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意外なほど近くにいたりする

海が遠のく……が、その分ボリューミーになるはず!

『【賞金首発生!】

 賞金首が発生しました。

 場所は東京。

 期限は10日間。

 賞金首の顔写真は次のページにあります。

 バウンティハンターは3人投入』


 俺や真司はもちろん、NPCであるキャリーの元にも運営からのメッセージが届いている様で、この場にいる全員がメッセージに目を通していた。

 ふと、周りを見渡してみたら、それぞれが立ち止まってウィンドウに注目していたので、その場にいる全員にも、俺達と同じメッセージが運営から送られて来たのかもしれない。


「今回の賞金首はグループ犯か」


「6人分の顔写真が出てるみたいだし、そうみたいだねぇー」


「あっ!」


 2人の会話を聞きながら、顔写真が載っている2ページ目を見てみると、驚いた事に見知ったプレイヤーの顔写真が載っていたのである。

 さらに、もしかしてと思い最後の方まで確認してみると、今回の賞金首になった6人共全員、会ったことのあるプレイヤー達だったのである!


「どうした? ヨシタカ?」


「俺! この6人知ってる!」


 それはそうだろう。

 忘れもしない闘技大会予選の時に、控え室で「お前、どんなズルしてこんなにモンスター連れ回してんだ!」的な事を言って、灰白さんとこがねの吠えられてビビっていた、生意気なパーティの面々であったのだ!


「えっ? マジか! いつ何処で出会った!」


「えっと、闘技大会の予選の時に控え室で絡まれたんだよ。ってか、予選終わった時に俺、この話を皆にしてたぞ?」


 確か、あの時は真司もその場にいたはずなので、この話を聞いていたはずだ。

 ただ、今回賞金首になった奴らの顔を覚えているかまでは分からないが。


「あれ? あぁー、あぁ! 聞いてた聞いてた! あれだろ? 決勝にも出て来れなかった口だけ野郎な奴らだろ?」


「そうそれ!」


 どうやら真司も思い出したようで、後半は嘲笑うかの様に鼻で笑って言っているが、真司も決勝には出れなかったので、お前が言うな状態なのだが、ややこしくやるので俺は黙っておこうとお口にチャックした。


「それで、ヨシタカはどうする?」


 どうとは? と思ったが、もちろん賞金首になったこいつらを追うか? 追わないか? と言う事なのだろう。


「俺としては、これも一種のイベントなんだから、せっかくだったら参加しても良いんじゃないか? と思うに3割。追ってギャフンと言わしてやりたいが7割かな?」


 あれ? 俺が思っていたのとは違って、どっちも賞金首を追う方である。


「それって、どっちみち賞金首を追うって事だよな?」


「そりゃあーそうだろう! 俺がこの世界で一番大事に思っているユッキーに喧嘩売ったんだ! 当然、お返ししなきゃならねーぜ!」


 ガシッと俺の両肩を掴み、かなりの迫力で言ってくるが、おいおいおい、ちょっと待て。その表現の仕方おかしくないか?

 それに、目も何だがギラギラとしているように思う。


「あれれー? もしや、2人はそう言う関係だったりしちゃう?」


 やっぱり、さっきの言い方だと変な誤解を生んでしまったのか、俺と真司にツツツーと近づいて来て、そんな事を言うキャリー。

 しかも、手で口元を隠しているがニヤニヤが抑えられておらず、さらに「俺の大事なー? ユッキーって、2人だけの大事な呼び名かなー?」なんて言う始末!


「あぁーやっぱり誤解されてんじゃねぇーか! おいこら、真司! 変に誤解を生む言い方すんな! それと人前で俺の事をユッキーって呼ぶな!」


 ついつい感情が乗ってしまって俺の事をユッキーって呼んでしまったのだとは思うが、若干、少々、いやほんの少しだけ? 女顔の様な気がする俺としては、女っぽい名前で呼ばれるのはあまり好きではないのだ。


 まぁ、だからと言ってこの顔で誠一郎とか龍之介なんて古風でカッコいい名前が付けられても、あまり似合わないだろうなとは思うけどね。


「誤解を生むって何だよ? 確かに人前でユッキー呼びをしたのは謝る。だが、俺にとってはヨシタカは本っ当に大事な人なんだ」


 真剣味を増した声音でそう言いつつ俺の肩を引き寄せると、ゆっくりと瞳を閉じてゆく真司。

 そんな真司の行動に、「きゃー!」なんて言って目元を両手で隠してはいるが、バッチリ隙間から覗いていて、この状況にはしゃいでいるキャリー。


「キャリー! 見ていないで真司を止めろよ!」


「ヨシタカ!」


「っ!?」


 逃がさないとばかりにぎゅっと肩を掴まれて、頭がパニックになり真っ白になってしまう。

 待てよ。これってもしやアレだったりするのか? こんな人前で本当にするの?


「えっ、ちょっと真司? 嘘だろ。待って、俺達男同士だし、それに、こんな人前で……」


 目前に迫り来る真司の顔を直視する事が出来ずに、思わずぎゅっと目を閉じてしまったが、いくら待っても何の衝撃も来ないので、そろぉーと片目だけ開いて見たら、今にも泣き出しそうな顔をしていた真司は、衝撃的な事を言ってのけた。


「ヨシタカが居ないと、俺のモフモフゲームライフが送れないじゃん!」


「……はっ?」


 俺が想像していたのとは全然全く違っていて、目に涙を浮かべながら切実そうに言い切ったセリフについて行けず、唖然と白けてしまった。


 俺が「もしや人前でアレをされるのではないか?」と、内心ヒヤヒヤして慌てていたのだと言うのに、言うに事欠いてこいつは!


「なんだそれは!」


 俺が思わず怒鳴ってしまったのも納得していただけるだろう。

 別に、アレを期待していたのではないが、だったら誤解を生む様な言い回しや行動は、別にいらなかったのではないかと思うと、これは怒鳴らずにはいられなかったのである。


 俺の怒鳴り声のせいで、キャリーのお店の近くに居た人たちが、「何だ? 何だ?」とこっちに注目を集めてしまったが、アレもこれも全部、変に誤解を生む様な事をした真司のせいだ!

 まったく、真司のせいで、とんだ辱めを受けたわ!


「モフモフ好きの俺にとっては大切な事なんだよぉ〜。ずっと誰かの従魔に触れようとしても、すーぐに逃げられちゃってたんだよー。

 しかも、固定のパーティとか組んで無かったから、テイマーやサモナーの人達が居てもその日限りだったし、この職業はガチでやっている人って人数が少ないんだよ!

 だから、せっかくヨシタカの力で俺の理想とするモフモフパーティが出来上がりそうなのに、それを邪魔する奴はマジで許さん! 俺の理想のゲームライフの邪魔をする奴らは、ギルティだ!」


 最初はガチ泣きしそうだったのに、後半になるにつれてまだ会った事もない賞金首達にメラメラと闘志を燃やしている真司に、俺はポツリと言ってしまった。


「こいつ……真性のバカだわ」



 その後、キャリーのお店を後にした俺達は、一応賞金首を見かけたら討伐しようと言うことになった。

 いかんせん、スノウ達との約束は1週間を切っているのだ。

 もし、すぐに賞金首を見つけて討伐に成功すれば良いのだが、見つからなかった場合を考えると、とんだ無駄足になってしまうからで、いくら東京の中に居るとは言っても、フィールドやダンジョン。それに、町の中の宿屋やショップもあるので、そんな中からたった6人を探すと言うのは、かなり大変なのである。


「まぁ、先約があるから無理に追う必要は感じないかな?」


「ヨシタカがそう言うなら別に追わないけどよ。会ったら絶対にギャフンと言わせて見せるからな! 俺のモフモフパラダイスにイチャモンつける奴は、この俺が許さねぇー!」


「はいはい」


 1人で暑くなっている真司を置いてといて、ここで改めて賞金首の勝利条件を確認してみる。

 勝利条件は、店内のアイテムを盗んで賞金首となっている期間を過ぎれば達成される。

 たったこれだけである。


 ただ、この場合ウィンドウの窃盗を押せば、すぐに賞金首になると言うわけではなく、窃盗を選択して店外に出て始めて、賞金首になるのだ。

 なぜ店外に出なければ賞金首にならないのかと言えば、複数のアイテムに窃盗を押しておけば、店外に出れば元に戻る設定のアイテムを複数盗めると言う訳だ。

 また、NPCショップとプレイヤーショップでは、微妙に違う所があるのだがここでは割愛する。


 今回は賞金首の期間が10日間なので、その期間を無くすのは、ログインをしている最中である事、戦闘行為が出来る場所である事の2つを満たして居ないといけないらしいので、安全地帯であるポータルを使った後にログアウトして期間内を過ぎようとしたり、町で宿などに泊まって期間中ずっと篭ったりしても、賞金首の期限は過ぎないのである。

 さらに、プレイヤーよりもやや強めに設定されているバウンティハンターも投入されているので、賞金首になったプレイヤーが多い割には、成功者の数がかなり低いはずだと納得した。


 ちなみに、この賞金首の期間を逃げ延びたプレイヤーはたったの10人で、その時の最高被害総額が1500万Gだと言うのだから驚きだ。

 それで、その成功者のうち3人はその道のプロらしく、もう何度か成功しているツワモノであるらしいのだ。

 ここまで出来るには、それ相応のスキルと強さが求められるので、それぞれに二つ名が付いて居たりするほどの有名人でもある。

 1人は【怪盗二十面相】もう1人は【鼠小僧】そして、最後の1人が【ファントム】である。


「けど、東京に居るって言っても結構広いじゃん? それで、見つかったりするの?」


「そこでほら、掲示板とかMutterとかが役に立つって訳よ」


 都道府県の中で、土地面積が下から数えた方が早い方の東京であっても、実際にたった6人を探そうと思ったらかなりの苦労が必要になるはずだが、真司はなんのそのとウィンドウを開くと、スイスイと色んな掲示板を開いては情報を集めていた。


「やっぱり掲示板早いな。それと結構目撃情報が多いな」


「ホントだ。けど、同じタイミングで違う場所で見たって書いてあったりするんだけど、これってどっちが正しいんだ?」


 掲示板には、「海の方で2ページ目の奴見つけた!」だとか「明治神宮付近で賞金首6人全員を発見!」だとかが書かれているのだ。


「まぁ、何割かは本当の事を言っているんだろうけど、大半はガセかな? それに、本物見たって人は写真も添付するのが暗黙のルールなんだよ。つまり、写真が無いこのほとんどがガセって訳だ。

 まぁ、人によっては交渉次第で匿ったりもするだろうけど、その場合はバウンティハンターが怖いんだよなぁ」


 バウンティハンターのターゲットは賞金首だけではなく、面白半分で情報を撹乱するプレイヤーは討伐の対象にはならないが、賞金首を匿ったり、バウンティハンターとの戦闘時に、手助けをした場合は討伐の対象になってしまうので、その時の代償は賞金首に比べるとやや低いが、同等程度になってしまう。


 運営から届いた今回のメッセージでは、2ページ目から7ページ目まではプレイヤーの顔写真と名前が記載されている。

 よくアニメや漫画で見るような、茶色い紙に顔写真と名前が書いているあれである。

 今回のことで、ゲーム内の全プレイヤーがこの6人の事を知る事となるが、果たしてその何割が彼らを手助けするのだろうか?

 そして、この期間内に彼らを見つけて討伐する事が出来るのであろうか?


 そんな事を考えながら、俺も掲示板に書かれている情報で、どれが本当の事なのかを探している時に、俺に新たなメッセージが届き、その差出人は白薔薇さん、舞姫さん、唯さんからであった。


『やぁ、ご機嫌いかがかな?

 今回のターゲットは、闘技大会の時にヨシタカ君にイチャモンを付けたと思われるプレイヤーだと思うのだが、合っているだろうか?もし、そうだとしたら我々も賞金稼ぎに参加しようと思っているのだが、どうだろう? ついでに、私の方ですでに見つけていて彼等は新宿方面に居るみたいだ。一応このまま追尾させておく』


『やほやっほー! さっき届いたメッセ見たー? あれってあの時のプレイヤーだよね? やっちゃう? 3人でやっちゃう?』


『久しぶり。ギャフンと言わせるチャンス到来だよ! 文句を言ってきたからには、完膚無きまでにどちらが上かを分からせないとね。うふふ。今ね、そっちに向かっているの」


「おいおいおい。白薔薇と舞姫からメッセ来たんだけど」


「……俺の所には唯さんからもメッセ来てる」


 真司の所にも白薔薇さんと舞姫さんからメッセージが届いたようだが、唯さんからのメッセージは来なかったみたいだ。

 ただ、これは唯さんからのメッセージは見ない方が良いような気がして来た。

 ちょっと唯さん。貴女からのメッセージはホラーっぽくて怖いです。


「マジか。ってか賞金首意外と近い場所にいるな。あと、白薔薇は仕事早すぎだろ? 何をどうしたらこんなに早く見つかるんだ?」


「それはね。白薔薇の従魔達の中で、飛行に特化している子達を組ませて、手当たり次第に探させたんだよ」


「うわっ!」


「っ!?」


 いきなり背後から聞こえた返答に、心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど驚いてしまった。


「やぁ。来ちゃった」


 そう言って現れたのは、先程のメッセージで『こっちに向かっている』と書いてあった唯さんであった。


「えっ? 唯さん何でここに!」


 ひらひらと手を振っていた唯さんは俺の質問を聞くと、頬を染めつつ答えてくれた。


「だって、モザイクかかっていたけど、真司がヨシタカ君も写っている可愛い画像載せてたから、生で見たくて来ちゃった。もちろん、賞金首の方も全力でやるよ?」


 ぐっ! っと、頑張るポーズをする唯さんが言う可愛い画像とは何のことだろうか? 「早く早く!」と可愛らしく急かしてくるけど、検討もつかない。


「可愛いって何のやつですか?」


「ん? 猫耳のやつ。にゃんにゃん」


「っ!」


 頭の上に両手を上げて、猫のポーズをする唯さんにドキッとしてしまった。

 普段、こんな事をしなさそうな人がやった時の攻撃力の高さと言ったら、もう! って、ちょっと待てよ。

 今の説明だと、俺の顔にモザイクが掛かっていたとはいえ、無断で撮られたって事?


「あれ? ヨシタカ写ってた? あっ、マジだ。ごめんごめん。自撮りした時のに入ってるわ」


 真司から該当の写真を見せて貰った。

 写真の7割が猫耳を自慢げに写つしてピースサインをしている真司がいて、その隙間にちょこんと俺が小さく写っているのだが、唯さんってば、これが俺だとよく分かったな。

 確かに、これくらい小さければ見逃してしまうのも分かる。


「うふふ。それで、舞姫経由で送られて来たの」


「なるほど……ぐふふ。ジャジャーン! これが俺の猫耳尻尾っすよー!」


「おぉー! ほらほら、ヨシタカ君も早く早く!」


 ご自慢の猫耳尻尾を見せびらかしてご満悦な真司と、キラキラした目で迫り来る唯さんに挟まれる俺。

 バウンティハンターよりも、厄介な人に捕まってしまった。




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