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猫耳尻尾のキャリーちゃん

 山を登っていた時とは違って、下山している時は合間に薬草や木の実、その他アイテムや出会うモンスターを積極的に討伐していたおかげで、森を抜けた時にはすっかりと夕日が照らしていた。

 さすがにこのままの状態で明治神宮に行こうにも、ログアウトの時間までに辿り着けそうもなかったので、慌ててログアウトをするよりかはここで夕飯でも食べでまったりしようと言う事になり、そのままテントを張ってログアウトした。


 下山中にあっちへ行ったりこっちへ行ったりと色々していたおかげで、クリスティーナの家までの地図があらかた埋まって、アイテムポーチの中には素材やアイテムがたんまりと溜まったので、これを売ればある程度のお金が出来る筈だ。


 俺は今、微々たるものだが貯金中なのである。

 理由はLv50になったら戦える四獣用に、今の内にお金を貯めて武器や防具をグレードアップさせたいのはもちろん、来週に差し迫った海で遊ぶ時用の食べ物のお金も集めなくてはならないからだ。

 いかんせん、俺の所の食いしんボーイと食いしんガール達のおかげで食費が結構掛かってしまうからで、いくら「皆で食材を持ち寄ろう!」と言われていても、多めに持って行かないと悪い気がするのだ。


 ちなみに、今回の海での持ち寄りはほとんどが食材メインである。

 ただ、場所が海という事で、魚介類は海で出てくるモンスターを討伐すると入手する事が出来るらしく、さらにバーベキューコンロは使用しないで、岩で土台を作りその上に網や鉄板を乗せた片付けが楽な簡易版にするつもりらしい。

 意外とバーベキューコンロ一式はいいお値段をしており、安くて3.000G、高くて数万Gするのだ。

 勿論一式なので串やトングなどのバーベキュー用の調理器具や炭も付いててのお値段である。


 俺は舞姫さんから格安で譲って貰ったので、持っていたりするのだが、これは消耗品以外は1人しか所持出来ないと言う欠点があり、料理好きでない人や固定でないパーティでは、使い時が中々無いらしく買う勇気が出ないらしいのだ。


 浮き輪やバーチボールなどの遊具はそれぞれの持ち寄りだし、あとは、「来る途中に枝があったら拾って来て!」と言われている位だろうか?


 なので、山の中に居た事もあり薪になりそうな枝は、数本を束ねた物を5つほど準備している。

 足りなければそこら辺の流木を使えばいいとは真司談だ。


 そんな訳で次の日、俺達は依頼報告のために早速宋雲の元に来ていた。


「はいこれ。頼まれていた依頼の報告書」


「おや? 随分と早いねぇ。さて、それじゃあ早速中身を確認させてもらうよ」


 最初に会った時の様に、足元にポン太を従えて石畳を竹箒で掃いている宋雲を見つけた俺は、別れ際にクリスティーナから手渡された手紙を宋雲に渡した。

 ここからクリスティーナの所まで結構距離があるから徒歩だとかなり時間がかかってしまうが、俺達には夜空がいるのだ。

 そのおかげで、かなりの時間短縮になっている。


「あぁ、確かにクリスティーナの文字だ。ヨシタカ。真司。二人共、このクエストを引き受けてくれて有難う」


 宋雲が中身を読んでいる間にポン太を撫でつつ待っていれば、宋雲は手紙を元に戻しながらそう言いい、その後ウィンドウを操作すると、俺の視界に「クエスト報酬が届きました」と表示されたので、早速ウィンドウを開いて報酬の確認をする。


「では、約束の報酬です。確認して下さい。して、君達はこの後どうするんだい? なんなら、俺と良い事でもするか?」


 さっきまでの格好良さから一転して、早速にやにや笑いの揶揄いモードになってしまった。


「キュー」


 ポン太も呆れた眼差しを宋雲に向けている。


「いえ、結構です。間に合ってます」


 俺はウィンドウに表示されている報酬を確認しつつ適当にあしらえば、宋雲は一瞬キョトンとなるが、すぐに俺を疑うように眉を寄せて、真司の方へと向かって俺に聞こえるように耳打ちをした。


「むむむ。何だかヨシタカの俺に対する対応がキツくないか? 真司もそうは思わないか?」


「それはアレっすよ。ヨシタカもちょっとは成長したと言う事で」


「聞こえてますけどー」


「ふぅーん」


 真司も真司で全く囁きになっていない声で答えた後、何を思ったのか宋雲がこちらにやって来て俺の前に立つと、ジッと俺の事を見下した。


「なっ……何ですか?」


 背が高い上に真顔で迫られた俺は、ちょっと怖気付いて後ずさってしまったら、そうはさせないとばかりにスッと両手で頬を掴まれたと思ったら、モニュモニュと揉みしごかれてしまった。


「君にそんな成長は要らないんだけどなぁ。おぉ、君のほっぺはモチモチだね」


「ちょっ! にゃにしゅるんれすか(なにするんですか)!」


「えっ? 君で遊んでいるだけだよ?」


「最低だー!」


 両腕を掴み離そうと必死に抵抗をしようにも何故かビクともしない上に、ついでとばかりに耳までもコショコショと擽られてしまい、やっと宋雲に解放された時には満タンだった筈の俺の体力が半分近くまで無くなっていた。




「くそう。またやられた」


「まぁまぁ、気にすんなって。あれはもう慣れるしかないさ」


 俺を揶揄い遊んだ宋雲は「ふぅ、楽しかった。では、私はまだ仕事が残っておりますのでここで失礼します」と、揶揄いモードから一転、仕事モードに切り替えてポン太を連れて何処かへと行ったので、ここには俺と真司達しかいない。


「真司くんさー。あれは助けてくれても良いんじゃね? それに灰白さん達も助けてくれないし」


 崩れ落ちた俺の肩にポンっ手を当てて慰める真司に、キッと視線を向けて愚痴る。

 真司は俺が宋雲に弄られっぱなしの間、一切助けようとはしなかった。

 それに、何故か灰白さん達もずっと俺が弄られている間傍観しているだけだったし。


「それはあれだ。灰白達は敵意の無いNPCには自分から攻撃行為が出来ないんだよ。主人に命令されれば別だけど、さっきのは戯れているだけだと判断されたから攻撃判定にはいらなかったんじゃね? ちなみに俺は面白かったから黙って見てた!」


「ちょっ! おまえー! 行け! 俺の従魔達!」


「うおっ! ちょっ痛い! そこは地味に痛い!」


 灰白さん達の回答の方は納得したが、真司の無慈悲な回答は納得出来ないので、サムズアップしてキリッとした顔をしている真司に、灰白さん達をけしかけた。

 頭上では鳥達の啄み攻撃が炸裂しており、灰白、魔白、こがね、夜空が四隅をガッチリホールドしている。

 そのおかげでその場から動けない真司は、ガッチリと頭上からの攻撃を受けている。バッチリな連携プレーだ!


「うぉおおおお! こんなに動物に接近されたの生まれて初めてーーー! うひょひょひょひょー!」


 いや、この攻撃方法はダメだ。

 普段動物達に避けられている真司からしたら、こんなに接近してくれるのはご褒美であった様で、とろける様な顔をしつつ縦横無尽に灰白さん達を撫でくりまわしている。

 さすがに背中を頭で抑えている夜空を触る事が出来ないみたいだが、それ以外の従魔達は真司の魔の手から逃れる事が出来ずに揉みくちゃにされてしまい「ちょっと、これどうしたらいいの?」って顔でこちらを見て来たので、これ以上はやっても無駄だと判断して解散を告げた。


 ○


「はぁはぁ。至福のひと時でした」


 その後、今日のもう一つの目的地である真司オススメの海パンが買えるショップに向かっているのだが、俺はその場所が分からない。

 なので真司に先行してもらい、その後ろを皆で付いて行っている。

 そして真司だが、移動中ずっと上機嫌で話しかけているが、そのほとんどが独り言の様なもので、いかにさっきのモフモフを堪能しただとか、あれはこうしてああすればもっと堪能出来たとか、俺にとっては実にくだらない事を延々と聞かされる羽目になってしまった。

 さらに俺からは表情は見えないが、きっと素晴らしい笑顔なのだろう。

 はっきり言って変態過ぎて引く。


「次からは別の方法を考えないと、お仕置きじゃなくてご褒美になってしまう」


「えー。変えなくていいよーずっとそのままでいいよ〜っと、見えて来たぞ。あそこで海パンが買えるぜ」


 真司が指差す先には大きな塔があり、そこに向かっている様であった。

 塔の外壁には壁画が施されている様で、今描かれているのが8月いっぱいまでの期間限定の壁画なのだそうだ。

 大体壁画は3〜4段階に分かれていて、一番上が空模様。二番目が海。三番目が海の中の動物達。そして、最後の4段目が浜辺で遊ぶ人達が描かれている。

 このイラストは、月に一回投票で選ばれている様で、誰でもイラストを投稿する事が出来るし、誰でもイラストに投票する事が出来るみたいだ。


 そして塔は下から上に向かって細くなっているのだが、細いとは言っても先端が尖っているわけではなく、その先端部分の面積が大体東京ドームとどっこいどっこいだと言うのだから、塔の下の部分は一体どれほどの広さなのかと驚いてしまった。


 その塔がある場所は、明治神宮から南に向かった先の、リアル世界で言う所の渋谷駅の辺りにあって、その塔の中には沢山のショップが入っているそうだ。


 また、こっちとは逆の北の方の新宿駅がある辺りだと駅の代わりに町があって、そこも色々なショップが入っているらしい。

 ただ残念な事に、その間にある若者の街として有名な原宿の竹下通りは、距離の都合上なのかawo内では町として存在していなかったのだが、ショップの方は健在で新宿方面の町と今俺たちが向かっている塔の中に分かれている。

 と言っても、新宿と渋谷にあるほとんどのお店がプレイヤーショップなので、リアル世界にあるお店はこっちでは少ないみたい。


 そんな話を真司から聞きつつ塔の入り口に辿り着いた俺達は、早速中へと入り真司オススメのショップまで進んでいく。


「うっわ。広ー」


 塔の中は物凄く広いうえに天井も高く、その中央部分には螺旋階段になっている様で、右回りが上り階段で左回りが下り階段になっている。


「ヨシタカ、はぐれるなよぉ? はぐれたら迷子センターで呼び出すからな?」


「うわっ。この歳でそれは恥ずかしいな」


 スイスイと人を避けながら階段の方へと進んでいた真司がピタッと止まり、ニヤッと笑いながら言う。

 確かに塔の中は大型のショッピングセンターの様で、プレイヤーはもちろんNPCの人達も沢山いるので、ちょっとでもフラフラと勝手に行動をしてしまったら、完全に迷子になる位に広いのだ。


「まっ、実際迷子センターなんて無いけど、この中から探すのって結構しんどいからマジではぐれるなよ? 何なら、俺の手でも握っているか?」


「いや、さすがにそれは恥ずかしいわ。見失いそうになったら濡羽としじまに道案内してもらうから大丈夫だろ? なっ?」


「カァーー!」


「ほぉーー!」


 ちょっと先を行く真司の後に続きながら、さすがに男同士で手を繋ぎながら進むのは周りの視線とかが気になってしまうし、いくら何でも其処までの勇気は無いので断わった。

 それに、いざとなったら俺の所には濡羽やしじまがいるのだ。

 2羽に頼むと「任せろ!」とでも言う感じに、ムフーと胸を突き出して自信満々に答えたので、これだけ自信満々に言うし索敵能力の高い濡羽としじまだったら、軽々と見つけてくれるはずだ。


「俺は別にヨシタカと手を繋いで歩いても恥ずかしく無いけどな」


「えぇー。嘘だぁー」


「マジだって。だって、恥ずかしさよりも探す方が面倒くせぇもん。それよりここの3階にキャリーの店があるんだ。ちなみに、キャリーはめっちゃ可愛いぞー!」


 そんなたわい無い話をしながら3階にあるお店へと向かっていたら、そこにはとても目立つ人物がいた。

 彼女は店内を巡回中の様であり、陳列されている服や小物で数が少なくなっているものを補充している様であった。

 そんな彼女の耳が忙しなく動いて、こっちの方に耳を傾けたと思った瞬間には、俺と言うよりかは顔馴染みである真司に気づいたみたいで、パァと顔を輝かせるとテテテテーと小走りで真司の方へと駆け寄って来た。


「あれー? 真司じゃーん! めっちゃ久しぶりだねー!」


「よう、久しぶりだな! にしても、今日の猫耳も可愛いな!」


 二人してハイタッチをした後に、真司は遠慮も無くキャリーの頭上でピン! と立っている猫耳をモミモミし始めた。


「ふふーん。いくら可愛いって褒めても割引にはしないぞー! だって、キャリーが可愛いのは当然の事だからね!」


 揉まれていてもなんのその! ぴこぴこ動く耳にフリフリと尻尾を動かして、腰に手を当てて胸を張る彼女こそ、真司から見せてもらったSNSに「夏物セール中!」と書いていたこのお店の店員であるキャリーなのであった。


塔は10階と地下2階分あります。

地下はデパ地下、1階から5階までが衣類や小物、雑貨類でそれ以上が武器や防具のテナントが入っています。





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