NPC?いいえ、○○です。
お待たせしました。
8話です。
目の前に、数人が2列になって待っている。
彼らが待っているのは朝ごはんだ。
もちろん俺も朝ごはんを食べる為に、この列に並んでいる。
「あふぅっ」
夏休みに入ったから、ちょっと夜更かししちゃったから眠くて欠伸が出てしまった。
目の前の列はその間もするすると進んで行き、あっと言う間に俺の番になった。
「はい、待たせたね。何にするかい?」
目の前の男性が退いて俺が受付に立つと、目の前には、白の三角巾と割烹着を着たおばちゃんがニコニコしてたが、俺を見たらおや?って顔をした。
「見かけない顔だね?注文の仕方は分かるかい?」
「あっえっと、どうやるんでしょう?」
あー!
そうだった!
すっかり忘れていた。
昨日の内に真司に注文の仕方聞いて置こうと思っていたのに、忘れてたー!
「やり方は簡単さ!ここに書いてある商品と数を言ってくれればいいのさ。こっちは別の貨幣になっちまうから気をつけるんだよ」
トントンと台の上の商品名を書かれた紙を叩きながら、おばちゃんは教えてくれた。
メニューボードをよく見ると、白地に黒の文字で商品名と値段がかかれていて、写真とかは付いていない。
ただ、タッチパネルみたいになっていて、商品名をタッチすると空中に映像が浮かぶようになっていた。
その映像を上下左右に振れば、ちゃんとその様に動く。
何だか、ファーストフード店の注文の仕方と同じ感じみたいだな。
さらにびっくりしたのが、右上に課金商品って表示されていて、それを押すとメニューボードがサッと変わって、今度は黒地で白い文字でよく見慣れたのが書かれていた。
例えばコンビニの商品だったり、ファーストフードの商品だったり、あとは東京の名産品とかが表示されていた。
値段は実際のよりちょっと安いのと、1個単位で買えるみたい。
「えっと…どれにしよう」
課金アイテムは論外なんだけど、選べるメニューが多いんだよな。
どれにしよう?
うーん、セットメニューも何種類かあるみたいだし、あっでも、この単品のも食べてみたい!
「私のオススメはやっぱり日替わり朝食かなぁー。えい!」
「うえっ!えっ?どちらさん?」
俺が悩んでいたら、眼鏡の女性にいきなりほっぺに人差し指で、ていってされた。
イタズラや絵文字で良く見るあれだ。
あれ?この人どっかで見たような…
「後ろが混んでいるから、早めにね♪」
「えっ?」
後ろを見ると確かに列が続いていて、申し訳無いことをしたと、慌てておばちゃんに注文した。
「あっ、すいません。えっと、じゃあ、このまんぷく亭の日替わり朝食を2つお願いします。あと、麦茶下さい」
「あいよ。日替わりが2と麦茶だね」
商品を選んだ時に、自動でお金が引き落とされる。
そして、トレイの上に商品が現れたので灰白さん達に取って貰っていたテーブルへ向かった。
「お待たせ!席取りありがとうなー」
「ワフン」
「「「ピチュチュン」」」
行儀良く1列に並んで、待っていてくれた灰白さん達の前に朝食を置くと、わぁっと群がってガツガツ食べ始めた。
「おいおい、慌てなくても無くならないよ」
聞こえて無さそうだけど、一応言っておいて自分の分を食べようかな。
まんぷく亭の日替わり朝食
・ご飯
・焼き鮭
・小松菜の味噌汁
・梅干し、焼き海苔
・ごぼうのきんぴら
「いただきまーす!」
相変わらず、良い匂いで食欲がそそられる!
ご飯もホカホカで美味しい!
いつもはパン派なんだけど、ご飯も良いな!
「ここ、良いかな?」
モゴモゴ頬張りつつ食べていたら、さっきの眼鏡のお姉さんが来た。
…んだけど、良いかな?って言いながら返事も聞かずにもう座っている。
うーんやっぱりこのお姉さん見た事ある気がするんだよなー
どっかですれ違ったりしたのかな?
「んぐ、大丈夫です。えっと、どこかで会った事ありますか?」
「あら?ナンパかな?」
「あっ、いえ全然そんなんじゃ無いです」
「あはは。大丈夫分かってる。この格好だと分からないか。こっちなら見覚えあるんじゃないかな?」
と、お姉さんがウィンドウを弄ったら着ている服が変わって、受付のお姉さんになった。
「あっ!あの時の受付のお姉さん!」
「ピンポーン!2日ぶりかな?」
えっ?受付のお姉さんってNPCじゃないの?
あれ?どうなってるの?
普通のプレイヤーがNPC?
「頭こんがらがってるみたいだね。私はこのゲームの運営関係者で、東京担当の菜々緒。よろしくね」
「あっはい。よろしくお願いします。」
軽くお辞儀をして挨拶をしつつ、受付のお姉さんこと菜々緒さんを観察する。
服装は受付のお姉さんから、さっきまで着ていた物に変わっていた。
同じなのは眼鏡位かな?
「どう?このゲーム楽しい?」
ある程度朝食を食べ終わった辺りで菜々緒さんから質問された。
「はい、楽しいです!始めたばっかりで、行き当たりばったりな所もありますけど、仲間もいますしね」
と、灰白さん達を見ながら答える。
「そっか、良かったー!一応、分からない事があったら色々聞いてね!って言っても、いない時もあるんだけどね」
「えっそうなんですか?」
「そうなんだよー!今回はイベントの下見と設定とかで行かないといけなくてねー。受付の方には出れないの」
「へー。そう言えば、なんで運営の人が受付やっているんですか?」
疑問に思った事を聞いてみる。
分からない事があったら教えてくれるって言ったから、聞いちゃおっと。
「普段は受付しつつ、バグの修理とプレイヤーの抑止力をしてるかな?例えば、ゲーム内でバクが発生した場合に、現場に赴いて原因を探ったり修理をする事と、運営プレイヤーは、あっ私を入れて47人いるの!つまり都道府県に各1人ね。それで、その47人はマスター権限ってのを持っていて、その権限を使えばどんなプレイヤーも瞬殺っ…じゃなかった。アカウント停止に出来たりするの。 まぁ最近だとプレイヤーも迷惑行為する人も少なくなってきたけどね。勤務時間外とか忙しい時は、運営も減ったり増えたりするのよ。取り敢えず、運営プレイヤーはここが黒になっているわ」
成る程。
確かに頭のマーカーは黒になっていた。
受付の時はちゃんと見てなかったし、言われないと気付かないなー。
まぁ、普通は運営に会う事も無いんだけど、
この人大丈夫か!?
瞬殺って言った瞬間、凄い輝かしい笑顔だったぞ!
言い直していたけど…さっきの笑顔は恐ろしかった。
多分他にも色々権限の機能とか、仕事とかあるんだろうけど、怖いから聞くの止めよう。
うん、きっと輝かしい笑顔で恐ろしい事を言うと思うしね。
「えっと、さっきイベントって言ってましたけど、何のイベントなんですか?あっ、聞いても大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫!新規イベントじゃ無くて、定期イベントだからね!今月は闘技大会よ。ちなみに場所は東京ドーム付近だからね、運営から連絡が行くから、いろんなプレイヤーが東京に集まると思うよ。ヨシタカ君も遊びに行きなよ!」
闘技大会って、昨日掲示板で話題になっていたやつだ!
日付は固定で決まっているみたいで、皆が出るの出ないのでワイワイやっていたっけ。
ちなみに、予選から決勝までで大体1週間らしい。
俺達がBBQする日は決勝の後である。
なので、
「一応、見に行く予定ではありますね。」
「えー!イベント出ようよー!楽しいよー!
大丈夫だよー!やれば出来るよー!私なんて準備だけして、本番はギルドの受付でお留守番だよー!」
グイって、前に身を乗り出して力説してくれているけど、目が!目が怖いよ!やっぱりこの人、戦闘狂とかの人だ!
違っていても、俺の中では絶対そうだと確信するぞ!
「あれ?ユッキーが女と喋ってるって思ったら、何だよ。菜々緒かッグハァ」
「やぁやぁ、誰かと思ったら真司くんかー!
うふふ、年上のお姉さんを呼び捨てはいかんぞー!」
「イダイ!イダイ!ユッキー助けてー!」
俺はどうしたらいいんだろうか、目にも写らぬ速さで真司にアイアンクローをした菜々緒さんを止めるべきか、止めざるべきか…
あっ、凄いギリギリ鳴ってる。
うん!止めよう!
「頑張れ真司!俺には無理だ!」
「ウソだろー!裏切り者ー!」
「うふふふふー」
「イッテー…くそぉー!エライ目にあったぜ。あんの戦闘狂がー!」
「まぁ、自業自得って事で」
菜々緒さんから解放された真司は、今は俺の隣に座ってグッタリしている。
このゲームの痛覚設定は最初は10%で、設定の所で自由に増減出来るのらしいのだが、マスター権限を利用した菜々緒さんにアイアンクローを食らった真司は、どうやら100%で食らっていたらしい。
恐るべしマスター権限!
恐るべし菜々緒さん!
ちなみに、朝食を食べ終えた菜々緒さんは、
「よっし!真司君で発散出来たし、仕事に行って来ますか!それじゃ、またねー!」
と、出かけて行った。
受付の時との雰囲気とは随分と違った感じだったな。
受付の時の菜々緒さんは優しそうなお姉さんだったのに、運営としての菜々緒さんは、邪魔する者は容赦なく叩き潰す雰囲気がある。
受付以外で会ったら注意しなきゃな。
真司みたいになりたくないし。
「うーん…まだ、頭がジンジンする。あの馬鹿力め!はぁ、灰白ちゃん慰めてよー」
まだ頭が痛むのか、こめかみ辺りを両手で揉みながらモフモフと顔で灰白さんの毛皮を堪能している。
ちょっと引く行為だけど、さすがの灰白さんもさっきの真司が不憫に思っていたのか、黙ってモフられている。
「顔大丈夫か?」
「大丈夫。菜々緒に会ったらいつもの事だから。お前も気を付けろよ!」
いや、真司みたいに呼び捨てにしないから大丈夫だと思う。
って言うか、いつもの事なのかよ!
学習能力ゼロか!
「あっそうだ。朝食を買いに行った時にさ、
受付のおばちゃんに新入り?って聞かれたんだけど、何で俺がゲーム始めたばっかって分かったの?」
菜々緒さんのインパクトが強すぎてすっかり忘れてた。
おばちゃんが言ってくれなきゃ、朝食の買い方分かんなかったしな。
「あぁーそりゃ簡単だよ。NPCには顔認証システムがあるから、それで判断してんだよ。
課金アイテムで顔を変えても無駄だぜ、元の顔で判断されるみたいだからな。ちなみに運営もこの機能持ってるから、違反プレイヤーの討伐とかに使ってるっぽい。まあ、NPCが防犯カメラ的な感じになってるって事だな!」
「はぁー凄いな」
「まぁ、VRゲームが出始めた時は色々問題も出てたみたいだから、それの対応と対策って事だろ。」
ズズズッとお茶を飲みつつ真司が答えてくれた。
朝食も食べ終わったし、今後の攻略についてを話し合おうと、今はのんびりしつつ予定を組み立てている所だ。
「で、この後はどうすんの?」
「ユッキーってそろそろLv20だろ?そうしたら解放エリアが出るから、そこに行こうと思っている。取り敢えず、遠出するから買いもんかなー。昨日あんだけやったんだし、金もある程度溜まっただろ?」
そうか、Lvが上がる事に行ける所が増えるんだっけ、お金も昨日皆が手伝うと言う名のスパルタのおかげで、ある程度溜まったしな。
「うん。遠出するなら、俺は取り敢えず新しい武器と防具を買い変えたいかなー灰白さん達の分の防具買いたいんだけど、安くて良いの置いてる所ってある?あっ足り無さそうだったらいいんだけどね」
「大丈夫!足り無い分は俺出すぜ!その分はモフモフで返してくれたら大丈夫!」
「えーそれは悪いし、それにモフモフは皆の意見を聞かないとダメかな?」
チラッと皆を見ると、まぁ、場合によってはしょうがないんじゃ無いかな…ぐぬぬって顔された。
どんだけ真司にモフられるの嫌なんだよ!