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2:既に出会って数日後の話②

手を振りながら満面の笑みでやってきた騒音の主は、2人の目の前で足を止め、ぺこりと一礼する。


「おはよーございます! 姫さん! アヤトさん!」

「何が"おはよう"だテメェ!! 気安く話しかけんじゃねぇ!!」

「ちょっ、アヤト君!」


素早く剣を引き抜いたアヤトは、キハルが静止するのも無視して迷いなく少女に刃を向けた。少女の肩めがけて剣を振る。


「うわぁっ!」


なんとも間抜けな声だが、少女はしっかりとアヤトの剣を避けている。避けられたアヤトは大きく舌打ちして、次の攻撃の構えをした。


「避けんじゃねぇー!!」

「待って待って! 挨拶しただけじゃん!」

「もう近付くなっつったろーが!! てめぇなんかを"盾"とは認めねぇ!!」

「アヤトさんのケチー!」

「んだとてめぇーー!!」


「ふ、2人とも止めてよ! 特にアヤト君!」


次々と攻撃を繰り出すアヤト、それを余裕で避ける少女、止めたいのに止め切れないキハル…数日前と同じ構図に、キハルは「またこれか…」と溜息をついた。


この青髪の少女こそ、兵士たちが噂していた不在の"盾"の志願者である。彼女は数日前、突然キハルたちの目の前に現れたのだった。


名は確か───、


「ちょこまか逃げやがって…っ、待ちやがれチビ女!!」

「だぁーかぁーらぁー、"サイタテ"だってば! オレはアヤトさんの名前すぐに覚えたのに!」

「んな変な名前覚えるかっての!」

「えーっ? これでも覚えやすいように短くしたんだよ?」

「あ?」


サイタテのその言葉に、アヤトが思わず動きを止める。


「"姫さん専属の最強の盾"、略して"サイタテ"!」

「てめぇのネーミングセンスはどうなってんだ」

「それってつまり偽名ってことじゃないか…」


何故か誇らしげに胸を張るサイタテを前に、2人は呆れる他なかった。

呆れたことですっかり戦意喪失したらしく、アヤトは溜息をつきながら剣を鞘に戻した。それを見てキハルは安堵の溜息。アヤトを怒らせた張本人は未だ胸を張って誇らしげに立っている。


そこへ、重役の1人であるロウリエ卿が現れた。


「おお、これはこれは…おはようございます殿下」

「ロウリエ卿…」

「何かお困りのようですね、如何されました? …ああ、この者ですか」


キハルが答えるより前に、ロウリエ卿は一人、サイタテを見て納得した。キハルが"盾"を望んでいないことは周知の事実なので、この場にサイタテがいることですぐに察しが着いたようだ。

そして、ロウリエ卿の反応を見るからに、サイタテが"盾"を志願しているという話は上まで伝わっているらしい。キハルはロウリエ卿が「今すぐこの者を"盾"に致しましょうぞ!」などと言うのではないかと身構えた。


「私も…殿下に"盾"は不必要だと思っているのですよ」

「「「え?」」」


が、ロウリエ卿の予想外の一言に、3人とも間の抜けた声を上げた。


「殿下はもうご立派な第一王位継承者です。 "盾"などという甘ったれた存在などいなくとも、ご自分の身はご自分で守れましょう」

「は、ははは…」


予想外に期待をかけられていることを知り、否定も肯定もできないキハル。口をついて出たのは乾いた笑いだった。


「いっそのこと、アヤト殿も"矛"を辞めてみては」

「あ?」

「ちょっ、アヤト君!」


険しい表情で剣に手をかけるアヤトを慌てて止めに入り、ちらりとロウリエ卿の顔色を伺ってみたが、ロウリエ卿はさして気にする様子もない。キハルに止められたアヤトは不満げに剣から手を離した。


「ろ、ロウリエ卿…その話はまた今度に…」

「おおっ、そうですね! ではまた、いずれ」


最後までニコニコと表情を崩さないまま、ロウリエ卿はその場を立ち去っていった。ロウリエ卿の姿が見えなくなると、キハルは深い溜息をついて「アヤト君、ごめんね」と謝った。


「いっいえ! 俺こそカッとなっちまって…申し訳ありません」


アヤトなりに先程のことを反省しているらしく、深々と頭を下げた。


申し訳ないと思っているのはキハルに対してだけであり、「"矛"もいらないだろう」の発言をしたロウリエ卿に対しては申し訳ないなど微塵も思ってはいないのだが。


一部始終を見ていたサイタテは「姫さんも大変だね」とだけ言って、ロウリエ卿と同じ方向へ去っていった。

出会って1週間ほどしか経っていない頃の話。ほぼ毎日押しかけられています。

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