ビーチフラッグ対決
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浜辺に寝そべる4人の男子達。
皆、顎の下に両手を置いてうつ伏せになり、その時が来るのを待っていた。
かなり集中しているのか、ヨシタカ、真司、キース、右近の耳には、波の音のみが聴こえていた。
そのヨシタカ達は今か今かと、固唾を飲んでその時を待っている。
そんなヨシタカ達を見つめているのは、それぞれのチームの仲間達。
左近は、自分の片割れが絶対に勝つ事を信じている思いで、熱い眼差しを送っている。
トト子は、「がんばれーー!」とキースに声援を送る。
リリは、胸の前で両手を組み祈りのポーズを取りつつ、小声で「頑張れー負けるなー」と祈っている。
ココアは、灰白の毛側に夢中になってモフモフしている。
「それでは、位置について、よーーい。ドンッ!」
舞姫のスタートの合図と共に、ヨシタカ、真司、キース、右近は、20m先の旗を取るために一斉に走り出した。
○
1時間ほど前。
「そろそろ、スポーツやらない? シュッ! シュッ!」
お昼休憩を取っていたスノウに向かって、シャドーボクシングをしながら言う左近。左近は体を動かすのが好きな女の子であるのと同時に、現実世界では「食べたら食べた分だけ運動しなければならない」という自分ルールを持っていて、ゲーム世界ではいくら食べても太らないが、怠け癖がついてはいけないと習慣にしていた。
「そうだね。全員戻って来ているみたいだし、そろそろ始めようか? 皆さーん! 全員集合ーー!」
スノウは辺りを見渡し全員が戻っているのを確認すると、左近の言葉に同意するとともに、全員を集合させる。
スノウの声を聞いたヨシタカ達は、遊んでいたのを一旦中断してスノウの元へと向かってくる。
「ちな。スノウは、あっちでのお昼何食べたの?」
全員がスノウ達の元に向かうまでの間に、左近がスノウが食べたお昼ご飯を訪ねる。
このお昼休憩の間に、何組かに分かれてそれぞれがログアウトし、現実世界でのお昼休憩やら諸々を取っていた。
余談ではあるが、この時にヨシタカもログアウトをしてお昼ご飯を食べに行っており、その時に無防備になってしまっている自分自身の周りに、灰白達がぴっちりみっちりと隙間なく寄り添い、帰ってくるのを待っていた。
その光景を見たスノウは「なんて、忠犬なの!」と感動し、真司は「マジ羨まけしからん!」と羨望し、舞姫は「これ、擬人化したらヤバくね?」と、頭の中で薔薇色の妄想が繰り広げられていた。
実際に、この時の灰白達の位置は、体を横に倒し腹枕をしている灰白。ヨシタカが日陰に入れるようにと、ヨシタカと太陽の間に座った夜空。その逆の位置ではこがねが座っており、ペロペロとヨシタカの顔全体を、余すことなくずっと舐めている。
紅緒、露草、さえずりはヨシタカのお腹の上でウトウトとしており、寝ているヨシタカの足の間にはヨシタカと同じポーズで、真白がヨシタカを枕にするように寝ている。
濡羽としじまは寝ているヨシタカの顔の両サイド、つまり灰白の腹の上に座って、濡羽は穴が空くほどに、しじまはウインクの状態で、ジッとヨシタカの寝顔を眺めていた。
つまり、これを擬人化するとなると本当にどえらい事になるので、舞姫の頭の中は狂喜乱舞していた。
「……ごくり。この中で擬人化してヤバイのは、顔を舐めまくっているこがねか、ヨシタカの股間を枕に寝ている真白かしら? あぁ、妄想が止まらない!」
ただ、フクロウであるしじまの場合、片目を閉じて寝ることができ、このことを【半球睡眠】と言うが、この時にしじまが起きているのか寝ているのかを、誰も確かめたりはしなかったので、実際にヨシタカの顔を凝視せていたのか、はたまた凝視していると見せかけて寝ていたのか、実際はしじまのみが知る。
閑話休題。
「私は、コンビニで買っておいたツナマヨといんげんの胡麻和え。そう言う左近は?」
「私は右近が作り置きしてくれた焼きそばー。目玉焼き付き!」
先にログアウトをした右近が、左近の分の焼きそばも作って置いていてくれたのだ。
しかも、なんだかんだで特別感のある焼きそばon目玉焼きである。
「相変わらず仲良いねぇー」
「えへへー」
スノウに言われた左近は、照れたような笑顔を浮かべる。なんだかんだ言いあってても、喧嘩をするほど仲が良い兄妹なのである。
「どした、スノウ? 休憩終わりか?」
一足早く来たのは右近で、その後にヨシタカ達も続き全員が集まった。
「うん。そろそろ後半戦を始めようと思ってね。よし、全員集まったね。それでは、これから【海リンピック】を開催します!」
『オーーーーー!』
スノウの宣誓に、全員のボルテージが上がった。
予め予定していた【海リンピック】は、ビーチフラッグ、ビーチバレー、遠泳を予定しており、それぞれが【県境ループ】の時に分かれていたグループで競う、チーム戦を予定している。
ビーチフラッグは4人ずつが競い合う10本勝負を予定しており、旗を多く取ったチームの優勝である。
最低でも1人3回は必ず出なければならないが、最後の1回は男子全員で出る以外は、出る順番などは自由だ。
次にビーチバレーを予定しており、ビーチフラッグの1位と4位、2位と3位が最初にやり、その後に勝ったチームと負けたチームで競う。
最後の遠泳はリレーとなっており、浜辺からスタートをし、100mほど先にいる白菊を目印にUターンして浜辺に戻り、次の選手と変わり、最後の選手がスタート地点と同じ場所のゴールに到着したら終了である。
各スポーツの間にはきちんお小休憩を挟むので、体力の減りによる優劣の差は出ない様にしている。
「ヨジタガ、頑張レ!」
「ヨシタカ、応援シテル!」
「ありがとう。ヴォル男、白菊」
応援に来てくれたヴォル男と、グッと胸の前で頑張れポーズをする白菊。
「頑張ってくるね!」
「オヴ!」
「ウン!」
2人に激励されたヨシタカは、ヴォル男には顔全体をわしゃわしゃと撫で回し、白菊には髪にそうように優しく撫でる。
今回の【海リンピック】では、ヴォル男や白菊なども参加するかと思いきや、彼らは審判で良いと請け負ってくれていたのだ。
何故なら、2人ともヨシタカ達に比べると高Lvであり、狼男であるヴォル男ならばスピード勝負のビーチフラッグで圧勝し、スキュラの白菊ならば通常形態の触手を使えば、ビーチバレーの球を落とすことなど無いからだ。
「最初はビーチフラッグからね。確かウィンドウにそういう機能があったはず」
スノウはウィンドウを操作して、ビーチフラッグの用意をする。
ウィンドウ内の機能の1つである対戦モードと同じく、浜辺で使用すれば対戦モードの他にも、様々なスポーツの勝負が使用出来るようになる。
「えっと、回数は10回で、距離は20m。旗はランダムっと」
ビーチフラッグの設定を終えた瞬間に、スタートラインとそこから20m先に旗が出現した。
パタパタとはためく旗には、このゲームのタイトルロゴが描かれている。
この旗は描かれている絵柄を自由に選択できる上に、自分又は他のプレイヤーが描いたイラストも使えたりする。
ただし、その場合は自由に使えるフリー素材に設定されたイラストのみが可能となっており、今回スノウが選んだランダムは、ランダムはランダムでも、運営が用意している絵柄のタイトルロゴなどを設定しており、それが1回戦ごとにランダムで変わるように設定した。
「ルールは、このラインの上に両手を重ねて、その上に顎を乗せてね。10本勝負のうち、旗を数の多く取得したチームの勝ちよ。チーム戦だから先にパーティ組んでね。それと、スターター役を舞姫さんにお願いしても良いですか?」
「おけ! いいよー!」
今回は3人1組でのグループ戦であるので、各パーティのリーダーに、ビーチフラッグに参加するかを問われるメッセージが届くのである。
さらに、スタートの合図をするスターターも、ウィンドウの機能かプレイヤーとで選べるが、今回は舞姫が担当する。
仮にウィンドウの機能を設定した場合は、プレイヤーの視界内に「3.2.1.START!」と表示される。
「ほーい! 妨害はありですかぁー?」
ルール説明を聞いていたトト子が、右手を上げて訪ねる。
「無しよ。やったらそのチームは失格ね」
「あちゃー! 妨害は無しかぁー」
失格になると聞いたトト子は、上げていた右手で額を叩き、パシンっと良い音が鳴る。それを見ていた他のメンバーからは、クスクスと笑いが起こった。
「参加申請を出したから許可してね。今から5分間は作戦タイムよ」
「そうだ! 取った旗ってどうしたらいい?」
トト子に習い、ヨシタカも右手を上げてスノウに訪ねる。
「えっと、確かーー」
「旗は元の場所に差さなくても、ポイッて捨ててくれれば元の場所へ戻るよー。それに、誰が取ったのかもキチンと分かるしね!」
ウィンドウでビーチフラッグの細かいルールを調べていたスノウに変わって、舞姫が答える。そう言う舞姫の手には、F-1などで見かける旗を持っていて、それを器用に振り回している。
スターター係の道具である。
そして、5分間の作戦タイムも終わりビーチフラッグが始まった。
初戦ではヨシタカチームからはココア、真司チームからはミキ、キースチームからはサキ、右近チームからは左近がスタート地点で待機している。
「それでは、位置について。よーい、ドン!」
舞姫の合図と共に、地面に伏していた4人が一斉に走り出して、一直線にフラッグを取りに向かう。
「よっしゃー! 取ったよーー!」
観戦している仲間達によく見えるように、フラッグを天高く掲げたのは左近だった。
「良くやった! 左近!」
「ちょっ! いま、頭から行ったよね!」
「大丈夫。大丈夫。アイツ受け身上手いんだよ」
ヨシタカが驚くのは当然で、他の3人にかなりの差を付けていた左近は、フラッグの元に向かって頭から飛び込んだのだ。
ヨシタカは左近が頭から行ったので、怪我でもしたのではないかと心配したが、右近が言うように、左近は受け身を取るように飛び込んだので怪我をしなかった上に、そのまま一回転して立ち上がったのだ。
「左近……スゲェ」
「ふふん! そうだろう。そうだろう」
第1走では、スポーツ万能の左近が見事勝利し、右近チームに1点が入る。
ウィンドウには、各チームの第1走者の名前が書かれており、その左近の所にwinと書かれていた。
「「あーもう! 左近早すぎぃー!」」
「へへー! スポーツだったら負けないよぉ〜」
「むぅ、ヨシタカ、紅葉、ごめん。負けた」
「いいよ。左近相手じゃあ武が悪いもの」
「そうだよ。ココアは頑張ったよ!」
「はーい! 次の走者準備してー!」
一喜一憂するヨシタカ達に舞姫が呼び掛けると、次の走者がスタートラインへと向かい位置についた。
「いやぁ、ここまで壮絶な戦いでしたね。白薔薇さん!」
「そうですね。まさか、ここまで割れるとは思いもよらなかったです」
第9走まで終えたいま、ラストランの前の小休憩を取っている最中に、舞姫と白薔薇は司会者と解説者ごっこを演じていた。
舞姫が言うように、これまでの試合の結果が、各チームが2ポイントずつ入手して、右近チームが3ポイント入手のかなり拮抗した試合となっていた。
「さて、このままでは同率優勝もアリになってしまいますが、どうしますかスノウさん?」
「えっ?! ビックリしたー。えっと、どうするって何ですか? 何かするんですか?」
最後の試合の前の休憩中に声を掛けられたスノウは、ビクッと体を揺らして聞き返す。
「ほら、こう言うゲームだと恒例じゃん? 最後だけポイントの量がアレなやつ」
「あぁー! えっと、でも……」
スノウのチームはすでに3ポイント入手しているので、このままの点数配分でも優勝するのは決まっているのかだが、ここで待ったが掛けられた。
「いや、ここは点数あげちゃっていいよ!」
「だな。男同士の真剣勝負だからな! 手抜きされてもつまんねぇし!」
待ったをかけたのは、同じチームの左近と右近だった。
「本当にいいの?」
「「もちのろん!」」
同じチームの2人に言われてしまえばスノウも拒否する訳もなく、むしろ最後の走者である右近が良しを出しているのだから、その思いを無駄にする訳にもいかず、スノウは全員に聞こえるように宣言した。
「分かったわ。2人がそう言うのならば、最後のポイントは10点分にします!」
このスノウの発言に、「よっ! 太っ腹!」「スノウありがとぉー!」「よっしゃあ、バラエティ的に盛り上がってキタァー」などなど、他のチームからはスノウを讃えるの声が上がった。
「さぁ、これで泣いても笑っても最後の勝負! いったい誰が勝利の旗を掲げる事が出来るのか! ヨシタカ、真司、キース、左近。準備して」
そして、ビーチフラッグのラストランが始まる。
舞姫に呼ばれた4人は、さっきまでの和んだ顔は鳴りを潜め、緊張の面持ちでスタートラインに寝そべると、開始の合図を待った。
「それでは、位置について、よーーい。ドンッ!」
舞姫のスタートの合図と共に、ヨシタカ、真司、キース、右近は、20m先の旗を取るために一斉に走り出した。
「くぅぅおおおおおー!」
「負けらんねぇー」
「無様な姿は見せられないからねーー!」
「絶対ぇー僕が勝つーーー!」
それぞれが雄叫びを上げつつ駆け抜けて、あっという間にフラッグの側まで来ると、一斉に全員がフラッグに飛び込んでしまい、砂埃がたった上に揉みくちゃになってしまっていた。
固唾を飲んで応援していた仲間達は、誰が取ったのかは見えなかったが、すでにウィンドウにて勝者の名前の所にwinの文字が記されていた。
「おおおぉーーー! 優勝は真司だーー!」
「おっしゃあ! へへへー。古参プレイヤー舐めんなよー!」
舞姫が勝者の名前を言うと同時に真司が立ち上がり、足元で悔しがっている3人を見下す。
これで10本全ての勝負が終わったので、真司が持っていたフラッグと、スタートラインの線が消えて無くなる。
「かぁーーー。負けたーーー! けど、いい勝負だったわ」
「はぁーー。あとちょっとだったのに」
「ふぅ。久しぶりに本気出したかも」
右近、ヨシタカ、キースも、真司に負けて悔しさはあるが、その分本気で戦った後の爽快感があり、全員スッキリとした顔をしていた。
「あぁーー。久しぶりに本気で走ったかも。もう、走りたくない」
ヨシタカは倒れ込んだ状態のまま動こうとはせずに、浜辺に寝転がる。
「ヨシタカ。残念ながら僕とヨシタカはもう一戦あるよ」
「えっ何で?」
隣で片膝を立てた状態で座っているキースに、頭を撫でられながら言われたヨシタカは、ガバッと上半身を上げて聞き返した。
「だってほら、3位と4位が同点じゃないか」
3位と4位の部分で、自分とヨシタカを指差しながら言うキースに、右近もポンっと手を打った。
「あぁ。この後のバレーは1位vs4位と2位vs3位の試合だからか! へへー。ヨシタカドンマイ」
ビーチフラッグで、自分はすでに3ポイントを取って2位が確定している右近が、疲弊しているヨシタカに、揶揄い半分の声援を送りつけて、それを聞いたヨシタカも事態を把握した。
「そっか。あぁーそうだったね。あっでも、俺とキースのチームメンバーだったら、他の仲間が走ってもーー」
もう一回全力疾走しなければならないのかと思いつつも、途中で自分じゃ無くても良いのでは? と思い出したヨシタカだったが、すでにスノウによって準備は整えられていた。
「おーーい! ヨシタカー! キースー! ビリ決定戦をするわよーーー!」
スノウの言葉と共にヨシタカとキースのウィンドウには、ビーチフラッグ一本勝負の参加の有無のメッセージが届いてしまっていた。
「あぁ、確実にもう一本」
「走らないとダメだねぇ」
もちろん、ここでヨシタカとキースが拒否するわけにもいかず、同じタイミングでYESを押すと、新しく現れたスタートラインへと向かった。
一方その頃の灰白達は、唯から技を伝授されており、白薔薇から貰った4つのボールで、灰白、真白、こがね、夜空がアシカの様にボールを鼻先に乗せて、長時間落とさずにいられるか頑張っていた。
他の紅緒、露草、さえずり、濡羽、しじま達鳥sは、これも白薔薇から貰った数個のカラフルな輪っかで、輪投げに興じていた。
2羽が空から輪っかを投げる役、もう2羽が落ちてきた輪っかを首にキャッチする役、最後の1人羽がキャッチし損ねた輪っかを集める役である。
なぜ、灰白達がこんな事をしているのかといえば、ヨシタカに見せて褒めて貰いたいためであるのと同時に、誰が勝とうがあまり興味の無い唯の、暇潰しも兼ねていた。
4月中には海編は終わるはず、たぶん。
総合評価がそろそろ1万行きそうなので、灰白さんの擬人化を考えなければ。




