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とある家畜のプロローグ

 現代日本では平凡だった男が、異世界で大活躍。

 神様に超絶パワーを与えられ、現実という柵から解き放たれて大暴れ。

 チートでハーレム。一夫多妻制万歳。

 それは誰もが一度は妄想する痛々しいまでの夢物語かもしれない。


 しかし、神を必要とするのは人間だけだ。

 人間以外の動物は、空想上の超越者に救いを求めるほど愚かではない。

 

「うそだろ?」

「一体、なんなんだ!? あれは……あのバケモノは……」


 誰かが言った。


 家畜に、神は、いない。


 事実、彼らに神など必要ない。

 彼らの力は、胡散臭い『神』などに与えられた紛い物では決してない。

 一個の命が、その血統が淘汰から逃れるべく掴み取ったもの。

 彼ら自身の才覚によって作られた力だ。


 それがいままで評価されなかったのは、周囲との相対評価のみが、彼らのすべてだったからに過ぎない。

 十以上の同族が競い合い、二位以下では勝利とは見なされない。

 同じ時代により優れた個体がいただけで、その値打ちは半減。

 賞金を稼げなければ、家畜以下の扱いしか受けられない経済動物。

 たとえレースに勝利し、栄光を勝ち取り、晴れて種牡馬としてのキャリアをスタートさせても、産駒たちの成績次第では容赦なく斬り捨てられる。

 かつて競馬新聞を賑わした優駿のたった九割の才能しか受け継げなかった落ちこぼれは、社会の片隅で人知れず殺処分されていく。

 感動をありがとうなどと無責任な感傷に浸りながら、他者によって容赦なく強要される尊厳死。

 無邪気さゆえの熱狂のベールの下に渦巻く強欲の坩堝。

 そんな狂気の選抜淘汰をたとえ辛うじてであっても生き抜いてきた種は、もはやこの世界の人々が考える『ウマ』とはまったく別の生き物だ。


 エフテンマーグ馬術競技会 ―― 襲歩競走の部。


 スタートダッシュで飛び出して、常軌を逸したハイペース。

 それが彼の巡航速度ということなど、誰が予想するだろう?

 競走馬ではない馬の襲歩など、せいぜい時速40キロ台。

 ジャマイカの短距離選手の瞬間最高速度より少し速い程度にすぎない。

 片やサラブレッドは1ハロン13秒で流しても時速54キロである。

 この世界の基準ではまぎれもなく駿馬と呼ばれる出走馬たちが、泡を吹いて失速していく中、彼は砂塵を巻き上げ速度を上げていく。

 追随どころか、後塵を拝することすら許されない。


 そして、最後の直線で異次元のラストスパート。

 気力を振り絞り、全力で走って追いかける目標がみるみる小さくなる光景を、追跡者たちは屈辱と共に味あわされるのだ。

 あんな生き物が存在してよいのかと……

 走るフォームがまるで違う。

 さもありなん。およそ四百年間にわたる人間のエゴと狂気の品種改良の結実が、十馬身、二十馬身程度の差で済むはずがない。

 あれはまさに、悪魔が生み出した究極の芸術だ。


 ―― もしも、この世界でサラブレッドが走ったら? ――


 他の馬蹄の音をはるか後方に置き去りにした、終始圧巻の一人旅。

 それが新天地における彼のデビュー戦だった。


「家畜に神はいないッ!」 出典:Final Fantasy Tactics アルガス・サダルファス

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