いざ、明治神宮へ
最近の俺はゲーム内へログインをしたら、一先ず先にアイテムポーチからブラシを取り出すのが日課になっていた。
それは従魔達とのコミュニケーションと好感度上げを兼ねているからで、この好感度が低いと我儘になり言う事を聞かなくなってしまうからである。
それ意外にも、好感度が高いとやる気ポイントが上がるらしく、攻撃力や防御力、クリティカル率が上がるのである。
なので、逆に好感度が低いとやる気ポイントが下がり、戦闘時などのパフォーマンスが下がるので、テイマーを習得した場合はこまめに従魔とのコミュニケーションが大事なのだと、先輩である白薔薇さん達に教えて貰った。
また、それと関連してテイム出来るモンスターには種族値が10段階別で設定されており、同じLv帯でも能力に雲泥の差が付いてしまったり、色々と育て方が変わるらしい。
例えば、俺がテイムしている雀達の種族値は1段階目で灰白さんは2段階目なので、比較的テイムしやすく、懐きやすくて育てやすいのだが種族的には弱い。
他のモンスターだと、唯さんが使役しているドラゴンは8段階目で、お父さんやマチさんがテイムしていて、俺にちょっかいをかけて来た人型のモンスターは7段階目である。
10と9は神や悪魔、天使などである。
種族値の値が高いほど、テイムし難くなりプライドが高いらしく懐き難くなるのである。
そりゃたとえ同じLvでも、雀とドラゴンではステータスに雲泥の差があって当然である。
話を戻して、そんな好感度を上げるには色々な手段があるのだが、俺が1番力を入れているのがブラッシングである。
理由は簡単で、タダだからである。
一応それ以外にも、毛並みが綺麗になって触る時に気持ち良いって言うのもある。
「ギャッキャウ〜♪」
「ここ?」
「ギャウ!」
今はこがねをブラッシング中で、テントの中では灰白さん達他の従魔は順番待ちの最中である。
ただ、夜空はサイズ的にテントの中には入れないので、外で待っていてもらっている。
中にいる皆はそわそわと、「まだか? まだか?」と順番を待っているのだが、昨日真司の魔の手から救う事を諦めた負い目から、こがねが終わるのをジッと待っている様であった。
俺も助けには行かなかった負い目から、こがねが満足するまではひたすらブラッシングする予定である。
「ギャウ〜!」
チラッとこちらを見ながらフサフサの尻尾で、自分の手が届かない尻尾の付け根ら辺を「ここ! 次はここやって!」と指示をしてくるので、それに応える様にブラッシングをすると気持ちがいいのか、グデ〜ンと溶けてしまったかの様に伸びてしまったのだが、思いの外伸び過ぎである。
「こがねって猫みたいだな」
「ぎゃう?」
「ユッキー来てるー?」
「いるよー」
ちょうど夜空をブラッシング中に、ひょこっと真司が顔を出しながらやって来た。
「いいなー。俺も皆のブラッシングやりてぇーなー」
「残念。全員分たった今終わった所です!」
「ブルルフン!」
馬用ブラシをアイテムポーチへとしまいつつ、ポンポンと夜空の体を叩けば、「えー。もっと早めに来れば良かったー」などと真司は言うが、真司はブラシを持っているのだろうか?
俺はなんだかんだで3個のブラシを持っているのである。
灰白さん達獣用に1個。鳥用に1個。馬用に1個である。
先輩達なんかは、各従魔専用のブラシを持っていると豪語していて、「あそこのアレがどうだ」とか「これ使うと髪がサラサラになるから超喜ばれる」とか「これ欲しいって強請られたから買っちゃった」とか言っていて、ブラシだけでアイテムポーチの1ページがまるまる埋まるとか言っていたっけ?
アイテムポーチは通常だと箇条書きにズラーっとスクロールが出来る程縦に並んでいるんだけど、ページとアイテム別で設定すれば、10×10の100アイテムを1ページに纏めて掲載する事が出来るので、持てるアイテムが多くなる程に後者のやり方でやっているプレイヤーの割合が多くなるのだそうだ。探すのに便利だからだとも言っていた。
「それで、今日中には目的地に行けるよな? もう回復系のアイテムがヤバイから補充したいんだよ」
「ああ、大丈夫だせ。……何だったらユッキーも薬師取るか? ちょっち取るのに時間掛かるけど自前でアイテム作れるぞ?」
朝食を食べならが今日の事について話すと、真司からそんな事を言われた。
ちなみに今日の朝食は俺手製のホットドッグとミネストローネである。
ただし、俺がやった事と言えば売店で買ったソーセージとパンを焼いて乗せたり、ミネストローネを温めただけなのだが、それでも灰白さん達は美味しそうに食べている。
ちなみに、夜空はよく食べるので、それ以外にも牧草なども与えている。
「んー。今はなるべく攻略を進めたいんだ。
俺、修学旅行以外だとほとんど東京以外行った事ないし、東京内だとしても混雑具合を考えちゃって観光地ってあんまり行かないから」
「そっか。まぁ、ユッキーがそう思っているんなら無理には勧めねぇーよ。けど、取ろうと思ったら遠慮なく言えよ!」
そう言うとガバッと大口を開けて、ホットドッグに噛み付く。
「あぁ、そうする。けど、やっぱり職業的なのを取っておくと効果って違うの?」
「そふぁへふぁうらお!」
「いや、飲み込んでから言えよ」
頬をパンパンにハムスターの様にしながら、自身の職業の自慢もあるのか、サムズアップしつつ目をキラキラさせながら真司は言うが、俺には何を言っているのか全く分からない。
そんな真司は、すぐに口の中のを飲み込んだら、コップを手に取り水も勢い良く飲み干すと薬師に付いて熱く語り始めた。
「ってな訳で薬師ってのはさ、やり甲斐のある職業なんだよー!」
「へー。中々に便利だけど、それなりに大変なんだな」
「まぁな。習得するにはNPCの薬師の所で弟子入りか、既に俺みたいに薬師を持っているプレイヤーに弟子入りしなきゃ習得出来ねぇけど、やっぱりNPCのショップにあるやつに比べると、効果は段違いだからな!」
確かに真司の言う通りに、俺が持っている回復薬と真司から借りた手製の回復薬を見比べて見ると、回復効果は2〜3割程度上がっている。
ただし、この手製の回復薬の場合は回復効果が違っている為、NPCショップでは売る事は出来ないみたいなので、もし売るならば自身でショップを開くかプレイヤーショップに売り込むみたいだ。
仮に、俺が同じ回復薬を作ろうと思えば、レア度に応じて成功率と効果が下がるらしい。
「だから、今回のこれの報酬で俺は付与術師を取る予定なんだよ。そうすれば、さらに違う効果をアイテムに付与出来るからな! まぁ、その為には色々とLv上げしなきゃだけど」
そう言って一枚の紙をヒラヒラと揺らす。
もちろんその紙は、この前手に入れた特別戦闘スキル「僧侶」と「付与術師」を習得するために必要なアイテムである。
「マジか! 俺は昨日の事で、回復切れの場合も考えて僧侶にする予定だったんだ」
「おお! 綺麗に別れたな」
「だな!」
昨日の戦闘により、テイマーのデメリット部分を改めて認識したのである。
これがプレイヤーであったら、アイテムポーチ内に入っている回復薬を人数分用意する事が出来るから、もし、自分の分の回復薬が無くなったら他のプレイヤーから貰う事も出来るのだが、従魔の場合はさえずりの様な回復系の属性を持っていなければ回復手段が無いのだ。
そこで、俺が僧侶を習得して回復手段を入手すれば、今後夜の攻略がマシになると考えたのだ。
「たしか、僧侶って結界も使える様になるんだよな? 無差別級で唯さんと戦っていた人がそうだったと思うんだけど」
もう1週間も前になる闘技大会の時の事を思い出しながら聞けば、「えぇーと…あったあった」と真司はウィンドウで何かを探すと、何を見つけたのか俺にも見える位置に体をずらした。
「この赤毛の人だろ?」
「あぁ、そうそう! この人この人!」
ウィンドウに映されていたのは、俺が思い出していた闘技大会の時の映像であった。
「やっぱり、結界術って便利そうだなー」
「いやぁーここまで行くの結構ハードだぞー!」
「ワン!」
2人で同じ映像を何回も見て感想を言い合っていたら、ぬぼっとウィンドウを突き破って灰白さんが出て来た。
どうやら結構時間が過ぎていたみたいで、「目的地に行かないのですか?」と心配してくれたみたいだった。
いけない。いけない。熱中し過ぎて灰白さん達を完全に放置してしまっていた。
急いで出発の準備を整えると、早速目的地である明治神宮へと向かった。
移動中にモンスターと遭遇する事もあるのだが、戦闘せずにそのまま素通りして先に進めば、ある程度は追ってくるが途中でUターンして戻って行く。
ただ、やっぱりウルフなどのスピードもあり攻撃的なモンスターの場合は、戦闘にもつれ込む事もあるのだが、やはり夜に比べると出現するモンスターの数も少なく感じるので、あっという間に目的地に到着する事が出来た。
「うわぁ、ほぼほぼ森」
さっきまで平原だったのだが、ポツンと森の入り口の様に立っている鳥居を見つけたのだ。
どうやらその鳥居の奥に明治神宮があるみたいで、鳥居を潜り一本道の森の中を、夜空にゆっくりと歩く様に指示を出して周りを見ながら進めば、見渡す限り木ばかりであった。
「えぇー。これちゃんと着くよな?」
「ブハッ、当たり前だろ? それにリアルでもこんな感じで森に囲まれてるんだぜ? ログアウトしたらググる先生で見てみろよ」
「へぇーマジかぁ。夏とか虫大変そう」
などと会話しつつどんどん先に進んで行けば、チラホラとプレイヤーもいるようで、ついに明治神宮へと到着する事が出来た。
「やっと着いたー!」
夜空から降り、本殿を見上げながらググーと体を反らしつつ言うと、俺の後ろに乗っていた真司も降りて来て早速マップを確認している様だ。
「おう。お疲れさん。取り敢えず先に宿取ってからショップで補充でもするか?」
「そうだね。その後で戦闘スキルを習得して
試してみたいかな?」
真司が表示している明治神宮内の詳細マップを見ながら俺がやりたい事を言えば、真司も乗り気の様でニヤリと笑い同意する。
「ウッシ。そうと決まれば早速行こうぜ!」
もはや定番になりつつある、周りのプレイヤーからの視線とヒソヒソ声を久しぶりに感じつつ、受付と思われる所へ向かうと、どうやらショップも併用されているみたいだったので、ついでに色々なアイテムを補充して行く。
「あれ? ヨシタカ君?」
「ん?」
「あっ! やっぱりヨシタカ君だ! 久しぶりだねー!」
ショップで買い物をしていたら、俺の名前を呼ばれたので振り向けば、そこに居たのは闘技大会の予選ぶりに会うスノウ達であった。
「いやぁ、見覚えある後ろ姿と可愛い動物達を見つけてもしや? って思ったんだけど、まさか……さらに従魔が増えているとは」
「「ヨシタカ……恐ろしい子!」」
スノウの言葉の後に続く様に、双子の息ぴったりの言葉とポージングをして、周りはクスクスと笑うなか、真司が会話の中に入って来た。
「ちょっと失礼。ここで立ち話もなんだし、奥に飲食スペースがあるからそっちで話さね? ついでに各々の紹介をしてくれると助かる」
そう言われて、受付の奥に飲食スペースがあったので、そちらに移動してそれぞれの自己紹介をして行く。こちらでは、新しく増えた従魔や真司の紹介だ。
「えっと、こちらは真司。リアルフレンドで俺にこのゲームを誘ってくれた人。それで、新しく従魔になったのが夜空、濡羽、しじまだ」
「ブルルルフン」
「カァー」
「ホォー」
1匹ずつ指差しながら紹介すれば、「よろしくー」と一鳴きずつしつつ、濡羽としじまに至っては「よっ!」って感じに片羽も上げつつ挨拶する。
「ヨシタカから紹介に上がりました真司だ。今は槍を使っているけど、本来は刀を主に使っている。Lvは400前半位」
「うえっ! めちゃくちゃ強いじゃないですか!」
今の真司の装備は俺と似た様な感じなので、Lvを聞いたスノウ達メンバーはめちゃくちゃ驚いている。
一応真司も闘技大会に出て居たんだけど、あの時は新撰組っぽい装備だったから同一人物とは見られなかったみたいだ。
「いやぁ、そうでもねぇぞ? 俺初期組だし」
「あっ。って事はですよ? 最強とヨシタカ君が知り合いっぽかったのは、真司君繋がりって事ですか?」
「うーん。まぁ、そんなもん?」
「だいたいは合ってるかな?」
ポンっと手を打ちスノウが聞いて来た内容に
、俺と真司は曖昧に答えた。
なぜなら、真司は唯さんとは知り合いでは無かったけど、真司のフレンドである舞姫さん経由で紹介して貰ったから、まぁだいたいは合っているはずだ。
「それじゃあ、次はこちらが自己紹介しますね」
そう言って、主に初対面の真司の為にスノウ達の自己紹介が始まった。
俺が初めて知った事と言えば、六人とも同じ高校の同級生だって事で、リアルでもほとんどこの六人でいるほど仲が良いらしい。
「そうそう、お二人は8月の最終日って空いてますか?」
「うん? 俺は特に予定は無いけど、真司は?」
「俺も特に無いかな?」
「でしたら、一緒に海に行きませんか?」
「おぉ、せやな! 人数多い方が楽しいやろ?」
「もふもふ!」
「うにゅ〜。夏休みの最後の思い出なの〜」
「「もちろんポロリもあるよ!」」
「ちょっ! ポロリは無いわよ!」
双子の衝撃発言に、またしてもスノウのハリセンがスパパーン! と良い音を出しながら炸裂したけど、やっぱりあのハリセンは何処から出しているのだろうか?
「それで、どうでしょう?」
いそいそとハリセンをしまいつつ、こちらに恥ずかしそうに上目遣いで聞いてくるスノウに、俺達は特に異論は無かった。
「それじゃあ、東京の海って言ったら千葉との県境が良いんじゃねぇかな? まだLv50以下ならループで遊べるし」
「あっそれ、聞いた事ある〜!」
「「はいはーい! それ、やってみたーい!」」
「それじゃあ、当日に現地集合やな!」
「時間はこちらから連絡しますね」
「分かった。当日楽しみにしてるね」
こうして、思わない所から海へのお誘いがやって来たのであった。
夜空以外にも、足りなければ従魔用の携帯食料を与えています。
真司は、暇な時間が出来たら、そこら辺に生えている薬草などを使って生産活動をしてます。
残念な事に、ゲーム内でのポロリは出来ません。




