【弐話】打師への道~入江高太のドラム講座Ⅰ~
熱が冷めないうちに何とか仕上げていきたいと思います。最近は無気力症候群で大変です。
「よし、じゃあ基礎練習を始めようか。ここの料金は無料だから気にしないで。」
二人がいるのは、高太の別荘にあるスタジオである。通称、『入江スタジオ御殿』。
ドラマーあり医師でもある『二つのDr.』父、涼介と伯父で不動産王のベーシスト、ギタリストの涼平が共同で建てたスタジオ御殿でありギター関連、ドラムセットの機材があったが、キーボードが無かった。しかし、母の美雪がピアニストでキーボードを持っておりスタジオに置いたため完成することが出来た。
高太は笑顔で、明菜に接する。
恋だの愛だの知らない歳であったが、女の子には優しく接するのが基本だと彼は思っていた。
「入江君お願いします。私に出来るかなあ…」
「心配することはない。楠山さんなら出来るよ。パーカッションでティンパニやってるんだろ?まずは、叩いてみろ。どんな音が出るか。最初から用語とか難しいことに悩まされると嫌だからなあ。よし!やってみろ。」
楠山さんは、半分恐る恐るドラムを叩く。ティンパニの時、優しく叩いていた彼女にとって力加減が分からなかったようだ。
高太は、楠山さんに言った。
「ビビりすぎだよ。もっと激しく叩いて大丈夫だよ。僕が見本見せるから、代わって。…じゃあ、やってみて。」
「分かったよ。私、叩いてみる。」明菜の演奏するドラムは、初心者にしては上手く叩けていた。
「楠山さん、なかなか上手く叩けていたよ。初心者にしては目を見張るばかりだ。」
「明菜で良いよ。私、魂を入れ替える人が他人行儀だと嫌だから。」
「じゃあ、明菜。俺も高太でいい。さあ、スティックの持ち方から教えるぞ。」
「分かったよ。」
「スティックの持ち方には二種類あるんだけどね。ロックは一つで良いの。レギュラーグリップとマッチドグリップの二種類があるけど、後者のマッチドグリップで叩くんだ。」
彼女は一生懸命メモを取っていた。このストイックさが吹奏楽部部長代理まで上り詰めることが出来た要因の一つであろう。トップに立つ人ほど真面目に物事に取り組んでいる。俺とはほど遠いな。
「入江君!それでどのようにスティックを持つの?」
「何だ書き終わったのか。待ってたのに。」
「待ってたんじゃなくて息抜きしてたんでしょ?」彼女は可愛い声で言った。絶対なんか狙ってるだろう。
「そうだな。よし、マッチドグリップってのはな。一枚岩じゃなくてここからまた三つに分かれるんだよね。一つがアメリカングリップ、ジャーマングリップ、フレンチグリップの三つがあるんだ。一つずつやってみるよ。」
高太は順番にやってみた。
「あっ!最後の持ち方ティンパニと一緒。私、あの持ち方でずっとやってた。」
「そうか。フレンチグリップは、ティンパニーグリップとも言ったな。あの持ち方でやる人ばかりじゃないと聞いたが。君はこのグリップでやってたんだな。」
「うん。この中のどれか一つで叩けば良いんだよね。」
「基本はアメリカングリップで叩くんだけど、フレンチグリップで叩いてみるかい?大音量が出せないという欠点と手首の可動域が極端に狭くなるっていう欠点があるけど。音量の方は、ボーカルの声を響かせるための工夫にすれば何ら問題は無いんだけどね。問題は手首を痛めないかどうかだ。」
「うん。私、今まで通りのやり方で叩きたい。それで、高太はいつも何グリップで演奏してるの?」
「イースタングリップ。」
「何それ。そんなグリップあるの?」
「冗談だよ。それは、テニスだから。俺がいつも使ってる握り方は勿論、フレンチグリップだよ。」
「決まりね。それで練習するわ。」
「慣れたら声かけてくれ。それまで作曲してるから。隣のスタジオで待機してる。」
まだまだ練習は始まったばかりだ。
読んでいただいて有り難うございます。おかしな点があればご指摘ください。筆者はドラマーではないので、きっとおかしな点もあると思います。優しくお申し付け下さい。