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時の過ぎ行くまま  作者: 犬神まみや
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紺青の決別 003

「藤堂さん! 俺はここです!」


と私が答えたのを聞くと、相対する男はいよいよ焦りが募ったのか、やにわに駆け出そうとする。


「逃げるのか!」

叫ぶか叫ばないかのその刹那、私の背後から素早く駆け込んできた平間氏が、私の右横をすり抜け、男の背後に回ると背中からバッサリ一刀両断にしてしまった。


男がのけぞり一度呻き声をあげ、もんどり打って倒れた所に、平間氏は更に刀を振るおうとした。


「平間さん!?」


私が叫ぶと、平間氏はじろりとこちらをみて苦々しく怒鳴った。


「遊んでんじゃあねえよ! てめえ、なんでコノ野郎をとっととぶった斬らなかったんだっ」


その言葉に私もムッときて、声を荒げる。


「捕縛して私を襲った詳細を訊こうとしたのです! 余計な殺生は無用!」


すると、平間氏は私の胸倉をひっつかむと、自分の方へ引き寄せ怒号した。


「こンの…ガキが!坊さんみてえな事ぬかしてんじゃねえぞっ! てめえの腕ならこんな奴あっという間に斬れただろうがっ」

「新撰組の職務を全うするのが優先ですッ! 私は間違えていませんッ!」

「なにぉを!?」


どちらも引かないのを見てキリがないと思ったのだろう。


「おい、二人ともやめろ、やめねえか!」

平山氏が静止に入る。


「平間の、沖田の言う事にも一理ある。

実際我々はただの人斬りじゃあないんだぞ?

こいつらの首謀者を吐かせるのも大事な役目だろうが」


そういいながら平山氏は平間氏の肩に手を置いた。


だが、その手を振り払って平間氏は

「うるせえっ、どうせただの不貞浪士だろうがよっ! クソッタレが!」

と叫ぶと、肩を怒らせながらそのままスタスタと歩いてど。何処かへ行ってしまった


「すまねえな。沖田の。どうもなにやら奴は虫の居所が悪ィらしい」

平山氏の言葉に私はコクリと頷いた。


「それにしても・・・」

平山氏は周囲を見回して呆れた顔に変わる。


「これは全部おめえが一人で?」


そうだった。

私はハッとし言葉に詰まる。

その様子を見て平山氏が怪訝な表情でクビをかしげた。


そうこうしている所で私が投げた提灯に灯りを点け直し、藤堂氏が安堵の笑顔を浮かべてよってきた。

「ありがとう。提灯は壊れてなかった?」

「ええ、大丈夫でした!それより沖田さん、ご無事で何よりです」

「全くだね、流石に肝が冷えたよ」

私は肩をすくめながら、斬られて倒れ伏す男たちの傍に寄ってみる。

提灯の灯りをかざして男の一人の切り口を見て我ながら呆れた。まるで躊躇のない斬り方だ。


そこへ平山氏が隣に片膝をつき、斬られた不貞浪士を覗き込み、その手に握られた刀を見て言う。


「刀がしっかり砥がれてる。こいつぁもう人をハナから斬るつもりの刀だわい」

「ええ、俺もそれは思いました」


次に平山氏は男達を調べ様とするも、

「ちっ、ここじゃああんまりにも暗すぎらぁ、運んで検死するか。……そこの、あー若ぇの!戸板ァ屯所から持ってくる様にいってくれぃ」


それを聞いて、先日入隊したばかりの高田君が、震える声でハイと返事をして走り出した所で「待って」と声をかけた。


「高田君。俺も行くよ。なんせさっき出てきた男たち以外にもこの辺で気配がしたんだ。誰ぞ隠れてたら困る」


そういって彼の横並び、顔を合わせ頷きあうと、そのまま二人で屯所へ向かって走り出した。


+++


前川邸へ帰還した我々は、直ぐ様男達の身元を調べたのだが、結局、何も判明しなかった。

証拠となる様なモノを何一つ身に着けていなかったのだ。


「まぁこやつら、身なりからみてもただの雑兵よ。

奇襲に成功すれば御の字、だが返り討ちにあう可能性も重々考えたであろう。こやつらの親玉がいるとして、身元になるようなものを持たせるほど愚かではなかろうさ」

と芹沢氏は呆れたような顔で、

「まぁ気を付けとけよ、沖田の。我々が狙われてる事には変わりはないからなぁ。あと独り歩きはできるだけしないように下ッ端どもには伝えとけ」

とだけ言い残しさっさと八木邸へと帰っていった。


珍しく酔っておらなんだなぁと思った後に、思わず己の身を芹沢氏に案じられる状況にじわりと気付いた。


その上で、これからの事を考え、また

胸の奥がざらついた。


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