訓練場
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大寒波到来で、外に出るのがツライ。今日この頃。
「ようこそ、訓練場へ!」
2つある入り口は、右側は重厚そうな木の両開き扉で、左側は銀色の扉で塞がれている。その、ちょうど真ん中の位置に受付があり、そこにいる受付担当の男性NPCが、俺達に向かって笑顔でそう言ったのだった。
俺達がいる現在の位置は、リアル世界の場所で言う所の、パンダで有名な動物園である。
ウィンドウで調べたここの敷地面積は、動物園と池を合わせた面積であるようで、その周囲を石の外壁が覆っている。ほどほどに広いが始まりの町に比べると、1〜2回りほど狭い。
「訓練場……ですか?」
「そう。私達が来たかったのは、ここ。訓練場だよ!」
俺の前に出て華麗なターンを決めた舞姫は、両手を上げながらそう言うと、そのまま受付でやり取りをし始めた。
「で、その隣がカジノ」
そんな舞姫の事をスルーして、唯がもう1つの扉を指しながら言う。
「へー。中は訓練場とカジノが一緒になっているのかな?」
「ううん。まぁ、中に入れば分かるよ」
唯は説明するのが面倒くさいのか、それ以上は何も言わなかった。
「あっ。ヨシタカはここ初めてだよな? なら、受付の説明を聞かないとな」
「うん?」
「ここみたいな施設を使う時には、始めに使い方を聞かないといけないんだ。ほら、ゲームのチュートリアルみたいなものだよ」
「なるほど」
真司と白薔薇に説明されて、舞姫が受付でのやり取りを終えるのを待った。
「それじゃあ、2人共。私達、先に中に入っているから! 受付には言ってあるから、説明聞いたらそのまま入っちゃってね!」
「おう。すぐ向かうから、先に始めんなよ!」
「了ー解ー!」
手を振りながら、右側の扉の中へと入って行く舞姫達を、「一緒に説明を聞いてやる」と言ってくれた真司と見送ったのだが、舞姫が開いた扉の先は真っ白い壁で阻まれていた。
壁と言うか、よく見ると白く光っている様に見える。そんな中に、皆が躊躇いもなく入って行くのを見て「わぁ、ゲームみたい」と、思わず言ってしまった。
「まぁ、ゲームだからな。ほら、さっさと説明聞こうぜ」
扉の方を呆気に取られて見ていたら、そう真司に促されたので、早速受付で説明を受けた。
「訓練場へようこそ。お客様は始めてでいらっしゃいますので、ここの説明をさせて頂きますね」
「はい」
受付のお兄さんは、ディーラーのコスチュームに身を包んでおり、右にモノクルを装備していて、ちょっと胡散臭い笑顔で対応してくれる。
胡散臭いと思ったのは、俺がカジノに抱いているイメージと、この人の笑顔が、蛇やキツネっぽいと思ったせいかもしれない。
「次回以降は、どこの訓練場でも今日と同じ説明を聞く事が可能ですので、必要だったり、忘れた場合は何なりとお申し付けください。
では、右の扉の先が訓練場です。左の扉の先がカジノとなります」
受付での説明は10分くらいで終わった。
今日の所は、訓練場がメインで、カジノへと行く予定は無いので、訓練場の説明だけを聞いたのだ。
それに、カジノの説明を今聞いても、忘れそうだったからね。
それで訓練場の内容だが、訓練場はリアル世界の動物園と、水族館がある場所に存在するみたいで、動物園が主に陸地で、水族館が水場に関係するモンスターが出現するみたいだ。
使用するには1時間で500Gの料金が取られる。ただ、1人500Gでは無くて、1つの部屋に500Gかかるみたいだ。
今回、舞姫が取った部屋は12番の3時間なので、1500Gを後でお支払いという訳だ。
逆に、3時間未満の、例えば2時間以内に出た場合は、例え3時間分を指定していたとしても、実際に使用したのは2時間分だけでなので、料金は2時間分の1000Gで済むのだそう。
舞姫達は、この使用料を後で割り勘にするみたいだけど、今回、俺達は除外されたらしい。
たった今、俺達宛に「お金は不要だよー!」と、舞姫からのメッセージが届いたのだ。
それと、12と書かれたコースターの様な形のネームプレートを貰った。これには俺の名前が既に書いてあり、さらに灰白さん達の分まで手渡された。
このアイテムを持っていれば、時間内の出入りは自由なのだそうだが、時間が過ぎるとネームプレートは消失する。
このネームプレートが滞在許可証の様な物なので、これを持っていないと強制的に、俺達がいる入り口まで飛ばされてしまうのだ。
そして、部屋を借りたグループのリーダーには、訓練場専用の装飾品が渡される。
この装飾品は、腕に付けるブレスレットになっており、これを装備するとウィンドウで受付と連絡を取れるらしい。
連絡は主にカラオケの様な感じで、滞在時間を延長するだとか、料理やジュースも頼めるのだ。
その料理やジュースのメニューは、訓練場の中に入れば全員がウィンドウで確認出来るが、注文が出来るのは、ブレスレットを装備しているプレイヤーだけだ。
そして、この訓練場の特徴なのだが、どうやら今まで戦った事のあるモンスターと、好きな様に戦う事が出来るのだ。
好きな様にとは、もちろん言葉通りであり、朝と夜も関係無く、出会った事のあるモンスターを呼べて、10匹のモンスターを1匹ずつ出現だとか、10匹一斉に出現だとかも出来る。
あとは、たとえ死に戻りしても、割り振られた部屋に死に戻るので、ここではいくらでも死に戻りが出来る所だろうか?
ただ、経験値は入るのだが、素材アイテムは入手出来ないし、ここでは討伐クエストの対象外になるので、そこは注意だそうだ。
その代わりに、素材アイテムの代わりとして訓練場でしか入手出来ない、専用のコインを貰う事が出来るようなのだ。
お兄さんに見せてもらった東京のコインは、一番レートが低いコインで、石のような素材で出来ていた。
そのコインは隣の入り口の先のカジノで使う事が出来る様なので、時間が有って暇な時にでもやってみたいと思う。
真司曰く、ラスベガスの様な本格的な部分と、ゲームセンターの様な要素もあるので、時間潰しにはちょうど良いけど、ハマる奴はハマっちゃうから気を付けろと言われた。
そんな訳で、説明を聞き終えた俺達は、早速舞姫達が入っていった右側の扉を開いて、光輝くその先へと足を踏み入れた。
「ええっ!? ここ闘技場じゃん!」
中に入って一番に驚いたのは、扉の向こう側が闘技大会の時の様な会場だったからだ。
ただ、あの時とは違って観客席と闘技場との高低差はあまり無い。
闘技場とを隔てている柵は、俺の身長よりもやや低い位置にあり、ちょっと背伸びをすれば全てを見渡せた。
闘技大会の時がローマ時代のコロッセオっぽいのに対して、訓練場はスペインの闘牛場の様な印象を受けた。
実際に現地に行って見たことはないけど、ハプニング映像とかで闘牛が観客席に乱入とか、マタドールのお尻にブスッとツノを突き刺して、ポーンと跳ね上げたりする映像は、よく見かけるから、それを想像したら分かりやすいだろうか?
「ゲーム世界だからな。扉を経由して各部屋に転移してんだよ。じゃなきゃ、あの敷地面積じゃあ、訓練場とカジノの両立が出来ねぇだろ?」
成る程、理解。
確かに、電脳世界だからこそ可能にしているのか。
「おぉーい! こっちこっちー」
そんな会話をしていたら、後ろのやや上の方から俺達を呼ぶ声がしたので、声がした方へと振り向いた。
「……うわぁ。皆、カッコいい」
観客席の最上階に居たのは、先に中へと入っていった面々で、今は完全装備となって俺達を見下ろしているのだが、全員が同じ装備を纏っていて神々しい程にカッコいいのだ。
おそらく、黒が好きな紫喜と、白が好きな白薔薇の為に、黒と白を基調とした和服(女性陣は巫女服)に、それぞれが希望したであろう要素が所々含まれている。それプラス、高Lvプレイヤーが醸し出す圧倒的な雰囲気と、太陽の光が合わさった事により、神々しい印象を受けて、思わず溜息が溢れてしまった。
「見て見てー! ちょっぱやで仕上げた割には力作じゃない?」
「……舞姫ー。チョッパヤって死語じゃない?」
「あはは。蜂蜜が言う通りかなー?私もそう思うー」
「にゃにおーう! そんな事言っちゃう蜂蜜となめこには、舞姫お手製のその衣装、ひん剥いてやるぞ。このやろー!」
「きゃーー! 舞姫が怒ったー」
「あはは! 逃げろ逃げろー!」
だが、しかし。
カッコ良さは、あっという間に崩壊した。
舞姫は喋ると本当に残念だな。
「良かったー! 先に始めて無かったんだな」
鬼ごっこを繰り広げている3人を尻目に、残りの3人の元へ向かう。
「まぁね。説明はちゃんと聞いてきたかな?」
「はい。大丈夫です」
「なら、まずは私達の戦闘を見学してもらおうか?」
「ヨシタカ。Lv50の登竜門。四獣討伐の練習だよ」
白薔薇の補足に、唯が続く。
確かに、ここだと俺以外の人達は四獣を討伐しているはずなので、誰かがパーティに入ってくれれば、四獣と戦闘が出来るのだ。
「その為にも最初は見学をして、どんな動きや攻撃をするのかを勉強しておくと、実際に戦う時に役に立つよ」
「まぁ、俺達が戦っちゃうとあっという間に終わりそうだけどな」
「その為に、防具以外の装備やスキルは、ヨシタカのLv帯に合わせていたの」
「なんだ、その為だったか」と、紫喜が納得した辺りで、鬼ごっこをしていた3人が戻って来た。
「ふふん! 準備運動はバッチリ」
「ふえー。疲れたー」
「いやぁ、戦う前に鬼ごっことか。やるもんじゃないね!」
蜂蜜となめこは口ではそう言いつつも、笑顔で会話をしているので、全然疲れているようには見えない。
「それじゃあ、行ってくるねー!」
柵には東西南北に扉が配置されている。そのうちの一つから、サムズアップする舞姫を先頭に、皆が和気藹々と楽しそうに柵の中へと入って行く。
俺でも知っている有名な四獣だが、彼女達にとっては何回も倒した事のあるモンスターだからか、恐怖などの感情は湧かないみたいだ。
「そこでちゃんと見てるんだよ?」
そんな中、唯だけは俺の頭を撫でてから皆の後を追って行った。
「そんじゃあ、見学でもしますか」
「だね。はぁ、なんか緊張する」
観客席に平然と座る真司の隣で、深い溜息をつきながら俺も座った。
「何で溜息?」
「俺も虎とか龍とかと、後々戦うのかと思うと、ちょっと怖い」
「いや、確実にあいつらの方が怖いと思うぞ?」
この後に、四獣と戦う事になるはずなので、その不安を真司に言ってみるが、真司は真顔で闘技場の方を指差す。
「いや、うん。実力的にはそうなんだろうけどね」
「まぁ、初見のボス級は皆そんなもんよ。唯とかは初見モンスター相手に、嬉々として討伐しに行きそうだけどな」
「うーん。否定出来ない」
そんな会話をしている内に、向こうの方の準備が出来たのか、ついに四獣との戦闘が始まった。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
戦闘が始まる少し前。
「それでぇ、戦闘方法はどぉうするの?」
柵の中に入った面々は、それぞれが武器を手にスタンバイをしている。
このパーティで組む最初の一発目なので、それぞれが慣れしたんだ戦闘スタイルで戦い、そこから最適な役割分担を決めて行く予定であるのだ。
ただ、吟遊詩人である紫喜だけは役割が完全に決まっているので、彼だけはこの後の反省会には参加せずに、ヨシタカの引率役に任命されている。
3人の保護者から言われて、否定出来なかったのだ。
それ以外のメンバーの戦闘スタイルは、近距離は唯と白薔薇で、唯は双剣でチャクラム。白薔薇は全長が身長とほぼ同じサイズのハンマー。遠距離攻撃と状態異常のサポートが、舞姫と蜂蜜で、舞姫は愛用の二丁拳銃。蜂蜜は自身考案の針。サポートが紫喜となめこで、紫喜は先程言った通りの吟遊詩人で、ギターとマイクを装着。なめこが回復とガードが出来る、僧侶と結界師を兼任する。
柵の中の闘技場は、雑草も生えていない更地だが、設定を使って水場以外の地形へと変更出来るのだが、ヨシタカに見せる為の戦闘なので、設定を弄ったりせずに、このままの状態で挑む。
そんな中、ウィンドウを操作している舞姫の腕に抱きつきながら、画面を覗きつつ蜂蜜は問いかけた。
「北から順に時計回りの1匹ずつ討伐だよー! インターバルは1分。目指せ、5分針!」
舞姫が設定した今回の戦闘は、玄武、青龍、朱雀、白虎の順に出現する。その出現するタイミングは、前の四獣が討伐されてから1分後なので、そのタイミングで回復だったり罠を設置したりする。
「んふー。10分以内かぁ」
「余裕」
「さっすが最強」
「うわぁお! 私もあんな事言ってみたーい!」
「ほらほら、亀と蛇が出てくるよ」
「GUAAAAAOOOoooo!」
「Shaaaaaa!」
白薔薇が言い終わるタイミングで、闘技場の中心が光り輝き、そこに北の四獣である玄武が出現した。
玄武は亀の体に蛇が巻き付いている。
亀の甲羅で一番高い所は大人の象くらいで、その亀に、巨大なアナコンダサイズの蛇が巻き付いている。
「さぁ、ヨシタカ達にカッコ悪い所は見せられないよ! 戦闘開始!」
『おう!』
来週は舞姫達パーティvs四獣です。




