まったりタイム?
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まさか、3月の後半に雪が降るとは……。
バーベキューを食べ終わった一行は、浜辺の一角に集まっていた。中心には白薔薇が作業をしており、その邪魔しないようにある程度離れた所で半円状となり、お昼休憩も兼ねてそれが出来上がるのを見ていた。
「ふう、こんなものかな?」
白薔薇は作業の手を止めると、完成した物の強度を確かめるように壁を叩いて、出来上がりを確認した。
「おぉー! これは凄いですね!」
ヨシタカは、白薔薇があっという間に作ったそれに感嘆した。
ヨシタカ以外でその作業を見ていたスノウ達も、ビックリと呆然の半々の表情で出来上がったそれを見ている。
ビックリしているのは、作り始めてから5分と経っていないからである。
「まぁ、力技だけどね」
「よいしょっ!」と掛け声と共に、普段使っている武器のサイズと同じくらいの大きさのシャベルを肩に担いで、そこから飛び上がって来る白薔薇。
「いやいやいや。だからって、こんなに大きな穴を一瞬で作るだなんて、俺だったら出来ませんよ」
ヨシタカが言う白薔薇が作ったもの。
それは波打ち際に作った大きな穴であり、波が来る度に穴の中に海水が入ってきて、今では豪邸や別荘などでよく見るサイズの、プールのようになっているのだ。
大体学校のプールの半分くらいのサイズであり、深さはヨシタカの胸よりやや低めである。そして、浜辺は海に向かって斜めになっているので、外周の部分は海から離れるにつれて高くなっている。
これはヨシタカ達のため。と言うよりかは、灰白達のために作られたプールだ。
「せっかく来たのに、海に入れないのも可哀想だけど、目の届くところに居てくれないと不安だからね。作って見たよ」
「わぁ。白薔薇、ありがとう!」
出来上がったプールをしゃがみ込んで見ていたヨシタカの頭を、ポンポンと叩きながら言う白薔薇に、ヨシタカはニコッと笑いながら喜ぶ。
この後の予定では、ヨシタカは海の幸狩りレースで別れたグループで、思いつく限りの浜辺でのスポーツを対戦する予定で、その間、灰白達はそのスポーツを一緒にする訳にもいかないので、ヨシタカが出る試合を見学をするか、自分達だけで海で遊ぶかという事になってしまうのだが、灰白達はかなり重度のヨシタカラブであるので、絶対にヨシタカから離れないだろうと考えた白薔薇が、この浜辺の砂プールを作ったのである。
それに、海の中にもモンスターは存在するので、万が一を考えてのことでも有る。
「なに。これくらいの作業など朝飯前なのだから、君が気にすることではないよ。それよりも、まだ一度も海の中に入っていない灰白達を入れたらどうだい?」
「はい、そうですね。灰白さん達、入れる?」
「ギャウー!」
「うわっ!」
白薔薇に言われたヨシタカは、早速灰白達をプールに入るか尋ねたところ、ずっと待っていたこがねが我先にとプールに飛び込んで、水飛沫がヨシタカに当たる。
「ぎゃう〜〜」
こがねはバシャンと勢い良くプールに入ったかと思うと、海水が冷たくて気持ちが良いのか、だんだんと全身を脱力してぷかーと水面に浮かび漂い始めた。
「こがね。……ほら、みんなも我慢せずに入って良いよ。冷たいだろ?」
こがねのだらしない格好にヨシタカは呆れるが、ヨシタカのすぐ隣で、プールに入りたそうにしている灰白と目が合うと、パシャパシャと海水をかけて促す。
「ワフッ!」
「ぶるるふん」
早速、灰白と夜空がゆっくりとプールに入って行く。
灰白はスイスイと犬掻きをして火照った体に海水が気持ちいいのか、時折潜ったりしてプールを満喫している。
灰白は毛で覆われているので日焼けなどの心配は無い分、毛の所為で熱が篭るのでちょっとしたサウナ状態だったのだ。
「いくら日陰にいても、暑いものは暑いからね。こうして時々体を冷まさないと、彼等もダウンしてしまうよ」
「ふぅー」と、手でパタパタと顔を仰ながら言う白薔薇。すでにシャベルは仕舞っており、もう片方の手で麦わら帽子の位置を調整して、顔に直接日光が当たらないように調節する。
「たしかに、ここでの日差しっていつもよりキツイ気がする」
ヨシタカも白薔薇の言葉に同意して、手で日差しを遮るようにして言った。
「まぁ、ずっとここにいたら火傷を負うくらいだから、実際にキツイんだけどね。さぁ、私の仕事は終わった事だし、またお酒でも飲もうかね」
そう言って白薔薇は舞姫達が居るところへと戻って行き、そこではすでに空き瓶や空き缶が所々に散乱しており、2人がどれだけ飲んだのかが伺える。
そして、今は大きめのグラスにカラフルな飲み物が注がれていて、果物のスライスされた物が刺さっている。
白薔薇が舞姫達の元に向かうと、新しいグラスとシェイカー、そして色々な瓶を舞姫が取り出したのを見て、あのグラスの中味はカクテルだとヨシタカは確信した。
「ぶるるるん」
そんな中、夜空は定位置を見つけたのか、泳いでいる灰白の邪魔にならない様に、端の方に行き足を折って座り込み、顔に水が掛からないようにプールのふちに頭を載せて、まったりと目を閉じた。
「ワフッ!」
「んぎゃう?」
夜空は思いもしなかったが、夜空が座ったことにより、その体積分の海水が追い出されて波のようになり、灰白はプール内に残ったが、こがねはプールから溢れ出してコロコロと砂浜に転がった。
「ぎゃう? ……ギャウー!」
最初はキョトンと、何が起こったのかが分からなかったようだが、さっきの感覚が楽しかったのか走って戻って来て、再びザブンとプールに飛び込むと、キャキャとはしゃぐように夜空に纏わり付き、さっきのをもう一度とお願いしているようだ。
「ぶるるるふん」
「ぎゃう〜」
海水の冷たさに気持ち良く微睡んでいたのを邪魔させたうえに、馬である夜空にとって何度もアップダウンするのは苦痛の様で、夜空はイヤイヤと首を振って拒否をすると、こがねは「ガーーーン!」と衝撃を受けて、そのショックで死んだ魚の様に海面に漂った。
「真白は入らないの?」
そんなやり取りが行われている最中に、ヨシタカは未だにプールの中に入らない真白に声をかけた。
「ぶーーー!」
どうやら、真白にとってこのプールは深い様で、足が完全に着かないのが気になる様だ。
たしかに灰白の体が完全に浸かるほどの深さだったので、波が来ても体が完全に浮くタイプの鳥系の紅緒達はともかく、真白だと最悪の場合、溺れてしまう可能性があった。
「ヴーー。ワン!」
一方プールでは、気持ち良く泳いでいた灰白の背中に、濡羽としじまが乗っかってしまい、それが嫌なのか灰白は吠えて退かそうとするが、この二羽はそんな事ではへこたれたりはしないので、どこ吹く風のごとく目まで閉じて完全に無視を決め込んでいる。
「かーーー」
「ホッホッホーー」
「ガルルルルーーー!」
そのうえで、さらにおちょくるように鳴いて煽っている始末である。
そろそろ、煽り耐性の低い灰白が怒髪天を衝きそうだ。
「ちゅん?」
「ちゅんちゅん」
「ちゅん」
プールのふちに立ち、恐る恐る前足をチョンチョンと何度か付けて確認を取る真白と、その真白の周りに紅緒、露草、さえずりが「大丈夫?」と話しかけている。
「ブッ」
やっぱり怖いようで、ぷるぷると首を振ってヨシタカの影に入る真白。そして、暑いのかグデッと力なく伏せてしまう。
「どした? 真白達は入らないのか?」
このやり取りを見ていた真司がヨシタカに声をかけて、ついでとばかりに真白の頭をツンツンと触りちょっかいをかける。
「ブッ!」
「うふふー。真白ぉー。可愛いぞー!」
ちょっかいを掛けられたのが嫌だと、真白が真司の足に砂をかけるが、真司にとってその姿が可愛いので、なんのダメージにもならなかった。
「あぁー。なんか、このプールが深いのが怖いみたいで」
恍惚としている真司に若干引きつつ、ヨシタカは答えた。
別に、白薔薇は意地悪をしてプールをこの深さにしたわけではない。仮に真白サイズのプールにした場合は、ヨシタカの従魔の中では1番体が大きい夜空がプールの中に入っても、蹄しか入っていない状態になるので、このくらいの深さにしたのだ。
ちなみに、ドーラはもちろんのこと、白菊や清白、それにヴォル男は灰白達よりもLvが圧倒的に上なので、普通に海の中に入って遊んでいる。むしろ、清白に至っては魚系のモンスターを倒して、そのモンスターを食べている始末である。
そんな中、体格が小さい三毛猫の珠子だけは、ビーチチェアで横になっている白薔薇のお腹の上に座っている。
「なら、桶の中に海水でも入れたら良いんじゃないのか? もし、桶が無くっても大きめの鍋とかで十分だろ?」
「あぁ、たしかに」
ポンっと手を打つと、ヨシタカは自分が所持している中で1番大きく深さがあるフライパン鍋の中に、海水を満たした。
フライパン鍋は中華鍋のような形でも、底が平らで周りの部分が中華鍋よりも低いので、真白でも十分に足が付く。それに泳ぐつもりもない真白にとってはそれで十分だった。
「これでどう?」
「ぶっ!」
真白はフライパンのふちに両手をついて、二本足で立ち上がり中を覗き込むと、「これで大丈夫!」とでも言っているように1つ頷いた。
「ここだと誰かの足で引っかかるかもしれないから、向こうのテーブルに置いてくれば?」
「そうだね。ありがとう、真司」
直ぐにテーブルの上にフライパン鍋を乗せると、一緒に付いて来ていた真白をフライパン鍋の中にちゃぽんと入れる。
「真白ー。気持ちいいですか?」
「ぶ〜〜」
真白の頭を撫でてやりつつヨシタカが聞くと、真白は目をとろんとさせて気持ち良さげだ。
「ちゅん!」
「ちゅちゅん」
「ピピ〜ピョロ〜」
真白が入っているフライパン鍋の空いているスペースに、紅緒、露草、さえずりも入り、ピチャピチャ、パチャパチャと水浴びをする紅緒と露草。
さえずりは何かの歌を囀っているが、所々音程が怪しい。
「ぶぅ〜〜」
「ふぃ〜〜」と言っているように、二本足で立ち上がると濡れた前足でコシコシと顔全体を洗い出す真白。
「真白……。おっさんみたい」
「ぶっ!? ブッブー!」
「うわっ! ごめんって」
それを見たヨシタカはポツリと呟いてしまったが、それが真白にも運悪く聞こえており、「ちょっおま! 今なんつった!」と、前足で水面を何度も叩き怒りを示した。
○
「そうだよな。真白、女の子だからおっさんは悪かったな。反省反省っと」
「んぁ? 何ブツブツ言ってんだ?」
「うん。ちょっとね」
真白に怒られたヨシタカは、今は棒倒しの罰ゲームとして、外装は海の家っぽいショップでアイスを買っている最中である。
棒倒しに参加していたヨシタカ、真司、キース、右近の4人は、ヨシタカが開いた商品が書かれているウィンドウに、顔を寄せ合わせながらアイスを選んでいた。
ついでに、ヨシタカは真白にも何か買って、ご機嫌直しが出来ないかと考えている。
「そんな事より全員決まったか? 俺、ゴールランバー」
「決まったよ。僕はプピコをお願いね」
「んー。悩むなぁ……よし決めた! 僕はごりんごりんくんソーダ味にするわ」
そして、真司、キース、右近はそれぞれが選んだアイスをヨシタカに言うと、「ゴチになりまーす」と、ヨシタカを囲むように一斉に頭を下げた。
「はいはい。りょーかいですっと、そうだ。ヴォル男にも何か買おうかな? ……何が良いんだろう?」
ヨシタカはあの時に参加していたヴォル男の分も買おうと思い、アイスを選ぶ。一緒に棒倒しをしたのに仲間外れにされたら、悲しそうな顔をしそうだと思ったからだが、ヴォル男は一体何のアイスが好きなのかと、ふと考え込む。
「うーん。狼男の好きな食べ物って言ったら、肉! って感じだけどね」
「さっきのメシの時も、結構な量の肉食っていたしな」
『う〜ん』
「ここで悩んでいてもアレだし、ちょっくら本人に聞いてみるわ」
3人が頭を抱えて悩んでいると、これまで黙って聞いていた真司が、好きなアイスを聞きにヴォル男の元へと駆け出して行く。
「おー。ありがとう、真司」
その背中にヨシタカは声を掛けると、真司の帰りを待つ間に真白のお詫び品をどれにしようかと、ショップの中を見て回った。
「ヨジダガ、オデニモ、アイズ。アリガドウ」
「いいよー。にしても、ヴォル男って以外と渋い好みなんだね」
「ンッ? ウマウマ」
パラソルの下で、真司と一緒にヨシタカ達の帰りを待っていたヴォル男にアイスを手渡すと、ヴォル男はそれを美味しそうにボリボリと食べ始めた。
ヴォル男の好みを聞きに言った真司から送られて来たメッセージには、「ヴォル男は小豆棒だって」と書かれていたのだ。
「オデ、コノ固イノガ好キ!」
ヴォル男が言うように、小豆棒は素朴な甘さと引き換えに、かなりの硬度を持ったアイスであり、それを難なく噛み砕き、あっという間に食べ終えてしまったヴォル男に、ヨシタカ達はさすが狼男だと感心した。
「アーーー! ヴォル男! アイス、ズルイヨ!」
ヴォル男が名残惜しそうに、食べ終わった後の棒をペロペロと舐めていたら、海で遊んでいた白菊が、ヴォル男が持っているアイスの棒を目敏く見つけて叫んだ。
その声を聞きつけて、プールを満喫している灰白や夜空を撫でていたスノウ達や、ほろ酔い気分の白薔薇が「何だ? 何だ?」と、ヨシタカ達の周りに集まる。
「白菊が叫んでいるけど何事?」
いち早く駆け付けたのは、白菊の主人である白薔薇だ。ただ、ヨシタカ達が白薔薇に答える前に、走って来た左近が右近が持っているアイスを見つけて、おねだりをしだした。
「あっ、お兄ちゃんごりんごりんくん食べてる! いいなー。いいなー。一口ちょうだい!」
「うわっ! やだよ!」
「あー。あー」と言いながら、口を雛鳥のように開けておねだりをする左近に、右近は左近の頭を押しながら引き離す。
「ブーー! ケチーーー!」
右近に素気無くされた左近は頬を膨らませて、右近を上目遣いで睨み付ける。
そして、いつもの兄妹喧嘩として、そのやり取りを見ているトト子達。
「アイスかー。デザートに、うちも買ってこようかな?」
『マジで? ならサキも買いに行くー!』
「なら、リリちゃんも一緒に行こっか?」
「賛成ー!」
スノウ達がショップに行くなか、紅葉は左近を呼んだ。
「左近ー! 私達、アイス買いに行くけどー」
「ちょっと待ってー! それソーダ味でしょ? コーラ味買って一口上げるから、そっちの一口ちょうだい!」
「なら、良し!」
トレードを持ちかけた左近に、右近はサムズアップ付きで答えると、左近は待っていてくれた紅葉と共にショップへ向かった。
「ヤルガ? 白菊! コノ小豆棒ノタメナラ、オデ、負ケネェド!」
「フン! ヴォル男、ヨシタカニアイス貰ッタカラッテ、調子ニ乗ラナイデヨネ!」
こっちはこっちで、噛み合わないバトルが繰り広げられそうになっており、白薔薇は嘆息する。
「あぁ、はいはい。なら白菊の分は私が買ってくるから、ヴォル男にちょっかいをかけてはいけないよ」
このやり取りを見ていた白薔薇は、何が起こったのかを把握して、お互いに睨み付けていた白菊の頬をムニッと摘む。
「……ファイ」
意外と痛かったのか、白薔薇に頬を摘まれて涙目になる白菊。
「舞姫ー。唯ー。アイス買ってくるけど何がいいー?」
白薔薇は白菊の分に加えて、舞姫と唯の分もついでに買ってこようかと2人に聞いてみると、すぐに返事が返ってきて、舞姫が唯の分も伝える。
「唯はなんでもいいってー! 私も白薔薇に任せるー!」
「1番面倒くさいことを。ほら、白菊。一緒に行くよ」
「ハイ」
舞姫が言った「なんでもいい」発言に、白薔薇は一瞬ムッとするが、白菊を伴ってショップへと向かった。
何の騒ぎにもならずに、集まって来たメンバー全員がショップでアイスを買いに行く中、ヨシタカは真白の元に来ていた。
当然、さっきの発言のお詫びをするためだ。
「真白ー。さっきはごめんな? あとこれ、ミカンの凍ったやつがあったから買ってきたんだけど、食べる?」
「ブッ! ブッ!」
真白のお詫びの品としてヨシタカが買ってきたのは冷凍ミカンで、そのミカンから一房取って真白に近付けると、真白は「食べる食べる! 早く早く」と催促したので、手渡しで食べさせる。
『チュン! チュチュン!』
「ブーー!」
それを見た雀達も、冷凍ミカンを欲しいと真白の周りに集まって来てしまい、真白が「鬱陶しい! 邪魔!」と怒りだしたので、ヨシタカは急いで別の冷凍ミカンから一房を取り、逆の手で雀達に与える。
「ちょっと待って。ほらお前達はこっちって、灰白さん達にも上げるからちょっと待って! あっおいこら! どさくさに紛れてそこに顔を埋めるんじゃない!」
もちろんヨシタカラブな灰白達も黙っているはずも無く、わらわらとヨシタカの周りに集まって来てしまい、欲望のままに行動する灰白達に、天手古舞になってしまうヨシタカだった。
海編予定していたよりも2〜3話増えそう。
次回予告。
男子一同「昼飯は終わったけど、違う意味でご馳走様です!」




