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イケメンさんと課題

 偶然明治神宮で知り合ったスノウ達とは、彼女達の夏休みの最終日である8月31日に海で遊ぶ約束をしてから、お互いに攻略する次の場所が違っていたのでここで別れた。

 ここに寄ったのは補給とご飯がメインで、お互いに偶然ここで会うだなんて思ってもいなかったのである。


 また、「自分達の知り合いを誘って友好を広げよう」と言う事で、参加者を増やしても良いと言っていたけれど、俺の知り合いってほとんどが高Lvプレイヤーの変態改め変人奇人な人が多いんだよなぁ。

 中にはちゃんと真面目な人も居るんだけど、真司含めてどうしても濃い人達なんだよな。

 何だか今回の集まりには誘い難いメンバーであるが、一応誘うだけ誘ってみようかな? あっ、あの人達だったらスノウ達でも大丈夫かも。


 そして、この後は何をするのかも話した時に、俺達が「特別戦闘スキルを解放させるから今日はここで色々やる予定だ」と言った際に、「羨ましい!」だとか「解放シーンを見たい!」なんて言われたけれど、スノウから「ご迷惑になるから止めなさい!」とまたハリセン付きでキツく言われて、渋々別れた感じであった。

 委員長タイプで、真面目そうなスノウは色々と大変そうである。




「確か掲示板によると、絶対にこの敷地内に居るはずなんだけど……見あたらねぇな」


 スノウ達と別れた後、宿泊スペースでチェクインをして万全の準備を整えた後に、明治神宮内で目当ての人を探していた。


「この広い中、たった1人探すのって大変だな」


「まぁな。ただ、結構分かりやすい目印をしているはずなんだよな」


「あぁー。まぁ確かに」


 別に悪口で無い。大切な事なのでもう一度言うが、別に悪口でないが、特別戦闘スキルを解放してくれる人が、ここだと狸を連れた和尚さんであるらしいのだ。

 つまり、狸を連れてスキンヘッド(別名禿げ)で袈裟を着た人を探せばいいのだが、いかんせん探す範囲が明治神宮と森全体なので、結構広いのだ。

 それに、さっきからチラホラと和尚さんは見当たるのだが、肝心の狸連れの和尚さんが居ないのである。


「ダメだな。端まで来ちまったから戻るか」


「うーん。和尚さんどこぉー?」


 あれこれ1時間以上ウロウロして居るのだが、未だに和尚さんと遭遇出来ていないのは、物欲センサーならぬ人用のセンサー的な何かが発動しているせいだろうか?


「一旦本殿の方へ戻るか」


「そうだね」


 宝物殿の先まで来ても和尚さんは見当たらなかったので、一旦本殿の方へと引き返すことにした。


「ん? なぁ、真司」


「どうした?」


 地面に大きく十字を描くように、本殿まで続く石畳から外れた所に大きな木があるのだが、そこに竹か木の枝で作られたと思われる箒を持った和尚さんが居た。

 しかも、その足元にはポプンとしたふわふわな尻尾を持っている狸付きだ!


「あれがそうじゃね? やった! やっと見つけた!」


「おぉー! でかした! 早速行こう」


「すいませーん!」


「はい?」


 和尚さんの足元をテシテシと、立ち上がって何かを催促する狸の頭を撫でるために、しゃがんだ和尚さんの元へ俺達は声を掛けつつダッシュで駆け寄ると、首だけこちらを向いた和尚さんと目が合った。

 すると彼は、すくっと立ち上がると体全体をこちらに向けてくれたのだが、何という事でしょう!

 声を大きくして言いたい!

 この和尚さん、すげぇイケメンさんだぁー!


「おやおや。可愛らしいお客さんですね? 如何なさいました?」


 スッと切れ長な瞳で、さらにちょっとつり目な感じなので、真顔だったらちょっと怖い印象で、さらにスキンヘッドなので余計に迫力を感じるのだが、今はふっと柔らかい雰囲気を出しつつ微笑んでいる。

 身長は、俺の頭が大体和尚さんの首元なのでかなり高く、俺も真司も見上げる形になっているし、体も見えている所がゴリマッチョって程では無いのだが、俺が羨む位には男の体をしている。

 まぁ、見えているのは首元と手だけだけどな!


 クソゥ! マジで羨ましいぞ。この野郎! しかも、俺の方を見ながら可愛いとか言いやがって!

 俺はこの女顔じゃ無くて、そっちの顔の方が良かった!


「ぐぬぬぬぬ」


「おいおい。どした? 顔がかなり残念な感じになっているぞ?」


 ちょっとした嫉妬に、顔が残念な事になっていたらしく真司に心配されてしまった。


(俺にとってはお前もどちらかと言うと敵だからな!この残念イケメンめ!)


 と思いつつ、キッと真司を睨み付けるとハッとした顔になり「ゴメン。ゴメン」と後ろに下がりながら謝る。


「ふふっ。ほらほら、眉間に皺を寄せると残ってしまいますよ? そんな顔のままでは可愛らしい顔が台無しになってしまいますよ?」


 人が悪いこの和尚さんは、さらに笑顔を深くして俺の眉間に寄った皺を人差し指でクルクルと回した後に、ポンポンと頭叩かれた。


「ちょっ! からかわないで下さい!」


「あはは。君、そうやって意地になる所も可愛いなぁ」


 頭を叩かれていた手を払い、イケメン和尚の方にも睨み付けたのだが、彼は軽く笑った後に、そのままクイッと俺の顎を掬うと、鼻と鼻が付きそうな程かなり近くまで顔を寄せられてから、イケメンボイスで囁いた。


「うわぁー! この人も変態だーーー!」


 ついつい、数時間前に考えていたフレンドの人達の事もあり、プレイヤーだけで無くNPCまで俺の近くには変態しか集まらないのかと、思わず和尚さんを突き飛ばしつつ絶叫してしまった。




「アッハッハッハ。ゴメンゴメン。そんなに怖い顔で私を見るなよー。思わず滾っちゃうだろー?」


「……」


 場所はあそこで立ち話も何だと言う事で、と言うかあそこで騒いであれ以上の注目を浴びたくなかったので、本殿内の一室へと案内された。

 目の前には和尚と狸が座り、俺の隣には真司が座って居る。

 和尚さんと真司は正座だが、「慣れていないなら正座で無くて大丈夫だよ」と言われたので、俺だけ胡座だ。

 その俺達の後ろには灰白さん達が大人しく座っている。

 いや、俺の苛立ちを感じたのか、和尚さんに向けてガン付けているのが数匹いるっぽい。背中にゾクゾクとした視線を感じる。


「ブフッ。失礼。……そう。例の和尚。マジでウケる。……あっ? それは抜かりなしだぜ!」


 俺と和尚さんのやり取りに真司が吹き出した事に謝罪を入れた後、小声でヒソヒソと何かをしているが、それは無視だ!

 今の俺の敵は目の前の和尚だからだ!

 絶対にさっきのような事はさせんぞ! と闘志を燃やす。


「ほら、ポン太も俺の代わりに謝ってよ」


「キュー」


 相変わらず俺が変質者を見るような目でジトーと和尚さんを見つめて居たら、流石の和尚さんも気まずくなったのか、隣の狸のポン太に助けを求めるが、当のポン太は俺と和尚さんの顔を見比べると、ふるふると顔を振って一声鳴きつつ、器用にしょぼん顔となって和尚さんの足に前足を乗せて「諦めろ」と諭した。


「えぇー。……まぁ、いっか。君達は私を探して居たのかな?」


「そうです」


 和尚さんも狸と同じしょぼん顔になったが、直ぐに諦めたのか、最初に会った時の様な雰囲気に戻った。


「……ほら、ユッキーも機嫌直せって!」


「だってさー」


「ここの和尚は、狸みたいに人を化かすって有名なんだよ」


「いや。あの顔は狸じゃ無くて狐だろ!」


 和尚さんに聞こえない様に俺の耳元で小声で囁く真司に不満気に答えると、真司はさもありなんって顔をしつつも、ここの和尚さんについての事を教えてくれた。

 どうやらここのNPCの和尚さんは有名人だったみたいで、人を揶揄い化かすのが大好きなのだそうだ。

 ちなみに、どちらかと言えば狐っぽい顔なのに、何故狸をお供に連れているかといえば、「何と無く雰囲気が自分と似ているから嫌だ。まだ、狸の方が可愛げがある」と同族嫌悪の様であった。


「それで、私に用があると言う事は特別戦闘スキルについてかな?」


「……はい」


「ふふっそんなに警戒しなくても大丈夫だよ。別に取って食いはしないから。それじゃあ、特別戦闘スキルの取得についての説明を「あっ! 許可証はすでに持ってます」


 そう言って許可証を取り出した真司に習い、俺も自分の許可証を出すと和尚さんはちょっと驚いた顔をした後に、少し意地悪そうな笑みを浮かべつつ「何だぁ。許可証持ってたのかぁ。せっかく私が手取り足取り教えようとしたのに」なんて言うから速攻で断ったら、真司と和尚さんに爆笑された。


「それじゃあ、改めまして。私は宋雲。ここの責任者みたいなものだよ。さぁて、準備は出来ているみたいだし早速取り掛かろうか?」


「「はい。お願いします!」」


 さっきまでのおふざけモードから一転して、和尚さん改め宋雲からピリッとした雰囲気に変わり、俺も姿勢を正す。


「先に真司からやるよ」


「ウッス!」


 そう言って真司の目の前に置いてある許可証を手に取った宋雲は、表と裏を見て書き残しがないかを確認するとお経を唱え始めた。

 お経と同時に許可証にも変化が生じ、紙だった物が光り輝くと幾何学模様の魔法陣へと変わった。

 その魔法陣が二つに別れ、真司の頭と足元に移動すると、上下から真司の体を通って行きちょうど真ん中、心臓の辺りで上下の魔法陣が合わさりあうと、今度は輪の部分がどんどんと狭まって行き真司の体の中へと吸収された。


「解放」


 最後に宋雲が閉じていた目をカッと開きながら唱えると、真司の全体を包む様に一瞬だけ光り輝く。


「はい、終わり。次はヨシタカの番ね」


「うわぁ」


「クフフ」


 宋雲がパンと一拍した後に、俺に向けてウィンクを飛ばして来たので思わず引いてしまい、そんな俺達を見た真司の肩が小刻みに震えて、今にも腹を抱えて笑い出しそうだったが、その後は大体真司と同じ様な事だったので、俺も宋雲の絡み以外はあっさりと特別戦闘スキルを解放出来たのだった。




「うん。ちゃんと戦闘スキルに登録出来てる」


 特別戦闘スキルが解放出来たのだから実践で使い心地を試してみようと、明治神宮の鳥居を抜け出した先の草原に向かっていた。

 今現在の俺の戦闘スキルは、片手剣・小楯・テイマー・僧侶の4つであり、初心者にしては盛り過ぎだと真司に言われたのだが、俺も「そうだよなぁー」と思っている。

 普通のプレイヤーならば、せいぜい1つか2つを同時展開している人が多く、稀に3つ持ちの人が居るか居ないかなのだそうだ。

 何がどうしてこうなったかは俺にはサッパリだが、「はたから見るとチートしてんのかって思われて嫉妬させるかもね」なんて真司に言われたが、俺からして見たら気付いたらこんな風になってたんだから、今さらどうしようもないじゃないか。


 それで、何故鳥居を抜け出そうとしているのかと言えば、森の入り口にある鳥居はあちこちにあって、その鳥居を含む森全体が明治神宮の敷地内である為、戦闘行為が禁止されているのだ。

 なので、新しいスキルを手に入れた俺達は早く使ってみたいと、早足で森の出口の鳥居に向かっているのだ。


「ルールは3対3で、それ以外は闘技大会の時のルールで良いか?」


「良いよ。それじゃあ、組み分けどうしようか?」


 鳥居から少し離れた場所で俺達は3対3の対戦をする事にして、その組み分けについて話し合った。


 一応の補足で対戦と言っても、このまま真司に攻撃してしまうとPK行為になってしまうので、ウィンドウの機能の一つである対戦モードと言うのを使っての戦闘になる。

 この対戦モードとは、人数、制限時間、勝利条件などを設定すると、闘技大会の様な対戦をする事が出来るのである。

 この対戦モードと通常の戦闘との違いは、対戦モードが終わったら始める時と同じ状態になるので、戦闘で負ったダメージが元に戻るのだ。

 さらに自分よりも強敵と戦えば、たとえ負けても働きによっては経験値が入手出来るのである。


「先にそれぞれの素材を活かした組み分けで良いんじゃないか?」


「と、言うと?」


「ユッキーは回復で、俺がステータスに付与付けだから、最初の一戦はユッキーが属性持ちで固めて、俺がその耐性をつける形だ」


「なるほど。なら、俺は紅緒、露草、こがねから選ぶか」


 残念ながら聖属性のさえずりは、他と比べてLvが抜きん出ている為に、今回の対戦モードでは全戦観戦である。


「だったら、鳥'sで良いんじゃないか? ちょうど3対3になるだろ?」


 と言う事で、第一回戦。俺(紅緒&露草)VS真司(濡羽&しじま)の戦闘が開始した。


 その間の灰白さん達には見張りをお願いしたが、夜に比べると出てくるモンスターの数が少ない為、のんびりと日向ぼっこを満喫している様だった。


「紅緒! 露草! やって来い!」


「何の! エンチャント『火耐性』! エンチャント『水耐性』! ほら、お前達お返しして来い!」


 対戦モードが始まってすぐに、紅緒と露草による属性攻撃が濡羽としじまに向かって行くが、真司によるエンチャントの効果で2羽はダメージを負うか負わないかのギリギリの所で避けて、鋭い嘴や爪先での攻撃を仕掛けて来た。

 さすがに烏と梟が相手だと、いくらかのLv差はあれど雀では飛行能力で負けてしまっているので、攻撃を回避しきれずにダメージを負ってしまっている。

 ただ、こちらも負けじとある意味自爆行為だが、近距離での属性攻撃をあてている。


「ヒール! ヒール!」


「エンチャント『火耐性』! エンチャント『水耐性』!」


 特別戦闘スキルを解放したばかりなので、お互いにスキルの効果が低い為、俺と真司は攻撃には参加せずに、ひたすらサポートに徹していた。

 ただ、効果は低くても今までの戦闘に比べたら戦闘時の持久力が歴然であった。




「うーん。勝ったのは嬉しいけど、MPがスッカラカンだ」


「あれだな。ご利用は計画的にだな」


「確かに、後半でバンバン使っちゃったからなぁ」


 初戦はLvの差と僧侶のスキルのおかげで俺達のチームが勝利する事が出来たが、慣れない事をした為に俺のHPは満タンだが、普段はあまり使わないMPがほぼ底をついていた。


「まぁ、俺も課題が見えて来たな。ふぅ、俺しばらくは魔法系を鍛えるわ」


  真司の方はと言うと、どうやら攻撃力や防御力の付与は付与術師のLvが上がると上昇するらしいのだが、それとは別に属性関係の方は、属性を付ける時もその耐性を付ける時も魔術師の各属性の影響が出るみたいで、効果を上げるには今まであまり使っていなかった魔術師のLvを上げる必要があるみたいだった。


「まぁ、まだログアウトまで時間はあるし、ニ回戦行きますか?」


「よっし! 今度は俺が絶対ぇ勝ってやる!」


「はっ! そうは簡単に行かせるか!」


 さっき負けたのが悔しかったのか、やる気に満ちる真司に対して、俺も負ける気は無いので消費した分のMPを回復しつつ次の対戦モードを始める。


「今度は俺も攻撃すっからな!」


「えぇ! 何それひどい!」


「酷くねぇよ!」


 そのまま俺達はメンバーを入れ替えて戦ったり、途中でMP回復薬が無くなったので補充しに行ったりして中断はあったりもしたが、夕暮れになるまで何回も対戦モードを繰り返した。

はたして、真司は誰に連絡を取っているのでしょうか?

宋雲が絡む相手は、反応が楽しそうな人を選んでます。

そんな宋雲に目をつけられたヨシタカ。

がんばれ!

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