海の幸を狩って狩って食べ尽くせ!
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やっと暖かくなってきましたねぇ。
「風が気持ちいい」
「小型船で、クルージングしているようなものだからね」
ヨシタカとキースはドーラの背中の中で、首よりの方に座り海風を感じていた。紅葉達も海へ落ちないように、ドーラの背中の真ん中に固まって座り航海を楽しんでいる。その後ろ、ドーラの尻尾の先にはバナナボートが付いており、そのバナナボートには右近やヴォル男達が乗っている。
「……ゆっくりで良かった」
「オデ、ヨシダカト同ジ、ヨガッタ!」
「やめろ。俺が死ぬだろ!」
県境ループを楽しんだヨシタカ達は、ドーラの背中組とバナナボート組に、行きとは逆のグループに別れて、真司達が待っている浜辺へと戻っている。
ヨシタカに叱られたせいか、ドーラの運転がかなり優しいものになったので、内心恐々としていた右近は安堵顔で、逆にアトラクションの様に楽しみにしていたヴォル男は、ちょっと物足りなさそうな顔をしていた。
その2人の後ろに乗っている左近達は、行きとは違い多少の減速はあったものの、普段は味わえないバナナボートと言う乗り物に乗れた事で、満足していた。
「おかーえりー!」
そんなヨシタカ達を舞姫が出迎えてくれていた。砂場と波との境目でドーラを見つけた舞姫が、両手を振っている。
「えぇっ!」
「ん? ……うおっ! おっふ」
ただし、段々と近付いて来た舞姫の格好を見たヨシタカと右近は、時間差で言葉に詰まった。
時間差が生じたのはバナナボートに乗っていた右近は、ドーラの背中が邪魔で最初はよく見えなかったからだ。
「アレは……反則だろ」
『うわ。お前サイテー』
ゲーム内なのでそうはならないのだが、右近には舞姫の格好がクリーンヒットしたようで、顔を赤くしながら、ちょっと前屈みになる。
それを見た女子達、主に妹の左近がジト目で、サキとミキが爆笑しながら右近を非難しつつ、ドーラの背中やバナナボートから全員が浜辺に降りる。
「ドーラお疲れー!」
全員がドーラやバナナボートから降りたのを確認した舞姫は、ウィンドウを操作するとバナナボートが一瞬で消えて、ドーラの尻尾と繋がっていたロープのみが残り、それを回収する。
「舞姫、なんて格好してるんだ」
ヨシタカは、舞姫のその格好を直視出来ないのか、赤面しつつ顔を両手で隠して、指の間から見る。とうの舞姫は1回自分の姿を見下ろしてから、くるんと一回転をする。
「んー。なんか変?」
「変じゃないけど、……ちょっと」
ヨシタカと右近が舞姫の格好に過剰に反応しているのは、舞姫が俗に言う所の裸エプロンの姿だったからだ。
しかも、胸元が濃いピンク色の大きなハートマークで、それ以外が薄いピンクとなっており、肩紐や腰紐、ポケットなどの縁にはフリルがあしらわれている、俗に言う新妻さんエプロンなのである。
ただし、実際には水着にエプロンなので、ちゃんとした裸エプロンでは無いのだが、前から見たらほぼ裸エプロンなのだ。
そりゃあ、そんなコスプレの様な格好をされたら、純情な男の子だったら赤面の1つでもしてしまうだろう。
純情なのかそうでないのかは分からないが、キースは「舞姫さん、その格好似合ってますね。彼氏のご要望ですか?」などと平然と話していて、そんな平常心なキースに対して、ヨシタカと右近は尊敬の眼差しを送った。
「うんにゃ。このエプロン付けてると、作った料理の効果が上がるからだよ? あとは、私の消化出来なかった夏の鬱憤を晴らしに。
それに、私だけじゃなくて真司も唯も舞姫も着てるよー!」
舞姫が指差す先には、舞姫の言う通りに真司、唯、白薔薇もエプロンを着用していて、そんな3人は、串に何かを刺しているようだ。多分バーベキューとかでよく見るあの串で、何かの肉と野菜を刺しているのだろう。
ヨシタカ達も食材は準備して来ているが、舞姫達も食材を持って来ているのである。
ただ、舞姫が持って来た食材ってだけで、普通の食材では無くなるのだが。
「次は食材集めでしょ? 万全を期すために体力とか回復させときなよ」
そう言う舞姫を先頭にして、自分達のスペースへと向かうヨシタカ達。その後ろをドーラがドシドシと付いていく。
そして、近づいて行くと段々と真司達が着ているエプロンがハッキリとしてきた。
真司が着ているのは下地は紺色で、肩紐や腰紐の部分が灰色のエプロンで、胸元にはイルカのイラストと、ポケットが3つ付いている。
「ごっふ! ちょっ! 舞姫さん。あっあれ!」
「あっ、リリたん分かっちゃうー?」
エプロン姿の真司を見たリリが吹き出すと、舞姫に詰め寄って興奮気味にまくし立て、舞姫もリリの態度にニヤっとする。
「分かりますよ! ちょっと、この後はサバを狙います!」
「おけ! さすがリリたん」
真司のエプロン姿に異様に興奮する2人は、小声で囁き合うとお互いに固い握手を交わしていた。
その時、白薔薇から声が掛かる。
「舞姫。遊んでないで準備をしてくれないかな?」
「ヒッ!」
舞姫は小さく悲鳴をあげると、ギギギッと壊れたオモチャの様に振り向く。
振り向いた先の白薔薇は、にっこり微笑んだ顔だがその背後には般若の顔がでており、その迫力に舞姫は大人しく、調理の続きに取り掛かる。
「……ウェーイ。めんごめんご」
「まったく」
「えっと?」
リリには白薔薇の般若の迫力が及ばなかったので、キョトンと舞姫と白薔薇の顔を行ったり来たり見比べて、最後には首を傾げた。
「気にしなくていいよ。それよりお腹空いているかな? 白菊」
「ハーイ」
なんでも無いと言う白薔薇は白菊を呼んで、軽食を配り始めた。
そんな白薔薇が着ているのは薄い水色の下地に、白い大きな百合の花がプリントされているエプロンで、上品さの中に何とも言えないエロスが混ざっている。
「唯も手伝っているの?」
ヨシタカは、黙々と作業をしている唯に話しかけた。
「うん。普段料理とかしないけど、これくらいなら出来るかなって」
「へー。俺も後で手伝うね! それと、唯って可愛い系好きなの?」
ヨシタカが言うように、唯が着ているのは保育士さん方が着ているような、可愛らしいキャラクターがふんだんに付い使われているエプロンで、普段の唯を知るものにとっては、珍しいと思わせるエプロンを着ていた。
ここにくる前に、ショップでこのエプロンを選んだ時も、舞姫と白薔薇に「それで良いの?」と、確認を取られたくらいだ。
「……うん」
「……?」
ヨシタカに問われた唯は少し顔を伏せた。しかし、すぐにいつもの調子で答えたのだが、普段とはちょっと違った唯の様子に気付いたヨシタカは、首を傾げた。
(……もう、あの事故から4年だもんね)
唯は心の中でそう呟くと、ちらっとヨシタカを見る。
なぜ、唯がこの様な可愛いらしいエプロンを選んだかと言えば、唯は自分の就職祝いの日に事故に遭い、下半身麻痺という重傷を負った。
事故に合わなければ、唯は保育士として働いていたのだが、それが儚くも崩れ去ったのである。
研修時では着ていたエプロンだが、ちゃんとした保育士としてエプロンを付ける事は、今後とも無くなってしまったのだ。
それに、元々の唯は小さい子や可愛い物が好きな普通の女の子だったのだが、事故後の影響で「最強」の看板を背負ってしまっている唯には、こんな時でも無ければ、いま着ている様なエプロンは着れないのである。
この事は仲の良い舞姫や白薔薇達にも教えていない事であるし、今後も何も無いのであれば、誰にも自分の口から説明をしようとは思っていない。
こんな事を話して重く受け止められても困るし、同情されるのだってまっぴらだったからだ。
なので、唯はこの話題を無理やり変えるために、暴挙に出た。
「この後、頑張ってね」
「ムグッ!」
「この後には、海で食材になるモンスターを狩る予定であるのだから」と言う舞姫の提案で、軽食を準備していたのだ。体力や満腹度が減った状態の所為で、万が一死に戻りにでもなったら残念なことになるからだ。
そう舞姫に言われて準備した軽食は、コンロの火で炙られたマシュマロを、塩気のあるビスケットで挟んだ簡単なものである。それを強引にヨシタカの口に押し込んだのだ。
他の場所でも、白薔薇のお手伝いをしている白菊が、海に行っていたメンバーにマシュマロサンドを配っている。
「おいしい?」
いきなり突っ込まれたマシュマロサンドを、モグモグと咀嚼しているヨシタカに、唯は味の感想を訪ねる。
「ムグッ。美味しいけど、いきなり突っ込むなよ」
「そっか」
ヨシタカの不満は聞こえないかのように、美味しいと言われたことに微笑み、止まっていた作業を再開させた唯に、ヨシタカはそれ以上は何も言えずに、そのまま海の幸狩りレースへと向かった。
「時間は今から1時間よ! 皆、アラームはちゃんとセットした?」
海の幸狩りレースは3人1組で、県境ループに参加しなかった真司を入れて4グループである。
その4組が一斉にスタートして、制限時間内でレア度が1番高い物を入手したグループが優勝だ。
勝ったグループは先に食べれる権利と、さらに舞姫からの提案で、そのレア度の高い食材を自分好みの料理にしてくれるのだ。
そのため、全員のやる気ボルテージは高まっている。
「ウチは大丈夫だよー!」
「こっちも大丈夫ー!」
「それじゃあ、狩って狩って狩りまくるぞー!」
『おーーーーー!』
片手をまっすぐ突き上げて雄叫びをあげると、グループに分かれてそれぞれがモンスターを探しに出かけた。
一方その頃、調理組の舞姫達3人……いや、白菊を入れた4人は、調理の手を一旦止めてお茶タイムならぬお酒タイムを、パラソルで日陰になっているビーチチェアに座り取っていた。
「……プハァ。アーー! 冷えたビールうっまぁー! ツマミのマシュマロサンドも美味しいねぇ」
「そうだね。やることはやったから、後は魚介待ちかな?」
「だねぇ。いま火を入れても冷めちゃうし、バーベキューなんて焼きそば系以外は、基本放置でも大丈夫なのばっかだから、帰ってきそうなタイミングで焼き始めれば大丈夫でしょ!」
すでに1本目のお酒を開けた舞姫は、次のお酒をどれにしようかと吟味して、今度は夏と言えば定番のスイカ味のお酒を飲みだした。
「大量に買ってきたとはいえ、ほどほどにしなさいよ」
「わかってるよー!」
ゲーム内では前後不覚になり記憶をなくすほど、完全に酔っ払うことは出来無いものの、状態異常として「酩酊」になってしまうことはあるのだ。そうなると、この後の調理に影響が出てしまうので、白薔薇は舞姫に注意したのだ。
舞姫の調理センスは、リアル世界で母親でもある白薔薇と同程度だが、今回のような大量調理には舞姫の方が向いているのだ。
なので、ここで舞姫が脱落しようものなら、その負担が全て自分にのしかかってしまうのを、なんとしても白薔薇は回避したかった。
「それにしても、今日は晴れてよかったね」
「そうだね。今年もあっちは台風やゲリラ豪雨のせいで、花壇の整理が大変だったけどさ」
「あぁ、途中で落ちたなってそれ?」
「それだよ。はぁ、せっかく綺麗に咲いていたのに」
実は、ゲーム内とリアル世界の天候はある程度同調しており、3日前には両方ともに台風が来ていたのである。
ゲーム内でも、沖縄と九州でほとんどの猛威を奮った台風は、東京に来た頃には既に威力が弱まっていたのだが、時たま強い風が吹くこともあって、今日の開催を怪しまれていたのだ。
強風の中、波打ち際に行くのは自殺行為だからである。
「いやぁー。暴風雨の中、必死にレポートをする中継の方々は、本当に大変だよね」
「必死に傘を飛ばされないように握りしめても、あなた、もうすでに全身濡れてますが? 状態だからね」
「それね! レインコートも来ているけど、それ意味あるの? 状態の人もいるよね!」
舞姫と白薔薇は台風の日に、わざわざ海岸などへ行き中継をしなければならないアナウンサーに心の中でエールを送っているなか、ここまで無言であった唯は、ジッとヨシタカ達がいる海の方を眺めていた。
「おやー? もしかして、唯っちはヨシタカのことを心配しているのかなぁー?」
舞姫と白薔薇の会話に参加しなかった唯に気づいた舞姫は、揶揄うような口調で問うが、唯はフルフルと首を振っから言った。
「神話対戦、海淵の覇者のソロ討伐。どうやって戦うか迷ってた」
唯の言う「神話対戦、海淵の覇者」は、日本神話、ギリシャ神話、ローマ神話などの海に関係する神々との対戦の事であり、基本ソロで挑もうだなんて考えないクエストである。
「おっふ。この戦闘狂め!」
他人にあまり執着しない唯が、最近ヨシタカに構っているので、もしや? と思い聞いてみたのだが、普段通りの唯の返答に思わず舞姫は顔をしかめて叫んだ。
「舞姫ー! 大量に採って来たどー!」
時間の残りがあと数秒というギリギリのところで、海の幸狩りレースに行っていた真司達が戻って来た。
「ギリギリだぞ真司!」
「制限時間内だからセーフですぅー」
ヨシタカ達は既に戻って来ており、キースや左近達のグループも、それぞれのテーブルに陣取っている。
「はいはい。真司もヨシタカも、全員揃ったからテーブルの上に取ってきた食材を置いちゃいなさい」
真司達も最後の1つに向かうと、早速全員がテーブルの上に採って来た食材を一斉に乗せていく。
「全部出し終わった? それじゃあ鑑定するよー!」
鑑定役は舞姫で、順番にテーブルの上の食材を吟味して行く。
1時間だったので物凄い大量というわけでは無いが、それでも全員に行き渡りそうなほどの量を確保していた。
「ふむふむ。ほほー。なるほどなるほど」
一通り見終わった舞姫は、こほんと咳払いをしつつテーブルから距離を取り、ヨシタカ達が緊張の眼差しで見つめる中、右手を上げて振り落とした。
「拮抗した勝負でありましたが、決着が付きました! 優勝はーー真司だーーー!」
「よっしゃあ!」
「やったぁ!」
「イェーイ! バター醤油ー!」
「あぁー! サキ、ガーリック炒めが良かったのにー!」
振り落とした先は、時間ギリギリまで攻めていた真司達で、勝者を発表された瞬間に真司、リリ、ミキはお互いの健闘を祝って、ガッツポーズやハイタッチをして喜んでいる。
「うぇえー。頑張った甲斐あったよー!」
「よーしよし。2人ともお疲れ!」
「これは真司君の作戦勝ちだよ!」
全員が採って来た食材達のレア度は、ほぼ拮抗していた。
ただ、レア度は拮抗していても総合的な量は、圧倒的に真司達のグループが多かったのだ。
ミキが言うように、この3人の中では年長者である真司が、リリとミキを引っ張って上手く連携を取り、ドロップ品を大量に入手して来たのだ。
「こんなに取ってくるなんて……。もしや、何かズルでもしたのか?」
ヨシタカは自分達よりも、2倍ほど多い真司達の食材を見て、真司に詰め寄る。
「バッカッ! ズルなんてするわけねぇだろ! 作戦勝ちだよ。作戦勝ち!」
実は、真司はスタートの合図とともに飛び出して行った他のグループとは違い、最初にリリとミキを呼び止めて作戦会議をしたのだ。
「ここら辺の海辺のモンスターなら、ソロでも十分に戦えるんだけど、俺達は3人いるからな。役割を決めていこう!」
と言って先に内容を話し結果、リリとミキがペアで組むこととなった。
役割の内容は、まず所定の位置で2人が陣取り、残りの1人がモンスターを引き連れるのだ。
その際に、潜水と水泳と水中行動のスキルをリリとミキに説明して、2人とも水泳は出来るので潜水と水中行動のスキルを取った。
潜水
スキルポイント10
・水中に潜る際に、呼吸などが有利になるスキル。また、Lvを上げることにより、深く潜る際の地形ダメージを受け難くなる。
水泳
スキルポイント10
・泳ぐ際のスピードを上げてくれるスキル。Lvを上げることにより、荒波にも負けぬ泳ぎを見せる。
水中行動
スキルポイント15
・水中時の行動がスムーズになるスキル。Lvを上げることにより、陸地と変わらぬ行動を取れるようになる。
さらに、リリの戦闘スキルは魔法使いなので、集めたモンスター相手にフラッシュの魔法で混乱させてから全員で戦い、ある程度数が減ったら残りはリリとミキに任せて、また真司がモンスターを引き連れに向かうのだ。
その間にHPを回復したり、海面に出て空気を入れ替えたりもする。
真司も、そこは臨機応変に対応した結果だ。
ちなみに、リリが使う「フラッシュ」は、辺り一帯に眩い光を作る魔法で、敵の目潰しを目的とした魔法である。
モンスターと言っても、東京の海域に居るようなモンスターは比較的弱めの設定となっているので、ちょっとした光と音に弱く、すぐにビックリして混乱してしまうのだ。
なので、リリが仲間に入った瞬間に、真司は心の中でガッツポーズを取っていたりする。
「さぁ! こっからは私の出番ね!」
真司達が勝利したあとは、舞姫が急ピッチで料理の仕上げにかかっていた。
「そっちの紙に包んであるやつは、全部鉄板の上に乗っけちゃって! 真司、串ひっくり返してー!」
「りょうかいー」
舞姫扇動のもと、用意してあった鉄板や網の上には、焼くだけの食材がてんこ盛りに乗っており、その内の1つでは、舞姫が焼きそばを2つのコテで豪快に混ぜつつ作っている。
さらに、ソース味と海鮮塩味を同時に作っているという、凄技だ。
そのため、他の調理をすることが出来ないので、真司達がそれぞれの鉄板や網で調理をしている。
「舞姫、大変だなぁ」
そんな中、ヨシタカも網の上に乗っている貝類が、焦げないように火の番をしている。
ヨシタカ達が採って来た貝は、サザエっぽい外見のものから、ハマグリみたいな二枚貝まであり、どれもフツフツと貝のエキスがにじみ出て来ている状態で、ハマグリみたいなのに至っては、もう少しでパカっと開きそうである。
「舞姫! そろそろこっち食べれそうだよ」
「はーい! こっちも出来るよー」
「私の方も食べ頃かな」
「ハイ。オ皿持ッテ! オハシ持ッタ?」
続々と料理が完成して、白菊が全員に小皿とお箸を渡し終えると、それぞれが食べたい物の所へと向かう。
「それじゃあ、皆でいただきまぁーす!」
『いただきまーす』
「こっちの焼きそばはソース味で、こっちのは海鮮塩味だよ! みんな好きなの食べてね!」
「うまそぉー!」
「ウチ、塩にしよー!」
舞姫達が用意したバーベキューメニューは、ソース味と魚介塩味焼きそばに、野菜と肉を交互に刺した串焼きと、バター醤油とガーリックたっぷりのホイル焼きに、白身魚のアクアパッツァ。残りの食材は、今の料理が無くなったら網や鉄板で順次焼いていく予定だ。
海の幸狩りレースで優勝した真司達は、先に自分達のリクエストを頂いている。
真司のリクエストはバーベキューなのに刺身で、リリが海老や貝などのアヒージョ、ミキが白身魚のバター醤油のホイル焼きを頼んでいる。
そんななか、ヨシタカは自分よりも先に、灰白さん達の分をあげていた。
「熱いから気をつけろよー」
「ワフッ!」
ヨシタカは灰白さん達のために、焼き上がった串焼きをバラしてお皿に乗せていくが、乗せる端から無くなっていってしまう。
「食べんの早いよ」
「ギャウ!」
「ブルフフン!」
「カーーー!」
串焼きをペロリと食べてしまった灰白さんは、「早く次のを!」と瞳を輝かせてヨシタカに催促をするが、他のこがねや夜空、濡羽などは、今のを全く食べることが出来なかったので、「早く早く」と急かされてしまう。
「あぁ、もう! チマチマしてたらキリがないから、ちょっと待ってて!」
ヨシタカはそう言うと、一旦料理がある方へと向かって行く。
「よし、先にこっちを食べていなさい!」
戻って来たヨシタカの手には、大量の2種類の焼きそばに、ホイル焼きも何個かお皿に複数に乗せており、それを灰白さん達の前に置くと、再び、今度は串焼きや網焼きの方へと向かって行った。
「ほら、バラして持って来たから、皆で仲良く食べるんだぞ!」
再度、灰白さん達の所へと戻って来たヨシタカのお皿の中には、バラされた串焼きや貝から外された中身が入っていて、それも灰白さんの前に置く。
「ふう、これで暫くは大丈夫だろ? よし、俺もーー」
何を食べようかな? と、ヨシタカは料理がある方へと向かおうとした時に、グイッと体を後ろから押されたので振り返ると、そこには、さっきまでてんこ盛りにあった料理が、綺麗さっぱり無くなったお皿と、おかわりを所望する灰白さん達の、キラキラとした眼差しであった。
「ワン!」
「マジか。嘘だろ」
結局、ヨシタカは灰白さん達が何回もおかわりを所望したおかげで、なかなか食べに行く事が出来なかった。
「うぅ、食べ物無くなっちゃった」
少し前にはあった大量の食べ物達が、今は残りカスしか残っていない状態に、「せっかく楽しみにしていたのに」と、ヨシタカはウルウルと泣きそうになってしまうところに、救世主が現れた。
「うふふ。ちゃんと取っておいてあるよ」
「もう、自分の分はちゃんと取っておかなきゃダメだよー!」
「まぁ、これもテイマーの宿命だね」
それは唯、舞姫、白薔薇の3人だ。
「ありがとう! ムグムグ。うぅー美味しいよー」
ヨシタカはそれぞれが確保して置いた料理が乗ったお皿を受け取ると、口一杯に放り込み飲み込んでから叫んだのだった。
本文には乗ってませんが、ドーラのご飯は別に与えています。じゃなければ、ヨシタカ達の分が無くなっちゃいますからね。
ちなみに、今回与えたドーラの餌はイッカクっぽい動物を丸々。




