少年は散歩をするようです(後編)
遅くなりました。
少し前から忙しく日々が続いており、あまり執筆の時間が取れないので少しの間、今回と同じ位の期間で投稿することになると思います。
ご了承ください。
「ふんふふんふふーん♪」
ご機嫌なのか、小女は鼻歌を歌いながら軽くスキップをしている。
長い金色の髪を揺らし、小さなその身体をリズム良く動かしながら。
「リア、あんまり動くと手が離れちゃうよ」
僕はそんな少女、リアにそう声をかけた。
「にぃ、ごめんなさい」
リアは手が離れてしまうことが嫌なようで、素直に謝り、そしてスキップを止めた。
しかし、それでもまだ小さく身体が動いているのは楽しいと思っている証拠なのだろうか。
現在僕たちは家から5分程歩いた場所にいる。
ユリード村は人口は少ないが、敷地面積は広大な村である為、まだ村のほんの少ししか、歩いていないことになる。
因みに村にある家は全て、僕の住む家、つまり村長の家の周辺に集まっており、村の敷地の半分以上は現在、村の共同の畑として使われている。
もし、新しく住みたいという申し立てがあった場合は、そこの畑の部分に家を建てていくことになる。
家を出てすぐに言ったリアの言葉通りならば、今回はそこの畑の先の方まで歩く。
何でも、そこにリアのみたいものがあるらしい。
基本的に普段の散歩の時は家々のある部分だけで、畑の方までは歩かない為、畑の先に何があるかを僕は知らない。
恐らくリアは、両親のどちらかにその場所に何があるかを聞き、興味を持ち今回の散歩に至ったのだろう。
「ねぇ、にぃ。散歩楽しいね!」
不意にリアが僕の方を向き、笑顔を浮かべそう言った。
…ただ歩くだけ。
そう考えると何てことないのに、なぜか僕も楽しかった。
前世では兄弟なんて居なかったからこそ、そう思うのもあると思うが、恐らくは隣を歩くのがリアだからというのもあるだろう。
いつもニコニコしていて、僕の後をちょこちょことついてくる妹。
その愛くるしい姿は、僕だけでなく村中の人を笑顔にしてしまう。
そんな妹と一緒だからこそ、楽しいのかもしれない。
だから僕はリアに、
「僕も楽しいよ」
と、そう返した。
その言葉を聞いたリアは此方を向き、ニコッと笑った。
…その後、僕とリアは談笑しながら数分程歩いた。
…と、ここで、不意にリアが何かに気づいたかのようにある一点に目を向けると、一言言葉を発し、そちらの方へと駆けて行った。
「あ!フィオナちゃんだ!おーい!」
「あれ?リアちゃん!おはよう!」
リアの向かう先。
そこには1人の少女が居た。
肩にかかるくらいの短いレモン色の髪に、色素の薄い、しかし健康的なシミひとつない肌。
リアと比べると少し成長している身体は、今純白のワンピースに包まれている。
そして、何よりも、彼女を特徴付けるものとして、先端の尖った、人族よりも少し長めの耳が見受けられる。
そんな彼女の名は、フィオナ。
年齢は9歳で、僕の幼馴染に当たる少女だ。
先の尖った長めの耳は、エルフ族の特徴の1つであるのだが、彼女の耳はそれに比べると、少し長さが短く尖り方も緩やかなものである。
…そう。そんな特徴をもつ彼女は、エルフ族の父親と、人族の母親の間に生まれた、ハーフエルフと呼ばれる人族とエルフ族のハーフなのだ。
ハーフエルフと言えば、どの国でも迫害対象となってしまう。
そのことをわかっていながらも、人族とエルフ族との間で恋をした彼女の両親は、やっとのことで僕の住むこの村を見つけ、そしてフィオナという子を授かったのである。
「フィオナ。おはよう」
そんな目の前でリアと抱き合い、笑顔を浮かべているハーフエルフの少女、フィオナに僕は其方の方に歩きながらそう挨拶をした。
「ユウくんおはよう!」
それにフィオナは笑顔で返す。
そして、疑問に思ったことがあったようで言葉を続ける。
「今日はどうしたの?いつもはお昼頃にこっちの方に来るのに」
「なんかね、リアがみたいものがこっちの方にあるらしくて…散歩をしているんだ」
僕は、小さく笑いながらそう言った。
リアはそれにウンウンと頷き、にこりと笑う。
「そうだったんだね!」
それにフィオナは笑顔でそう返した。
その後、僕とリアとフィオナは10分程度話をした。
そして、その後未だ話をしているリアに向けて話しかけた。
「さて、あまり遅くなってもあれだし、リアそろそろ
いくか?」
それに対し、リアは了承の返事をすると、フィオナに挨拶をし、僕の隣にきた。
「フィオナ。また今度な」
「フィオナちゃんまたねー!」
そして、再度彼女に挨拶をすると、手を振りながら僕とリアは歩き始めた。
◇
「えーっと、この辺りなの?」
「うん!この少し先にあるの!」
あの後、僕とリアは更に数十分歩いた。
畑エリアにもたどり着き、そこを抜けると、目の前には木々が並んでいた。
今、僕とリアはその目の前にいる。
「ここって、入って大丈夫なの?」
目の前が木々の密集した場所である為、危険なのではないかと、僕は思った。
しかし、そんな僕に対して、リアはお父さんとお母さんが大丈夫だと言ってたから安心してと、僕に言うと、僕の手を引きその木々の方へと歩き始めた。
僕は、ただ引っ張られるままに、木々の並ぶ林の中へ入った。
そして歩くこと数分、不意に視界が開けた。
そこには…
「うわー!凄いな。これ」
思わず僕が感動してしまう程の、そんな光景が見えた。
一面に広がる花々は、色とりどりであり、その様相は見るものを魅了する景色であった。
さらに、その花々の中には、小さな湖があり、水の綺麗さからか、太陽の光を反射して、キラキラととても強い光を放っている。
これ程のものが、この村の近くにあったなんて、何故僕は今まで知らなかったのかと、後悔の念が浮かぶほどの景色。
その景色に僕は、思わず笑みを浮かべていた。
と、ここでリアがその景色を見ながら話しかけてきた。
「ねぇ、にぃ。凄く綺麗だね」
「うん。凄く綺麗だ。リアが見たいと思ったのも頷けるよ」
だから僕は素直にそう返した。
そんな僕の返答に、リアはうーんと小さく唸ると、こう言葉を続けた。
「うーんとね。確かにリアがみたいって思ったのもあるけど、1番はにぃにこの景色を見せたかったからここに来たんだ」
「え。リア?」
僕は驚きを含んだ声で反応する。
「にぃ、昨日誕生日だったでしょ。それでどんなプレゼントにしようかなって考えて、これが1番良いかなって思ったんだ」
そんな僕の驚きを見て、にこりと笑った。
そして、リアは僕の方を向くと、満面の笑みでこう言った。
「にぃ、お誕生日おめでとう」
…と。
妹の優しさ、そしてサプライズでプレゼントができるほどに成長したその姿に、僕はとても感動し、そして
「リア…ありがとう!」
と素直に返した。