように素直な王子に、周囲は心許無さを感じているのだった。


「…そうだ、あと3ヶ月で誕生祭じゃない。準備はどう?」


キズナが露骨に話題を変えたのを、キハルは「こいつ、露骨に話題を変えやがったな」というような目で見た。言いはしなかったが。


毎年、カトレア陛下の誕生日の前日と当日に催される誕生祭。この日は式典やパレード、普段はあまりない露店などがあり、国全体でカトレア陛下の誕生を祝う日である。去年から、その準備は主に王子であるキハルに任されている。


「…進んでるよ。流石に3ヶ月前だからね」

「確か去年は露店が多すぎたのよね。今年は大丈夫なの?」

「よく覚えてるな。今年も多かったんだけど減らしたんだ、甘いものを売ってる店もあった方がいいんだろ?」

「そうそう! そうなの!」


嬉しそうにパタパタと足を動かす幼馴染みをキハルは微笑ましく見ていた。


昔から甘いものが好きだった彼女が、去年の誕生祭で「甘いものも食べたいなぁ…」とぼやいているのが頭にあったので調整してみたのだが。こんなに喜んでもらえるのなら、やって良かったと少しは思える。


それからしばらく誕生祭の話で盛り上がっていると、扉をノックする音が聞こえてきた。


「失礼します、ただいま戻りま…キズナ」

「おかえり、アヤト君」


キズナの姿を見た途端に固まったアヤト。キハルは空気が壊れないよう努めて何事もなく振舞ったが、それでもアヤトは困惑したままなので、見かねたキズナは立ち上がり椅子を元の場所に戻した。


「私、そろそろ行くね。ありがとう」

「…こっちこそありがとう、いい息抜きになったよ」


キハルに手を振って扉の方に向かう。途中、未だ固まっているアヤトを素通りして、扉に手をかけた。しかしそこでぴたりと手を止めて振り返った。


「…ねえ、キハル。最後に一ついい?」

「何?」

「貴方…いつもこの城内か学園でしか見かけないけど、最後に"外"に出たのはいつ?」


その質問に、今度はキハルが固まった。


キズナの言う「外」とは、"(ガーデン)"の中心部から離れた村や他国のことである。昔は頻繁に"外"へ出向き、城では知ることができない国の現状を実際に確かめたものだが。


「その様子だと、もうずっと出てないのね」

「………自分の身も満足に護れやしないのに出てもしょうがないから」


キハルは項垂れて弱々しく答えた。それと同じくらいアヤトも暗い表情だった。


もしかしたら、彼らは一生このままなのかもしれない。過去に囚われて動けなくなっている。それに加えて周りの人々の何気ない言葉が彼の心を傷付けて、自尊心を無くしていく。一体、誰がこの人たちを助けてくれるのだろうか。


キズナはふいに、サイタテの顔を思い浮かべたのだった。

姫さんに城を追い出された悲しみのアヤトは、身体学(実技)の授業にて他の生徒たちをちぎっては投げ…ちぎっては投げ…。


サイタテは次回出てくる予定です。

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