玄武→白虎
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昨日の月は、皆さん見れたでしょうか?
闘技場に出現した玄武の亀と蛇は、全身が茶色で亀の甲羅の部分は濃い緑色をしている。亀の方の大きさは象並みに大きく、首を全開に伸ばせばキリン並みの高さで、それに絡み付いている蛇はアナコンダの様な太さで、真っ直ぐ伸びてもらえばかなり長い事が分かる。
その玄武が現れたのと同時に走り出したのは四人で、舞姫、唯、白薔薇、蜂蜜だ。
その場に留まった紫喜となめこは、逆に玄武から距離を取りながら各々動き出した。
「紫喜は私が守るからねー」
「あぁ。そんじゃあ、攻撃力と速度を上げるぞ!」
「あいさ!」
紫喜の周りに半透明の結界が生まれ、その中では紫喜を中心に、二つの楽譜が回っている。上がカラオケで見る楽譜で、下がギターの楽譜となっている。
吟遊詩人は一つの楽譜で属性を付与するか、ステータスを上げたり下げたりする事が出来る。
味方の場合はバフ、敵の場合はデバフだ。
紫喜の場合はギターと歌の2つなので、予め決めていたバフの中で、攻撃とスピードを選択している。
闘技大会TAにおいて、無差別級のみ予選開始時のメッセージが届くまで、何と戦うのかが不明なのである。
対戦するモンスターが不明なので、どんな属性や耐性持ちがやって来るか分からないし、下手に相手の有利な属性で練習していたら目も当てられない。
なので、「なめこが居るから防御や属性付与捨てて、攻撃とスピードを上げて」と言う唯の鶴の一声で、紫喜となめこの担当が決まった。
「Shaaaaaa!」
紫喜がギターを弾き始めた瞬間に、蛇のヘイト値を稼いだらしく、紫喜が居る方に向かって直線に紫色の液体を噴射したが、なめこが展開している結界に阻まれたおかげで、紫喜のダメージは0だ。
「今ので2割か。紫喜、さっきの攻撃は後3回喰らったら貼りなおすから、それまで、避けたり避けたりして時間稼いでよね!」
紫喜を基点として貼られた結界の後方に避難していたなめこが、紫喜に聞こえるようにやや大きめの声を出して今後の指示を出す。
すでにAメロを歌っていた紫喜は、会話が出来ないのでアイコンタクトで答えた。
今回なめこが展開した結界は、紫喜を基点として張られている為、紫喜が動けば結界も移動が可能となる。
ただし、場所を指定しているのにプラスして、単発で破壊される結界とは違い、結界の耐久値を上げているので、通常の結界よりも消費マナの量が増える。プレイヤーに有利な結界ほど、使う時のマナの量が多くなるのだ。
「ふう。後は唯達のサポなんだけど、こっちの方がマジハード」
紫喜の側でポツリと呟いた言葉に、紫喜も内心で同意した。
紫喜達がサポートに入る少し前、走り出した唯達は、近距離担当の唯が先頭を突っ走り、その後ろから舞姫と蜂蜜が続く。そこからちょっと遅れて、ハンマーを担いだ白薔薇が続いていた。
「うぅーん。紫喜のサポがあっても、久しぶりに移動制限があるから動きにくいなぁ」
吟遊詩人の効果により、攻撃の赤とスピード上昇の白のエフェクトが発生しているが、今現在の彼女達のスキルは、すぐに玄武達を討伐出来ないように少な目に設定している。
もし、彼女達が最善の状態で戦ってしまった場合、ヨシタカが参考にする前に瞬殺してしまう可能性があったからだ。
さらに、ハンマーは重い武器なので、片手剣や双剣などに比べると、行動スピードに制限が掛かってしまっていたが、これによって白薔薇は、玄武の最初の攻撃を躱す事が出来た。
「Shaaaaaa!」
「チッ」
「ちょっ! わっ!」
「うぉっとぉー!」
先頭を突っ走ってした唯諸共、攻撃の範疇に入れた蛇の毒噴射が襲いかかったのだ。
これは本来なら、紫喜目掛けて出した噴射だったが、運悪く唯の目の前で攻撃モーションが入ってしまい、あわや攻撃を喰らってしまうかと思われたが、唯は即座にスライディングして難を逃れた。
唯の後ろを走っていた3人も、左右に避けて攻撃を回避する。
特に、遅れ気味だった白薔薇は余裕で左に避けて、そのまま亀の顔目掛けて向かった。
「フッ!」
スライディングから立ち上がった唯は、目の前の蛇の胴体に乱舞する。双剣の攻撃力は他の武器に比べて低いものの、手数が多いので、毒や麻痺などの状態異常にするにはもってこいの武器である。
さらに唯が双剣で攻撃した場合、惚れ惚れするほど綺麗に舞うように攻撃するのだ。
蛇の噛み付き攻撃もササッと難なく避けて、華麗な乱舞を決めていく。
(うーん。参考にしたいけど遠っ!)
遠くの方で眺めているなめこにして見たら、唯の攻撃は参考にしたいものの距離がありすぎるのでよく見えず、仕方ないのでヨシタカ達が録画をしている事を祈った。
「それじゃあ、私もやるよーん!」
左右に散った舞姫と蜂蜜は、亀の剥き出しの足にそれぞれ攻撃していく。舞姫が右回り、蜂蜜が左回りだ。
舞姫は亀の足から十分な距離を保って、二丁拳銃で攻撃していく。
舞姫が愛用している二丁拳銃は何個も存在しており、今回は初心者のサポートを目的とした、攻撃力の少ない銃で攻撃している。
舞姫は難易度の高いモンスターと戦った後に、その時の鬱憤を晴らす為か、ヨシタカのように低Lvのプレイヤーのお手伝いを、頼りになるお姉さんとして、時々したりしている。
「GUAOOOO!」
「よっと。おわわわわ」
いくら動きの遅い亀でも象並みにでかいので、勢い良く繰り出された踏み付け攻撃を避けても余波で地面が揺らぎ、舞姫はバランスを崩してしまい攻撃をキャンセルさせられるが、その直後にズドンと亀の巨体が崩れ落ちた。
「はいはい。皆、ラッシュラッシュ」
倒した犯人は白薔薇で、ずっと亀の頭に張り付いて攻撃していた彼女のお陰で、玄武が気絶状態のスタンになったのだ。
ただ、蛇の方は健在なので蛇の動きに注意しつつ攻撃を繰り返えす。
「そろそろ入りまーす!」
「GA……GiGi」
蜂蜜がそう宣言した通り、玄武の体の周りに電撃が走っているようなエフェクトが入っている。チクチクと繰り返し攻撃していた蜂蜜の麻痺が掛かったのである。
「この間に貫通針で追加ダメージ!」
蜂蜜が、頭の団子から一本の針を抜いて玄武の方へ投げると、それを追うように19本の針も追随して行く。
武器を針にしたのは蜂蜜の考案で、全部で100本の針を武器としている。それを20本のグループに分けて、その中の基点となる針を頭のお団子に、簪の様に挿していたのである。
基点となる針を作ったのは、1本ずつ針を操作するよりかは、「基点となるの針の直線になるように続け」とか、「螺旋を描くように続けて」とか、「縦や横になって一緒に攻撃」とか、操作するのがやりやすいからである。
5組の針達はそれぞれ通常の物と、貫通力アップ、毒や麻痺、睡眠効果のある針で構成されている。
「GAaa…」
「よっしゃ! 玄武終わりー」
その後も足の部位破壊分ダウンさせたり、スタンや異常状態で動きを止められた玄武は、早々に討伐されていった。
「次は青龍?」
「そうだ。何だかんだで1分以内か。5分針は間に合いそうだな」
「青龍ってここら辺だっけー?」
「中心のちょっと右後ろ側ー! あっそうそう。そこそこー!」
そう言って、青龍が出てくるだろう真下に罠を張りに行く蜂蜜。
「蜂蜜ー! 飛ばしたいから痺れ罠じゃなくて、落とし穴ねぇー!」
「あいあいー!」
回復薬でHPを回復したり、砥石で切れ味を戻したりしたメンバーは、落とし穴を設置した蜂蜜の元に集まる。
「私は貫通弾に当たらないように、横からかな?」
「あはっ。ダメージは入らないけど、攻撃阻害しちゃうからねー」
そう言った舞姫は、後方にいるなめこに向かってブンブンと両手を振って合図する。
「なめこ。あとはよろしくー」
「んふんふー!」
なめこは舞姫達と紫喜の中間の位置で待機していると、空から青龍がやって来た。
全長は数十メートルあるかと言うほどに長く、その全身は濃い青色をしているが、光の当たり具合よっては鱗に反射するのか、一部は空の色と同化している。
「いらっしゃいませー!」
この後は、すでに青龍に対してのお決まりのハメ技によって、せっかく出現した青龍も呆気なく討伐されてしまった。
何をしたかと言えば、空中に青龍が出現して咆哮を上げようとするタイミングで、なめこが閃光弾を放ったのだ。
このゲームにはモンスターの無敵時間が存在しており、今回のように何も無い所からモンスターが出現している間は、どんな攻撃も効かないのである。
なので、青龍が思いっきり仰け反りながら息を吸い、咆哮を上げる前の1秒ほどの硬直時間を狙って、青龍の目の前に行くようにタイミングを良く閃光弾を投げつけたのだ。
あとは閃光弾で目を回した青龍が、墜落するのと同時に落とし穴に嵌り、落とし穴に嵌っている間に白薔薇が頭部を強打する。
打撃武器による頭への強打でスタンにすることによって、落とし穴から抜け出す時間を稼ぎ、唯が青龍の下に再び落とし穴を設置させている間に、舞姫と蜂蜜は青龍の顔目掛けて、貫通力の高い貫通弾と針で攻撃をし続けた。
「ふははははー! 貴様など恐るるに足らずー!」
「ふふ。舞姫はノリノリだなぁ」
そして、落とし穴から這い出し飛び上がった青龍に、再びなめこが閃光弾を投げつけて、さっきと同じ攻撃方法を繰り返して、あっさりと青龍を討伐したのである。
「ウシッ、やっと半分かー」
ずっと歌いっぱなしの紫喜だが、普段の戦闘に比べれば、まだまだ余裕である。
普段であったら30分以上の戦闘とかもザラで、しかも一撃が即死級のモンスターと戦っている事を考慮すれば、今の戦闘は朝飯前なのである。
そんな中、またもや地面に罠を設置している舞姫達の所に、なめこが向かう。
「朱雀って、最初飛んだまま? 降りてくる?」
「最初は降りて来るから、閃光弾は大丈夫」
「了ー解」
唯の返答を聞いたなめこは、すぐに紫喜の元へと戻って行く。
次に出現した朱雀は、こちらも空からの出現で、バサッバサッと羽ばたきながら、地面に華麗に降りたところで落とし穴に落ちた。
初っ端から残念な登場をした朱雀の羽は、まるで燃えているかの様な揺らめきをしており、辺りには火の粉まで飛んでいる。
大きさはダチョウで、長い尾羽が3本地面に垂れている。
「Piyooooo!」
「ふははー! もがけもがけー!」
「舞姫! やり過ぎないでよ。麻痺か眠ったら爆弾投下だからねー!」
「分かってるー!」
罠に落ちた朱雀も、最初は青龍と同じ様な方法で攻撃していたが、青龍と違うのは麻痺させたり睡眠させて動けなくなった後に、爆弾を使った攻撃方法がプラスされた点だ。
これもまたすぐに討伐出来ないように強化爆弾改ではなく、通常の爆弾を使用している。
爆弾の見た目は、丸くて黒い本体に導火線が付いたもので、通常の爆弾がメロンくらいの大きさに対し、爆弾大が大きなスイカ、爆弾小がりんごサイズとなっており、それぞれ設置から10秒、20秒、5秒で爆発する。
威力の高い爆弾大の、その更に強化された強化爆弾改は、本体部分に髑髏マークが付いているのである。
爆弾の威力は肉質、属性関係なく固定となっており、爆弾大の威力が100としたら、通常のは50で小が20となっており、強化爆弾改は200のダメージを与える事が出来る。
さらに、爆弾は連鎖が続くと威力が上がっていく性質を持っており、2つ爆発するごとに1割ずつ上がっていき、最大で元の威力よりも二倍の攻撃力を発揮する。
ただし、プレイヤーが一度に出せる爆弾の数は改、大、中のどれか2個ずつとなっている。小は時間制限もあるので1個ずつである。
なので、今のパーティでは最大12個の爆弾を設置する事が出来る。
「はいはい。皆離れてー!」
爆弾を設置し終わった舞姫以外のメンバーは、爆弾の攻撃範囲から離れて行く。
「ドッカーン」
皆が充分に離れたのを確認した舞姫は、爆弾に向かって銃を撃つと、ドドドドドッカーンと連鎖的に設置した爆弾が爆発した。
もともと四獣の中ではHPが低めに設定されている朱雀は、もう1度状態以上からの爆弾コンボを繰り返せば、HPは0になった。
「あとは白虎かぁー」
「残り3分30秒」
「ギリギリだな」
蜂蜜、なめこ、紫喜が言うように、残っている四獣は白虎のみとなっている。そして、始まる前に宣言していた5分針内に終わらせるには、3分29秒以内に討伐しなければならない。
ちなみに、さっきから言っている5分針とは、とあるモンスターをハントするゲームに用いられている用語であり、当然このゲーム内にも愛用者がいて、そのプレイヤー達からの要望で時計の表示タイプを追加した経緯がある。
この中では紫喜以外のメンバーが戦闘時にのみ、この表示にしている。
「GAUUUUU!」
「尻尾切れた」
「右足の爪も破壊したよー!」
「残り時間は!」
「あと、40秒です!」
「まっにあえー!」
闘技場に出現した白虎は、リアル世界の虎よりも1〜2割ほど体が大きく、さらに爪や牙なども鋭くズッシリと大きい。
そんな白虎戦では、今の戦闘スタイルでは青龍や朱雀の様なハメが存在せず、さらに動きの早い白虎との戦闘は、時間との戦いだった。
別に、必ず五分針以内に討伐しなければならないわけではないが、宣言したのに達成出来ないのは、高Lvプレイヤーとしてのプライドとして許されないのであった。
「これで、どうだっ!」
白薔薇が力一杯振り上げたハンマーが白虎の顎に命中すると、それがラストアタックだった様で、見事四獣を討伐する事が出来た。
残すは時間以内に討伐出来たかどうかである。
「何分だった?」
「9分54秒。ギリギリだったな」
白薔薇の問いに、先程の戦闘時間を確認した紫喜が答える。
「やったぁー。間に合ったー! ヨシタカーどうだったー?」
無事に宣言時間内で討伐出来た喜びに、浮かれながら観客席にいるヨシタカ達の方へ駆け出していく舞姫を、他のメンバーもお互いに「乙ー」や「お疲れ様」などと言いつつ、舞姫の後を追う。
「凄くカッコ良かったです!」
観客席で先程の戦闘を見ていたヨシタカは、キラキラした眼差しで6人の事を見ており、その眼差しを受けた6人は、純粋な尊敬の眼差しに微笑ましい物を感じる。
「うっしゃあ! 次は俺達だな。ヨシタカは初戦だから、1匹ずつやって行こうぜ!」
「それだったら、俺もサポートで入るよ。2人とも吟遊詩人のサポートは初めてかな?」
先程の戦闘を見て奮い立った真司はガバッと立ち上がると、ヨシタカの手を取って闘技場の方へと駆け出そうとする。
それを見ていた紫喜は、自分も参戦する有無を伝えた。
「おっ! マジか?」
「えっ? でも、あっちで唯達が円陣になってるけどいいの?」
真司は初めての吟遊詩人のサポートに浮かれるが、ヨシタカは逆に心配をしてしまう。
何故ならヨシタカの隣では、こちらが話しかけるのも憚られる程、真剣に話し込んでいる女性陣が居るからだ。
心なしか彼女達の背後に、般若やら鬼やら蜂なんかが見える気がする。
「あー、うん。俺の仕事は決まって居るし、ぶっちゃけあの中に居たくない」
「あっ。把握」
「えっ? どゆこと?」
「まぁまぁまぁ。早速、初めての四獣討伐だ。やろうじゃないか」
ピーンと何かを感じ取った真司とは違い、いまいちどう言う事かを把握していないヨシタカを、闘技場の方へ2人で促し、闘技場内に入って行ったのであった。
本編に入ってはいませんが、なめこはヨシタカから無事に動画をゲットしています。
さらに、本編には出ていませんでしたが、なめこの結界を足場にして移動したりしています。




