うーみだーーー!
ブックマーク、感想、評価ありがとうございます。
今回は自己紹介的な感じ。
「おおぉぉー! うーみだーーー! やっぱりここまで近いと、海の匂いがするなぁー」
橋を渡りつつ風に運ばれて来た海の匂いを、胸いっぱいに吸い込んでは吐き出す。
右を見れば、辺り一面の海と青空が広がり、太陽がジリジリと照りつけてくる。
灰白さん達も、柵に鼻を突っ込んでクンクンと匂いを嗅いでは、あまり馴染みの無い匂いにコテンと首を傾げたり、あまりこの匂いが得意ではないのかゴシゴシと顔を洗ったりしたりと、各々が初めての海の匂いに反応を示す。
「早く海に入りたいな!」
「そうだなー。夏と言ったらやっぱり海だしな。そう言えば海の匂いってさ、プランクトンとかの死骸らしいな」
「おっと、それは聞きたくなかった」
この歳になっても、海の匂いを嗅いでワクワクしていた俺の心が、真司が放った何気無い一言で急速に萎んでいく。
海の匂いもお日様の匂いも、どちらも死骸が原因とか聞きたくないよね。
あれから約1週間が過ぎて、とうとう海の日がやって来た。
この1週間の間に、俺はせっせとLv上げに勤しんでいたおかげで、とうとうLvが40台後半にまで上がった。
東京もある程度マップが埋まって来たし、そろそろ今日を境に、次の県へと移動しようと思っていたのだ。
あとは予め買っておいた水着と、大量の肉や野菜と言った、バーベキューでお馴染みだろう食べ物を買い込んで目的地へと向かう。
今回の目的地は、海辺と県境が直ぐ側にある公園である。
その場所を選んだ理由は、必要なLvに達していない状態で県を跨ぐと、県境でワープしてしまい元の場所に戻って来てしまうのだ。それを聞いてやってみたいと言う好奇心からだ。
そしてこの条件に当てはまる場所は1箇所だったので、その公園に向かっている。
「あそこは公園って言っても、キャンプ場みたいに必要な道具を売ってくれたりするし、やっぱり海だからな。浜辺には海の家もあるんだぜ」
真司は既に行った事がある場所らしく、どんな場所なのかを移動中に話してくれる。
今日は目的地の公園に9時集合なので、遅刻しない様にと早めに出発している。そのため近場にある施設にお泊まりだった。
その施設は錬金術が習得出来る施設の様で、俺と真司も錬金術を習得出来ないかやってみたけれど、やはりたったの1日では習得する迄に至らなかったようで、後日改めてチャレンジする為に、ここに来ようと思う。
もし錬金術が習得出来れば、使い物にならない端切れたモンスターの毛皮を必要個数集めて錬金すると、端切れ同士がくっ付いて、綺麗なモンスターの毛皮が出来たりするのだ。
他にも、モンスター同士を組み合わせる事で、新しいモンスターを創り出すことも出来るので、後々のことを考えれば俺に必要なスキルだと思う。
それで、その施設の先にリアル世界だとゲートブリッジ、ここでも名称がゲートブリッジと言う橋があるので、そこを渡って向かっている最中なのである。
既に目的地にはスノウ達が到着しているらしく、メッセージが届いていた。
そのメッセージには場所取りをした証拠が付属されていて、文字は無く写真のみが付いていた。
その写真にはパラソルが乱立して、良い笑顔の双子と呆れ顔のスノウが写っていた。
「あっ、あそこかな? 凄い目立ってる」
「間違いなくあれだろうな。参加人数結構多いし、必然的にパラソルもああなるわ」
橋からそのパラソルが見えて来た。
色とりどりのパラソルが乱立している。その近くには、人らしき姿も見える。
「おぉーい!」
「おっ? 気づいたんじゃね?」
俺が手を振って大声で呼んでみたら、向こうもこっちに気が付いた様で、他のメンバーも呼んで俺達の方を指差すと、全員が俺達に向かって両手を振ってくれたので、海辺まで走って向かった。
「「きゃー! ヨシタカくん、真司くん。久しぶりー!」」
そう言って駆けつけて来たのは、双子のサキとミキだ。
「イェーイ、イェーイ」と双子とハイタッチを交わした後に、今日の企画発案者であるスノウの元へと向かった。
「久しぶりだね。他のメンバーは……まだ来ていないみたいだから、私達以外だとヨシタカ達が1番乗りよ」
軽く手を振ると辺りを見渡し、今日参加する予定である他のプレイヤーはまだ来ていない様で、紅葉、ココア、トト子の3人は俺達に挨拶をした後は、我先にとサキとミキと一緒に、灰白さん達のもふりに参加している。
「そっか。でも、舞姫達はそろそろ来ると思うんだよねー」
照り付ける太陽は眩しいが、俺は上を見上げながら言った。
「そう、上からな」
真司も舞姫達がどの様に来るのか何となく察している様で、俺と同じ様に上を指差しながら言う。
「上から?」
ただ、スノウにはキチンとは伝わらなかったみたいで、キョトンと首を傾げられた。
今日は総勢15人のプレイヤーが参加する。
ただし、灰白さん達従魔はこの数には入れていないので、実感的には2倍になっているはずだ。
俺の従魔は固定なので、後は白薔薇さんがどれだけ連れて来るかによるのだ。
今日参加するプレイヤーは俺と真司。
もともとの今日の企画者だったスノウ、紅葉、ココア、トト子、サキ、ミキ。
そして、スノウ達に頼まれて俺が呼んだ舞姫、唯、白薔薇。
以上が今現在俺が知っている参加者で、スノウ曰く、スノウ達でも数人呼んでいるらしい。
この後全員揃ったら自己紹介を挟む予定であるようで、自己紹介が終わったら水着に着替えて、お昼用に魚介類を集める予定でいるそうだ。
なので、今はまだ全員が普段の防具を装備している。
魚介集めはチーム戦にして、1番多く取って来れたチームには、取って来た物の中でレア度の高い物を、先に食べる権利を与えられるらしい。
「その為にも奮闘してね!」と言われてしまったが、美味しい物の為なら頑張りましょう!
「あとは、海定番のスポーツもやろうと……えっ、あれっ?」
そんな話をしていたら、ヌゥーと俺達のいる場所にだけ影が出来ていた。
上を見たら案の定である。
「えっ! 飛龍! 何でこんな所に……」
「いや、大丈夫だわ。あれ、俺達の身内」
俺達の頭上からやや離れた場所、数メートル上の空中には、見慣れた飛龍が翼を器用に動かしてホバリングをしている。
唯の飛龍でドーラだ。
灰白さん達をモフっていた5人も、何事かと上を指差しながら見上げていると、そのホバリングしている飛龍から、何かが落ちて来た。
「いったぁーい! くぉぉぉー! カッコよく決めたかったのにーーー!」
ドスンと砂埃を撒き散らしながら落ちて来たのは、案の定舞姫だった。高い所から落ちた衝撃の所為で足が痺れたのか、着地したポーズから動けないている。
「減速もしないで落ちたからだろう?」
「舞姫、変な所で無謀」
「いやーーー! 今はツンツンしないでーーー!」
少し遅れて、トス、トスと華麗に着地した白薔薇と唯は、舞姫の様なダメージを負わなかったのかピンピンとしており、無謀な着地をした舞姫に対して、執拗に左右の足を高速ツンツンしている。
「なんか……私のイメージしていたのと違う」
ボソッと呟いたスノウの言葉に、俺も内心で同意をしておいた。
「唯、ドーラを海へ着地してもらってもいいかな? ここだと砂が舞いそうだからね」
「ん。了解」
「では諸君。ちょっと我が子を呼びに行ってくるね」
テイマーである白薔薇は唯の飛龍から一人で降りて来たもんだから、てっきり従魔達はお留守番かと思ったのだが、どうやら未だにドーラの背に乗っている様だ。
「えっ? あそこから飛び降りた意味って?」
海へと向かって行った白薔薇と唯の背を見ながら、スノウは理解不能とばかりに、頭にクエッションマークを浮かべた様な顔をしている。
「まぁ、舞姫が言っていた様に、カッコよく飛び降りて見たかったんだよ。二次元みたいに」
「うん。俺も真司が言ったのが答えだと思う」
スノウが思っていた舞姫達のイメージが粉々に砕け散った後、数分も待って入れば他のメンバー全員が揃ったので、改めて自己紹介をする事となったのだが、偶然にも俺と顔見知りのプレイヤーがいた。
「やぁ、久しぶりだね? 僕のこと覚えているかな」
「わぁあ! 覚えてるよ。キースだろ? 久しぶりー!」
1人はキースで、夜空がいた乗馬クラブが初対面だったプレイヤーだ。
後は直接会ってはいないのだが闘技大会の時に初級のソロで出ていた、片手剣のプレイヤーがキースである。
キースは薄い茶髪でサラサラの髪をしている好青年で、話を聞くと俺よりも2つ年上の様だ。
片方の髪を耳にかけていて、そこにはシルバーのカフスが付いている。
背もこの中では1番高く、真司よりちょっと高くすらっとした体型をしている。
「ヨシタカー! 良かったぁー、スノウ達の知り合いってヨシタカなんだぁ!」
「リリ、久しぶり。今日は1人なんだ」
もう1人が魔女っ子のリリで、彼女とは闘技大会の時が初対面で、その時は家族と一緒に参加をしていた。
「まぁねー。いつでも皆一緒って訳じゃないからね」
リリは今日も魔女っ子スタイルで、魔女っ子スタイルとは言っても、どちらかと言えば日曜日の朝にやっている、幼児向けと言うよりかは大人向けにもなりつつあるアニメや、深夜にやっていて絶大的な人気を博した魔法少女の様な格好をしているが、やっぱり頭の三角帽子の所為で魔女っ子さが出ている。
リリ曰く、その中の銃使いに憧れている様で、彼女の様に上品で大人な女性になりたいと言っていた。そのためなのかは分からないが、理想の髪の色を求めるあまり「課金をしてしまった」と言っていたが、本人は物凄く今の髪色を気に入っているみたいで、変える予定は無いらしい。
どうやらアニメ関係はお兄さん方の影響らしく、それを聞きつけた舞姫と意気投合しているが、別に腐ってはいないらしいが偏見も無いようだ。
あと2人いるのだが、この2人は俺とは初対面であった。
「「僕は右近。よろしくね」」
右近がお兄ちゃんで左近が妹の、こちらは双子の兄弟だ。サキやミキは瓜二つの双子なのに対して、右近と左近は二卵性の双子なので、顔などは双子と言うわりにはあまり似ていないが、お互いが醸し出す雰囲気は同じである。
二人共髪は紺色をしており右近がウルフヘア、左近が前から見るとショートボブなのだが、その後ろにはお尻まで届きそうなほど長い三つ編みをしている。
それぞれの使用武器は兄である右近が弓で、妹の左近が格闘家だ。
スノウが呼んだプレイヤー達の繋がりは、右近と左近がスノウ達と同じ高校生で、元々左近の方がスノウ達と友人だった訳だ。
それで闘技大会の時にスノウ達が参加しているのを見つけた左近が、連絡を取ったと言う事らしい。
リリは闘技大会の控え室で待っている時に知り合って、学校は違うが同じ学年と言う事で親近感が湧き、それ以降何かと連絡を取っていた様だ。
キースはちょっと特殊で、ロリっこ体型のココアが一人でいた時に、男性プレイヤーに絡まれている所を助けてくれたのが出会いの様だ。
「一応、今日参加しているプレイヤーは、これで全員です!」
と言う事は、このメンバーでは舞姫、唯、白薔薇、キースのみが成人と言う事になるのか。
よし、もしかしたらの可能性で酔っ払いでもしたら、その時はキースに任せよう! 俺には手に負えないからな!
「早速で悪いんだけど、僕達知り合いが少ないからさ、良かったらフレンド申請しても良いかな?」
「申請を許諾して、私達とお友達になってよ!」
「もちろん、いいよ」
早速右近と左近からフレンド申請が来たので、快く受け入れる。
「それじゃあ、僕も良いかな?」
ちょっと申し訳無さそうにしながらも、キースからフレンド申請が来たのでもちろん快諾した。
リリとは闘技大会の時に、お姉さんと一緒にフレンド登録をしていたりするので、仲間外れにはなっていない。
そんなリリは真司と舞姫と共に、アニメや漫画の話で盛り上がっている。
「よし。登録完了っと……ん?」
キース達からのフレンド申請を登録する為にウィンドウを操作していたら、俺の肩に何かでツンツンされたので振り向けば、胸元にトウモロコシのワッペンが装飾されているオーバーオールを着た狼男が、俺を見下ろしていた。
「ヨジダガ! おで、ヨジダカ、会いだかった!」
「あれ? 君、お父さんの所の? えっ、なんで居るの?」
「グフフ。もっど、撫でで」
居るとは思っていなかった狼男の出現に俺はビックリしたのだが、尻尾がはち切れんばかりに左右に振っている狼男のモフモフの頭を、挨拶代わりに取り敢えず撫でておく。
撫でれば直ぐにトロンと弛緩し始めて、お座りの状態でもっと撫でろと、俺の手に頭を擦り付けてくる。
そんな狼男を見た灰白さん達も、我も我もと俺の周りに集まり出してきた。
ついでに、白薔薇の所の従魔でホワイトタイガーの清白、スキュラの白菊も無事、地上に降りられた様で、そのまま俺の所に寄って来てしまったので、俺の周りはモフモフが勢揃いしている。
「うひゃー。何これ!」
「うわぁー。何だこれ!」
俺の特異体質を初めて見た右近と左近は、俺と白薔薇の従魔のモフモフの波に飲まれてしまったが、二人共楽しそうにキャッキャウフフしている。
「へー。ヨシタカって馬以外にもモテモテなんだね」
キースは直ぐにモフモフの波から離れると、安全圏でこの状態を楽しんでいるみたいだ。
「ヨシタカ、その狼男はお父さんから頼まれちゃってね。私がここまで連れて来たんだよ」
狼男がここにいる理由は、白薔薇から教えてもらったが、どうやらお父さんが行こうとしているダンジョンのLv的に、この狼男ことヴォル男のLvだとちょっと厳しい様なので、白薔薇の所に預けられたそうなのだ。
それが一昨日の話で、お父さんは1週間ほどダンジョンに潜っているそうなので、その間1人では寂しかろうと、ここに連れて来たのだそうだ。
「それにしても、お前って言葉喋れたんだな」
この前会った時は会話が出来ずに、ボディランゲージで意思を伝えて来たのだが、今は辿々しくもちゃんと会話が出来ている。
「ンダ! おで、イッパイ練習したど!」
「あぁ。人型や言葉を理解して、会話や念話が出来るってモンスターは、人語ってスキルを習得させれば、ヴォル男の様に会話が出来るようになるんだよ。もちろん、私の白菊もね」
海から戻って来た白薔薇がそう言うが早いか、ぐっしょりと濡れた白菊がヴォル男と俺の間に割り込むと、むぎゅーと俺に抱きついてくる。その肩には三毛猫がちょこんと座っている。
「ヴォルお、いっぱい、ナデナデ、ズルイ!」
「にゃーん」
「クゥーン。ヨジダカー! スギスギー!」
「ウゥー! ワンワン!」
白菊、ヴォル男、灰白さんの三つ巴戦が始まろうとしたけれど、その前に白薔薇が止めた。
「こらっ、お前達そろそろ離れなさい。君達もごめんね。私は白薔薇。テイマーだよ」
「唯」
「舞姫だよー!」
白菊とは違い、海から戻って来たのにどこも濡れていない2人が、初対面のメンバーに挨拶をすると、舞姫も唯達の元に行き最初に見せた失態を消し去り、腰に手を当てて右手を頭の近くでピースにしながら自己紹介した。
「えっと、取り敢えず全員揃った事だし、水着に着替えちゃおうか?」
スノウの提案で、男女で分かれて水着に着替える事となった。
お待たせしました。海回です。
アニメで言う所の水着回は来週から!




