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クリスティーナとエリザベート

いきなり寒くなりましたね。

そして雨雨雨。

早く晴れてほしいものです。

「あら、その手間はいらないわよぉ」


 そう木々の間から聞こえた声にランタンを向けた先には、ぼんやりとした照らされたこじんまりと全身が黒のローブに包まれている老婆が佇んでいるのであった。


「私の子供達が騒いでいたから来てみたら、まぁ! 可愛い子達がたくさん」


 見た目からの推測だが、おそらくこの人が俺達が探していたテイマーかサモナーの魔女のはずだ。

 さすがに黒のとんがり帽子は無かったが、これぞ魔女って格好をしているからね。


「あなたがまじょ……」


「あっ、あらあらまぁまぁ、あなたずぶ濡れじゃない。そのままでは風邪を引いてしまうわ。私のお家にいらっしゃいな」


 俺が「あなたは魔女ですか?」と聞こうとしたら、俺と灰白さん達から真司の方へと視線を向けて、真司がずぶ濡れになっている事に気が付いた魔女が、口に手を当ててつつもう片方の手の平をパタパタと縦に振って、トテテテテと真司の元へ駆けて行くのだが、その、なんだ。

 もうかなりのお年だからかな? 走っているのだがその速度はかなり遅い。

 そして、さっきの俺の言葉は完全にスルーされてしまったようだった。


「トール。エリーにお風呂のお湯を張っておいてって、言って来てちょうだい」


「グアァッ」


「さぁ、あなた達はこっちよ」


 湖から顔を出していた亀に伝言を頼んだ後、魔女は「逃さないわよ!」とでも言うように、呆然と魔女と亀の成り行きを眺めていた真司の腕をガシッと掴むと、グイグイと水上ハウスへと続くだろう橋へと進んで行くので、俺も置いていかれない様に2人の後を追いかけた。


「さぁ、貴方達あそこが私の家よ」


 魔女が指差した先には、1人で住むにはかなり広い2階建ての建物が有ったが、俺達はそれどころでは無かった。


「おおう。柵無かったら落ちそうだな」


「一歩踏み外したら湖にダイブだからね」


 あまり視界のよく無い中手摺りを頼りに進み、お互いに橋の感想を言いながら渡たった先は魔女家の玄関へ直接繋がっているようで、その玄関先では仁王立ちしている人影が見えた。


「まったく、いきなり飛び出したきりでさっきの伝言も何なんだい! 答えなティーナ!」


 玄関に設置してあるライトによって、俺達からは逆光になってしまって顔が良く見えないのだが、声からしてお怒りモード全開のようだ。


「あらぁ、ただいまエリー。お風呂の準備はしてくれたかしら?」


「ふん! お帰りティーナ。それは抜かりないさ……おい、この後ろに付いているわちゃわちゃした付属品は何だい?」


 しかし、それを完全にスルーしてのほほんとした雰囲気で真司を引っ張りながら家の中に入ろうとした時に、エリーと呼ばれた魔女が思いっきり真司の腕を掴かんで行く手を塞いだ。


「エリー。この子達はお客様よぉ」


「「どうも」」


「……はぁぁぁぁぁああああ?」


 シルエットで見ても分かるように、さっきから怒りん坊っぽいこの人の服装も、これまた全身真っ黒だった。

 真司の腕をまだ掴んでいるティーナと呼ばれている魔女とは違い、エリーと呼ばれた魔女はスッキリとしたスタイルの気の強そうな女性であり、当たり前だが突然の俺達の登場で思わず大声を出してしまったようだった。


 俺は思いっきり出された大声に両手で耳を塞が事が出来たが、両腕を掴まれている真司は何の防御も取るこ事が出来ずにモロに浴びてしまった。


「あらあら、もうエリーったら! そんな大声を出しちゃったこの子達が驚いちゃうじゃ無い!」


「だぁーーもう! ティーナはいつもこうだよ!」


 真司の腕を掴んでいた手をペイッと放り出して、やってられないとばかりにさっさと家の中へと入って行く。


「さぁ、あなた達もいらっしゃい。私のお家へようこそ」


 この短いやり取りだけでも、完全にこの2人の力関係が分かったような気がした。




「ブプッ!」


「お風呂ありがとうございます」


 ピンクの大きくなったミニ豚サイズの豚系モンスに案内されて、真司が風呂場から戻って来た。


「いいのよ。道案内ご苦労様ねピーブー」


「ぶぶっ!」


 魔女に頭を撫でられてご機嫌の豚ことピーブーは、そのまま俺の元に来て「プヒプヒ」と小ちゃい尻尾をフリフリしながら寄って来て、フンフンと俺の匂いを嗅いで興味津々の様で、そんなピーブーにうちの灰白さん達も興味津々である。


「あなたも良かったら後で入りなさいな」


「あっはい。ありがとうございます」


「それじゃあ、改めて自己紹介でもしようかしら? 私はテイマーの魔女。クリスティーナよ」


 クリスティーナさんは、童話に出てくる様な可愛らしいおばあちゃん魔女で、丸っこくコロコロとしている。髪は薄紫色でふんわりとしている。


 その、テイマーの魔女ことクリスティーナさんは、ひとまず先にずぶ濡れ真司を風呂場へと連行した。


 awoでは通常時であったら別に濡れていても自然乾燥で数分もあれば元に戻るのだが、寒い所で濡れたままでいると、水やられと言う状態異常になってしまうのだ。

 水やられは一定時間ステータスを全体的に下げてしまうので効果であり、リアルでは熱を出した時のような怠い感じを想像してもらえれば分かるだろうか? 取り敢えずそんな感じの状態異常だそうだ。

 これで熱喉鼻に異常があれば、まんま風邪の症状である。


 そして、真司を待っている間に俺達はリビングに移動してお茶をいただきつつ、宋雲さんからの依頼であるポン太印の茶葉をクリスティーナさんに渡したのであった。

 頂いているお茶はポン太とは違うぶんぷく茶釜から作られた茶葉を使用しており、こっちの子は主に紅茶系を中心にしているそうだ。


「俺はヨシタカです。こっちは俺がテイムしている従魔達で、このウルフが灰白、兎が真白。雀達が紅緒に露草とさえずりで、この子が雷獣の黄金。こっちの2羽が濡羽としじま。それで、最後にこの子が夜空です」


 俺に名前を呼ばれる毎に一声鳴く灰白さん達を、クリスティーナさんはニコニコ笑いながら見ていて、もう1人からはジロジロとした目線が飛んで来ている。


 ただいまの座席順は、円形のテーブルに座っていて、俺の正面に2人の魔女がいる形になっている。

 もちろん俺の左には空いている椅子があったのだが、そこにはピーブーに案内されて来た真司が座っている。


「俺は真司ッス。あっ、あれってもう渡したか?」


「真司が風呂に入っている間に渡したから大丈夫だよ」


 後半は小声で俺に問いかけて来たので、俺も小声で返す。


「ふん。最後は私かい? 私はエリザベート。サモナーの魔女だよ」


 エリザベートさんは、クリスティーナさんに比べるとスッキリとした長身の老婆で、背筋がスッと伸びてて綺麗な人だ。

 ちょっと悪役に出て来そうな、美人だけど気の強そうな顔立ちをしていて、髪は深緑の長髪を三つ編みにして肩に掛けている。

 そして、エリザベートさんは怒りん坊さんでは無くて、ツンデレさんのようであった。


 それは俺がクリスティーナさんから紅茶を貰った時に、エリザベートさんは「角砂糖は何個だい? ミルクはこれに入っているから好きに使いな。あぁ、その青の小瓶には蜂蜜が入っているよ。それともレモンの輪切りでもでも浮かべるかい?」と甲斐甲斐しく説明をしてくれたのだ。

 俺が「ありがとうございます」と言うと、最後の最後にツンデレの定番である「別にあんたの為じゃ無いからね! 私も使うからついでに説明しただけさ!」と言う言葉を頂いたのだ。


「さぁさぁ時間も時間だから、皆で夕飯にしましょうか? うふふ。エリー、久々のお客様で何だかはしゃいでしまうわね!」


「ふん、それはティーナだけだ。ほら、ヨシタカは何してんだい? 夕飯が出来るまでに風呂に入っちまいな!」


「あらあら、それじゃあ案内はピーブーにまた任せましょうか? 真司はこちらに来て手伝ってくださる?」


「イイっすよぉー!」


「それじゃあ、案内よろしくね」


「プビゴォ!」


 これは、真司がお風呂に入っている間に聞いたのが、こうやってクリスティーナとエリザベートの元へやって来るプレイヤーは、ゲーム開始の最初の頃は途切れる事なくやって来ていたようなのだが、今ではほとんどやって来なくて少し寂しいのだと話してくれた。

 従魔はたくさん居るのだが、やはり人と長い間会わないのは、それはそれで心に来るものがあるようで、なので今はお互いの家を順番に行き来して居るのだとか。

 だから、今日俺達が来た時にクリスティーナの家にエリザベートが遊びに来て居たと言うことだった。

 ついでにエリザベートの家の場所を聞いてみたら、ここから更に奥の方にあるらしいので、時間があったら遊びに行ってみようと思った。




「ふー。なんか、2人のそんな話聞いちゃうと、向こうのばぁちゃんの事考えちゃうなぁ」


 湯船に浸かりながらふと、祖母へと思いを馳せた。

 向こうとは父方の祖母の事で、母方の実家に比べると距離もあり中々顔を見せていないのであった。

 もちろん向こうにも向こうの親戚はいるのだが、どうやら母方の親戚の様に密集しているわけではないので、没交渉と言う訳ではないが頻繁に会う様な距離感ではないらしいのである。


 ちなみに俺の母親や親戚のおばちゃん達は、時間が空いていたら祖父母の家に遊びに行ったりしていて、かなり頻繁に顔を出している様で、そこで色々と愚痴ったりしているみたい。


「それにしても、まさかの檜風呂とは。そしてこの夜景である」


 水面に浮かぶ家だけでも滅多にお目にかかれないのに、さらにお風呂まで付いているだなんて現実世界では考えられない様な事だが、さすがはゲーム世界という事なのだろうか?


「あぁー。でも、まさかゲーム世界でまでお風呂に入れるだなんて思わなかったなぁ」


 この時は知らなかったのだが、実はお風呂は作る事が出来るのだそうだ。その場合、火と水の魔術を使えなければダメなんだとか。

 あとは、日本の地形をモデルとしているので温泉も至る所にあるみたいだが、温泉の効果でお肌ツルピカー! にはならないらしい。

 その代わりに攻撃力UPや防御力UPなど、ゲーム特有の効果が付くのだそうだ。


 普段家でもシャワーしか浴びてなかったので、久々の湯船に浸かって温まった俺は、再びピーブーに案内されてリビングに移動すると、そこでは既にテーブルにいっぱいの料理が並んでいたのだった。


「やっと風呂から出て来たか! せっかくの夕飯が冷めちまう。さっさと席に着きな!」


「遠慮しないで、たくさん食べてねぇ」


 エリザベートに言われて席に着いた瞬間に、クリスティーナから汁物料理が入った器を渡された。

 汁物料理はゴロッとした肉と根菜がたっぷり入ったホワイトシチューだ。

 それ以外には、バターの香りが漂うホカホカのロールパン。そのロールパンに付けるようにバターやジャム、蜂蜜などが置いてある。

 他にはグリーンサラダがあり、その上にはドレシッングと細かく切った木ノ実がかかっていて、メインは白身魚のムニエルとチーズ&目玉inハンバーグである。

 これだけでも十分なのにクリスティーナは「オムライス食べる? あっ、パスタでも茹でようかしら?」なんて言うので、俺と真司で必死に遠慮しておいた。


 テーブルの真ん中にシチューが入っている鍋とグリーンサラダがあり、個別用のお皿にそれぞれクリスティーナが装って行き、ロールパンはバスケットに溢れんばかりに乗っていて、そこから好きに取っていいようだ。


 もちろん灰白さん達の分は別に分かられているので、このテーブルに乗っているのは俺達の分と言う事になる。


「うふふ、デザートにケーキもあるからねぇ」


「量が半端無い!」


 クリスティーナ達のムニエルやハンバーグは1個ずつなのに、俺と真司のは2個ずつお皿にあるのだ。

 それにまだまだ沢山あるシチューやサラダ。


「これは、あれだな。田舎のばぁちゃん家に行くと、食い切れないほど飯を出される的なやつだな!」


「あぁー。あるある」


 そんな会話を挟みつつ夕飯を頂くことになったのだが、シチューのお皿を空ける度にクリスティーナが椀子そばの様にどんどんと装ってしまう。

 遠慮しようにも、あのニコニコ顔で「たんとお食べ」なんて言われると「要らないです」なんて言えずに、俺と真司は胃袋の限界を感じながらもなんとか全部食べ切る事が出来た。

 もちろんデザートのケーキも完食である。

 ケーキは生クリームを生地で包んだ、シンプルなロールケーキであった。

 ただし、これは残念ながら丸々3本もあったので、2.5本は灰白さん達に丸投げした。

 うちの子達がいっぱい食べる子で本当に良かった!


「ふぅーお腹いっぱい」


「だなぁ。こんなに食べたのいつぶりだろう?」


 ゲーム世界なのでリアルとは違い、いくら食べてもお腹が膨らむ事は無いのだが、何となく真っ平らなお腹を撫でながら食後の休憩を挟みつつ、紅茶を頂いている。


「うふふ。お口に合ったかしら?」


「はい。美味しかったです」


「まぁ、嬉しい。そうだわ、2人共今日はここに泊まって行きなさいな! ちょっと待っててね。2階のお部屋のベッドの準備をしてくるから!」


「えっ!」


 そう言ってクリスティーナはまるで少女の様に顔を輝かせると、俺達の返事も聞かずに部屋を出て行ってしまった。


「遠慮するんじゃ無いよ。ティーナは世話を焼くのが好きなんだ。存分に焼かれな」


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


 そのまま、戻って来たクリスティーナに捕まってしまい、活動時間ギリギリまで4人でお喋りに興じたのであった。

実は、ヒッソリと家の至る所にクリスティーナの従魔がいたりします。

エリザベートは気に入った相手に対しての、さり気無いフォローが得意です。


今月中まで活動報告にて海に参加するメンバーを募集中です!



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