恐怖!夜のawo
最近暑いですねー!
夏なのに今週はしかも台風もちょこちょこ来てて、夏なのに雨ばっかり!
皆さま体調と台風にお気をつけて下さいな。
「そっちに3つ行ったぞ!」
「了解! …フッ!」
目の前に迫る火の玉の中央より、やや下に位置する核目掛けて、右下から斜め上に斬り上げる。
「キーーー!」
「ハッ!」
「チュン!」
そして、すぐさま俺の胸部よりも下に浮かんでいる火の玉の核に、真上から真っ直ぐ下に叩き斬るのと同じタイミングで、もう一体いた火の玉に露草が放った2つのウォーターボールが当たる。
「「キーーー!」」
核を失なった2体の火の玉は、甲高い悲鳴の後に、「ボッ!」と音を発しながら、勢い良く破裂して消滅すれば、辺りはシーンと静まり返った平原だ。
空には真っ白な月と夏の大三角形が見える。
周りを見渡すが、新しい敵の姿は無いようで、むしろ、ぼんやりと俺達の周りを照らしていた火の玉が消えた事で、月と星の明かりに照らされた闇だけが広がっている。
さすがに都会の様な街灯なんて無いから、少し距離が離れて仕舞えばそこから先は真っ暗なのだ。
「よっし。だいぶユッキーも慣れて来たんじゃね?」
自分の身長よりも長そうな槍を肩に乗せつつ、こちらに来た真司にそう言われたのだが、俺としてはまだまだの様に感じた。
「うぅーん。慣れたって言っても、まだ鬼火だけだからね。まだ他にいるんでしょ?」
「当然!」
そう言うと真司は槍をシュンシュンと回してピタッと止めて、アニメで見る様なカッコ良いポーズをして見せた。
「ドヤァー!」
わざわざ、言葉にしなくても……
「……」
「おいおいおい、黙んなよ! 何か感想言ってよ!」
「わぁ〜真司カッコいいー!」なんて言うと調子に乗りそうなので、「どう? どう? さっきの俺カッコ良くね?」って感じで、俺の周りをひょこひょこしている真司を無視し、地図を見ながら次の目的地に向かって進む。
今日向かっている先は、明治神宮だ。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、始まりの街に近いんだから直ぐに行けばいいと思うかもしれないが、明治神宮はちょっと他の場所と違いボス系のモンスターがいないのだ。
だから、そのまま行くと旨味が少ないのだと真司が言っていたが、今回は、特別戦闘スキルを解放する為に向かっているのだ。
また、今日の俺達は普段とは違って、夜のawoをプレイしている為、辺りはシーンと静まり返っており、昼間とは違った雰囲気の東京は、闇の中から今にも何がが飛び出して来そうなので、いつもよりも注意深く辺りを気にしながら久しぶりに徒歩で進んで行く。
さすがに無灯火で夜の乗馬は怖かったのだ。のちのち対策が練れたら、夜の乗馬を練習しようと思っている。
さて、何故今日は夜にプレイしているかと言えば、真司が「夏休み中は昼間にプレイ出来るけどさ、学校始まったら休み以外は夜にしか来れないじゃん? だから、夜のawoも慣れとかないとな!」と、昨日LINEで連絡して来たのだ。
確かに真司の言う通り授業が始まってしまえば、滅多な事が無い限り昼間にプレイするなんて出来ないのだ。
一応、俺達が通っている大学には無線LANが飛んでいて、場所によっては仕切りがあり半個室の様になっている場所があるから、VR機本体を持って行けば遊べるっちゃ遊べるんだけど、ネカフェの様に鍵付きの部屋ではない為、意識が向こうに飛んでいる間は現実世界の体は無防備な訳で、貴重品が盗まれる可能性がある。
なので、授業がある日の昼間にプレイは出来ないので、夜がメインになるだろうからと、今から慣らしていると言う訳だった。
「ブァフ!」
槍の性能や派生の仕方を真司から教わりながら歩いていて暫くすると、灰白さんから「敵を感知した」と吠えて教えてくれて、そのまま先行して行く灰白さんの後を付いて行くと、また数体の鬼火がふよふよと浮かんでいるのが目に入った。
「げっ、また鬼火か」
先程も戦った鬼火が相手で、ゲンナリする。
「まぁ、そう言うなって。ユッキーには関係ないだろ?」
「そうなんだけど、皆平等に経験値が入らないじゃん?」
俺がゲンナリした理由は、鬼火の性質にあった。
この鬼火、火属性を持ち自身がすでに燃えている様な状態なので、鬼火の体に触れると状態異状の火傷になってしまうのだ。その火傷にならない為には、武器か魔法で攻撃するしかない。
なので、灰白さんや真白達のように直接攻撃しかを持っていない従魔は火傷の恐れがある為観戦である。
例外は紅緒かな? 同じ火属性だから、属性攻撃の効きは良くないけど、火傷にはならないから直接攻撃出来る。だから、鬼火が来た場合は半分近くが観戦になってしまうのだ。
まぁ、火傷を恐れずに攻撃しても良いんだけど、火傷の性質上あまりやって欲しくないのだ。
だって、戦う度に火傷にやってしまうと、回復薬とかの消費が半端無いのだ。
ちなみ状態異状の火傷は、一定時間ジワジワとHPが削られて行く。
直すには自然回復か、火傷薬か万能薬を使うしか無い。
しかも、それだけではなくこの鬼火。普通に周りの炎を攻撃してもダメージが入らないのだ。では、どうすれば良いのかと言うと、ちょっと前に戦っていた鬼火の様に、それぞれの核を破壊すれば良いのだが、その核がまた小さいのだ!
耐久値はかなり低めみたいなのだが、だいたい、親指と人差し指で丸を作ったくらいのサイズなので、それに上手く攻撃して破壊しないといけないのだが、これが中々難しいけど、出会ってしまったからには戦わなくてはアイテムと経験値が手に入らない!
「それは言っても、しょうが…っない!」
「キーーー!」
早速真司が一体やっつけて次の鬼火へと向かって行ったので、俺も俺に近い鬼火に向かって攻撃を開始した。
「よっと! ッセイ!」
数打ちゃ当たると言うもので、数匹しかまだ相手にはしていないけれど、最初の時と比べればだいぶ様になって来た様に思う。
こちらに体当たりをして来た鬼火に盾で弾き返しつつ、怯んだのか一瞬動きが止まった隙を逃さずに、急所へと向かって斬りつけると、直ぐに鬼火は全滅した。
「やっぱ、鬼火は斬り斬りごたえがねぇな」
「グルルルル」
直ぐに討伐出来てしまう鬼火に不満を言う真司だったが、灰白さんがある一点を見つめて唸りだしたので直ぐに戦闘体制に入ると、今度は3匹の骨だけの狼と鬼火、更に人型で俺と同じ片手剣装備の、骸骨のモンスターが出て来た。
のは良いんだが、骨を見てちょっと尻尾振っちゃう灰白さん。
こらこら、美味しそうに見えるのかな? 一応敵だから油断しないでよ?
「スケルトン系のモンスターは、鬼火と一緒で心臓付近に核があるからそれ狙えよ? そうしないと再生するからな? ちなみにあれは、スケルトンウルフとスケルトンソルジャーな」
初見のスケルトン系のモンスターは、骨格標本の様だが、本来空洞となっている目の部分が仄暗く、紅く灯っている。
更に、その色と同じ物がそれぞれの心臓の位置にある。恐らくあれが核のはずだ。
「了解! 皆聞いたか? 鬼火は俺達がやるから、先にスケルトンを頼んだぞ!」
カタカタカタカタ!
俺がそう言い終わった瞬間に、スケルトンソルジャーが俺達に剣を向けると、スケルトンウルフが飛び掛かって来た!
「ガウッ!」
「ブフフフフン!」
「ブゥ!」
飛び掛って来たスケルトンウルフに、灰白、夜空、真白がそれぞれ体当たりで防けば、スケルトンウルフはバラバラになって地面に骨が散乱するのだが、直ぐに核を中心に骨が集まりだして元の姿に戻ってしまった。
だが、所々の骨は体当たりの衝撃で砕け散って地面に残っている。
「あっ、ユッキーは鬼火じゃなくてソルジャーやって!」
「えぇっ!」
「何事も経験経験! ほら、ソルジャー来たぞ!」
初見の相手に少し戸惑いが見える灰白の方に加勢はしたいのだが、先に鬼火の討伐をしなければならないので、そっちに攻撃を仕掛けようとしたら、真司にスケルトンソルジャーの方を指差しながら言われてしまい、驚愕するが俺と目が合った?スケルトンソルジャーが剣を振りかぶりながら襲いかかって来た!
「こんのっ!」
振りかぶった剣を盾で受け止めつつ、グッと力を込めて弾き返すと、スケルトンソルジャーはたたらを踏んだ。
さっきの剣を受け止めた時も思ったが、骨のみの身体だからか攻撃が軽い。
「くそっ! そこっ……なんだけどっ!」
真司が言うように、心臓付近にある核に目掛けて攻撃を繰り返すのだが、俺の攻撃をスケルトンソルジャーも剣で弾いたり躱したりして、骨や剣が邪魔にとなって中々有効打にはならない。
有効打にならない状態に、ちょっと焦りだしたのだが、最初に灰白達がやった事を思い出した。
「……こんのっ! 倒れろ!」
「……ッ!」
何も俺がスケルトンソルジャーに体当たりした訳ではなく、スケルトンソルジャーが振りかぶった攻撃を盾で防いだ時に、無防備になった脇に目掛けて蹴りつけたのだ。
戦闘スキルが格闘家では無い俺の攻撃の威力は微々たるものだが、衝撃はそのまま通るので身体が軽いスケルトンソルジャーは、骨をばら撒きながら崩れた。
「再生なんかさせるか!」
「ガッ……ガガッ!」
崩れて直ぐに再生が始まったが、そうはさせじと露わになった核を叩き割れば、スゥーとスケルトンソルジャーの目の光が消えるのと同時に、辺りに散らばっていた骨も消えていった。
「ふぅー。やっと終わったぁー!」
「お疲れの所悪いんだけどさ、次が来ているんだ」
初見のモンスター相手に、1人でよく頑張ったと思う! 良くやった俺! と、ググッと
上半身を伸ばしつつ、やったー! とバンザイのポーズを取ったのだが、直ぐに真司から信じられない事を言われた。
「はっ? 今なんて?」
「いや、だから、次が来てるんだって。そら、そこ」
そう言って指差た方向を見れば、確かに真司の言う通りにモンスターがこっちに向かってやって来ている所であった。
しかも、次に来たのはゾンビとスケルトンの混合部隊である。
「とりあえず、スケルトンはさっきと一緒な。そんで、ゾンビは聖属性と火属性に弱いからさえずりと紅緒がやってくれ」
「「チュン!」」
ヤル気満々の紅緒とさえずりは真司の指示に従い、ゾンビの方へと飛んで行く。
「あっ、おーい。相手アーチャーだから弓には気をつけろよ!」
言われてスケルトンを見て見れば、さっき俺が倒したスケルトンソルジャーとは違い、弓を所持しているのが見えた。
そんなスケルトンアーチャーは、ズゾゾズゾゾと足を引きずりながらやって来るゾンビの背後に陣取り、弓を撃ってきた!
狙いは先行していた紅緒とさえずりみたいだが、狙いが甘かったらしく軽々と避けてはお返しとばかりに、属性攻撃をゾンビにお返しした。
『ヴァァァアアアア』
「あれはスケルトンアーチャーだな。ここにはいないけれど、あとは魔法を使うソーサラーがいるな。骨だから重いもの持てないみたいで、基本はこの3つだ」
「うへぇー。ゾンビキモいよー。グロいよー」
ゾンビの雄叫びを聞きながら、真司がスケルトン系の特徴を教えてくれるが、グロいのが苦手な俺は顔を痙攣らせながら聞いていた。
「えっ? ユッキーあれでもうダメなの?」
真司があれって指差したのは、長髪の髪を振り乱し頭蓋骨が半分無くなって脳みそが飛び出しているのだとか、眼球がちぎれかかっているのだとか、内臓が飛び出しているのとかがいるのだ。
「無理。かなり気持ち悪い」
「へーー。なら、どこらへんまで大丈夫なんだ?」
「うーんと。ホラーのビックリ系はけっこう好きだけど、恐竜のやつとかエイリアンみたいなグロい系は苦手」
何を呑気にしているんだ? と思われるかもしれないが、すでに残っているスケルトンアーチャーには、灰白さん達が向かってしまっているのだ。
ここで、俺達が行っても過剰戦力になってしまうので、呑気に観戦である。
「……なんかさ、さっきから思っていたんだけど、エンカウント多くない?」
そう、昼間に比べると5分も経たないうちに、何かしらのモンスターと会ってしまうのだ。こっちからモンスターを探している訳ではないのに、さっきから出会う頻度が多くなっている気がした。
「あっ? あぁ、そうだなー。awoの夜の場合は、昼間プラス夜限定のモンスターが出て来る上に、夜にやっているプレイヤーの人数が昼よりも多いみたいだから、モンスターの数の比率も高めに設定してるってなんかで読んだ気がする。
……あれ? 誰かから聞いたんだっけ?」
「えぇー夏休み終わったら大変じゃん!」
「そうか? 経験値とアイテムガッポリじゃん!」
初心者の俺には、今の頻度の出現率でもう精神的にけっこうカツカツだ。
これをソロでやるだなんて事になったら、早々に死に戻りすると思うな。
「まぁ、敵モンスターと戦闘したくないんだったら、補助スキルのサーチや気配察知を取れば、何処にモンスターがいるかが分かるぞ? あと、気配遮断があるとモンスターから見つかりにくくなるな」
「なるほど! それじゃあ早速」
・サーチ
一定の範囲内に何があるか分かるスキル。
Lvが上がるにつれて探せる範囲と精度が上がるが、相手のLvやレア度が高いほど見つけにくい。
・気配察知
一定の範囲内にいるモンスターまたはプレイヤーの気配を察知する事が出来る。
・気配遮断
気配を遮断するため、敵またはプレイヤーから見つかりにくくなる。
それぞれのスキルポイントは5ポイントずつだったので、習得する事にした。
なんせ、俺の夏休み明けの生存率に関係するスキルだからね!
「まぁ、ポータル使えば簡単に安地だけどな」
「……あーー! そうだった!」
真司からの後出しでうっかりやってしまった感があったが、ポータルのデメリットでモンスターに敵として認識されてアクティブモードの状態では、ポータルを使う事が出来ないので、いざという時の為に取っておいて正解だったのだと自分を説得した。
「疲れたー! 真司ーちょっと休憩していい?」
俺が新しい補助スキルを取った後は、ひたすら北上しつつ襲って来るモンスターを倒して行ったおかげで、真司の言う通りにLvが上がってアイテムもけっこう入手出来たが、さすがにノンストップでここまで来たので、疲れてしまった。
休憩しようにも次から次にやって来るんだから、安心出来る場所など無かったのだ。
「そうだな。ここまでけっこうハイスピードで来たから、ちょっと休憩挟むか。それじゃあ、見つかる前にとっととポータル出して……」
「ん? どうした」
ウィンドウを操作していた真司だったが、何かあったのか唖然としつつウィンドウを見つめていたが、直ぐにトンットトンとステップを踏みながら後退した。
何が何だか分からなかったが、異常事態が発生したのだろう。
普通だったら、ウィンドウはプレイヤーから一定の距離を保っているので、真司が下がったらウィンドウも釣られて下がるのだが、真司が出したウィンドウはその場に固定されている。
それによく見たらノイズが走っていて、遠くの方に井戸のような……
「ごめん。ゆっきー。来ちゃった」
「アーーーーー! マジか、嘘だろーーー!」
思いがけず、恐怖の強制戦闘が始まろうとしていた。
くーるーきっとくるー!
何がくるー?
奴がくるー!
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